幕間
むかしばなし
当初、神様の加護が消えてしまったことに、村の人は誰も気が付きませんでした。それも当然でしょう。目に見えての加護ではなかったのですから。それでも少しずつ、村の人は気づき始めます。
例えば、例年よりも雨が多く降り、作物に影響が出たり。例えば、狩りの最中に大きな獣に襲われて食べられてしまったり。例えば、普段では考えられない重い病に苦しめられたり。
どれもが、神様の加護がある間はなかったことです。それが起こり始めたことにより、村の人は気づきました。神様の加護が失われてしまったと。それはつまり、誰かが村の秘密を漏らしてしまったということです。
そこからは大騒ぎです。誰が漏らしたのか、犯人捜しをし始めます。普通なら簡単には見つからないでしょう。いつのことなのか、何年前のことが発端になっているのか、覚えている人なんているはずがありません。
けれど、良くも悪くも信仰心の強い村です。それは行商人にうっかり漏らしてしまった男も例外ではありません。
男はすぐに告白しました。行商人に漏らしてしまったのは自分だ、と。こうなるとは思わなかった、と。本当に申し訳ない、と。
それを聞いた村の人は、仕方がないな、ともちろん、
許しませんでした。
神様の怒りを解かなければなりません。そのためにはどうするか。男を差し出すべきでしょう。けれど男を差し出しても、むしろ神様は怒るのではないだろうかと村の人は考えます。
その男は言いました。自分かわいさに言いました。行商人から聞いたことのある話を。
神というものは年若い少女を好むらしい、と。
ならばと村の人々は言います。差し出せ、と。男は頷きます。分かった、と。
男には娘がいました。十歳ほどになる女の子です。男は自分の家に戻ると、訳も分からず首を傾げる少女を連れ出しました。
良くも悪くも信仰心の強い村です。男は自分の娘よりも、神様の機嫌を取ったのです。そうして男は村の人へと娘を引き渡しました。
事情を知った娘は泣き叫び、抵抗しました。当然でしょう。いくら信心深いと言っても、そこはまだ幼い女の子。神様のために死ねと言われて、はいそうですかと納得できるはずもありません。しかし村の人々はそんな抵抗など気にも留めず、娘の命乞いを黙殺し、娘を拘束して社へと置き去りにしました。神様に捧げます、とお祈りして。
それが、地獄の始まりだと知りもせずに。
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