6-4

 呆れているかんな様と一緒にエレベーターに乗って、私の部屋へ。テーブルにはすでに二人分の夕食が用意されています。事前に私が運び込んでいたものです。さすがにちょっと冷めてしまっていますけど、こればかりはどうしようもありません。


「ん。豪華」


 用意されている夕食は、たっぷりのソースがかかった大きなハンバーグに、サラダ。コーンスープに大盛りのご飯です。本当ならいくつか並ぶ料理から自分で選ぶ形式だったのですけど、さすがにそれは部屋ではできないので、この料理を選んで持ってきました。選んだのはもちろん私です。


「ん……。さつき。ちょっとだけ、我が儘を言ってもいい?」

「はい。何でしょう」

「おにぎりが、いい」

「おにぎり、ですか。えっと……。おにぎりの形にするだけでも、いいですか?」


 かんな様が頷いたのを確認して、私はすぐに手をよく洗って準備をします。かんな様の分のハンバーグを小さく切り分けて、次にご飯を手の上へ。切り分けたハンバーグを具にしておにぎりにしました。時間を優先してただの丸いおにぎりになってしまっていますが、かんな様はそれで満足しているようです。


「ありがとう」

「いえいえ」


 かんな様のご飯を全ておにぎりの形にして、私は自分の席に座りました。


「いただきます」


 かんな様と一緒にご飯を食べます。かんな様は早速とばかりにおにぎりを食べます。無表情は変わらないのですが、嬉しそうに見えました。




 夕食後は食器をレストランに返して、部屋で待ちます。この後は自由時間です。お風呂は一階の浴場に時間内に入ることになっています。


「ただいまー!」


 明日香と叶恵が戻ってきました。二人とも、戻ってすぐにお風呂の用意をしています。


「さつき。先にお風呂にしましょう。後に回す人が多いみたいだから、今ならすいているわよ」

「あ、そうなんだ? じゃあ私も行こうかな」


 私も手早く準備をします。お風呂はゆっくりつかりたいので、混雑の中で入るのは避けたいところです。三人で準備をしていると、かんな様が声をかけてきました。


「さつき。私は一晩、このホテルを散歩してくるから」

「え? 一晩も、ですか?」


 このホテルは小さくはありませんが、けれど大きなホテルでもありません。一通り見て回るのにそれほど時間はかからないはずです。

 私の声に、明日香と叶恵がちらりとこちらを見てきたのが分かりました。けれど何も言うつもりはないのか、黙っていてくれています。


「ん。せっかくの合宿なんだから、友達と交流しなさい。私となんて、いつも話しているでしょう。邪魔しないようにするから」

「邪魔だなんて、そんな……」

「さつき」


 どうやら私が何を言っても無駄なようです。私は仕方がないとため息をついて、頷きました。

 せっかく一緒に来たので、色々と話をしてみたかったのですが……。


   ・・・・・


 さつきたちを送り出して一人になったかんなは、少し待ってから部屋を出た。さつきにはホテル内を散歩すると言ったが、実はやりたいことが別にある。せっかく雪の多い土地に来たのだから、作ってみたいものがあった。

 かんなが本来いるあの町は、雪は降るが積もりことはあまりない。そのために普段は作れないものだ。

 ホテルを出て、その側のちょっとした庭園になっている区域に行く。春や夏なら季節の花々が咲いているのだろうその場所も、冬の今は雪に覆われてしまっている。だからこそ、かんなのちょっとした目的には都合がいい。


 庭園の隅にはいくつかの雪だるまが並んでいた。他の宿泊客が作ったものだろうか。かんなはそれを一瞥して、よしと頷いた。早速雪玉を作り始める。

 雪だるま。雪が積もるたびにこっそり作っていたもの。気づく人は少なかったが、雪が積もるたびに社の裏には小さな雪だるまが飾られている。もちろん、かんなのお手製だ。ちょっとした暇つぶし程度のものだが、これが結構好きだったりする。


 ころころと雪玉を転がして大きくしていく。無表情に雪玉を大きくする少女。見られていたら少し危ないような気もするが、もちろん誰かに見られる心配はない。ただし、雪玉が勝手に転がっていくのを見られる可能性はあるが。常にホテル側を警戒しているので、きっと大丈夫だろう。

 ころころころころ。ごろごろごろごろ。気づけば最初の雪玉はかんなの背丈と同じサイズになっていた。


「…………。やりすぎた」


 ついつい楽しくて夢中になっていたが、これは次を載せられないのではないだろうか。むむ、とかんなが唸っていると、


「何やってるんですか……」


 呆れたような声が背後からして、かんなは内心でとても驚いた。無論表情には出ないが。振り返ると、さつきがかんなと雪玉を交互に見ていた。暖かそうな上着を羽織っている。さつきのすぐ後ろには、明日香と叶恵の姿もあった。


「なんで気づいたの?」

「どこを探してもかんな様が見つからなかったので。もしかしてと外に来てみたら、かんな様が雪玉を転がしていて少し驚きました」

「ん。雪だるまでも作ろうかなって」

「雪だるま、ですか?」


 不思議そうに首を傾げるさつきに、かんなは内心で照れくさく思いながらも頷いた。


「趣味、みたいなもの。雪が積もったらいつも作ってる」

「それは、初めて聞きました……。でも大きすぎません?」

「ん。調子に乗りすぎた」


 さつきの言う通り、雪玉は少し大きすぎる。かんな一人では頭となる雪玉を載せられない。困った、とかんなが言うと、さつきは薄く苦笑して言った。


「それぐらいなら手伝いますよ。ちょっと待ってくださいね」


 さつきはすぐに明日香と叶恵へと歩いて行く。そしてすぐに、三人ともがこちらに来てくれた。


「二人も手伝ってくれるそうです」

「かんな様と雪だるまを作るなんて、そんな貴重な経験ができるなんて! いくらでも手伝いますよ!」

「いつものお礼になるかは分かりませんが、手伝わせてください」


 二人とも、やはりかんなのことは見えていないようで視線は微妙にずれている。それでも、その二人の申し出は純粋に嬉しかった。


「ん。よろしく」


 かんながそう言って二人の手を握ると、二人は少し驚いたように顔を見合わせ、すぐに笑顔で頷いた。


   ・・・・・

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