3-7
「さて、それじゃあ何やる? 今日は三人いるし、パーティゲームかな?」
明日香がゲーム機を取り出して準備を始めます。その時にCDの収納ケースを取り出して、私へと渡してきました。私が首を傾げていると、明日香が言います。
「さつきが選んでいいよ。どんなゲームか分からないなら叶恵に聞けば教えてくれるから」
収納ケースを開いてみると、中にはゲームのディスクが収められていました。ほぼ全てにゲームのディスクが入っています。数えるのも面倒な量です。何度か明日香とゲームをしたことはありますが、こんなに持っているとは知りませんでした。
「えっと……。正直、選べと言われても困るんだけど……」
助けを求めて叶恵を見ると、叶恵は仕方ないとばかりに苦笑しました。
「無難にパーティゲームでいいでしょう。お互いに好みなんて分からないしね」
叶恵がディスクを一枚抜き取り、それを明日香に差し出しました。明日香もすでに準備を終えているようで、それを受け取るとゲーム機へと入れます。ディスクを差し込むと自動的に入っていくその動きに、かんな様が横で目を丸くしていました。初めて見たのなら、驚くのも無理はないでしょう。
「それじゃあ、スイッチオン!」
何がおかしいのか、笑いながら明日香がゲームを起動させました。
・・・・・
「ああ! 私のお金が!」
「うはははは! さつきのものは私のものだー!」
「まあ私がそれを横からかっさるのだけど」
「ちょ! 叶恵ひどい!」
さつきと明日香、叶恵が楽しそうに話している。かんなにはよく分からないが、ゲームの中でお金を取り合っているらしい。妙な遊びだなと思ってしまうが、今の子供にとってはこれが楽しいのかもしれない。
三人のやり取りを聞いていると、ゲームが楽しいのではなくこうして三人で盛り上がるのが楽しいのかもしれないが。
三人は和気藹々ととても楽しそうだ。三人、つまりはさつきも。
かんなは自分の巫女の顔を見る。友達に囲まれて、楽しそうに笑っている顔を。あんな顔を自分の前でしてくれたことがあっただろうか。少なくとも、かんなは見たことがない。
失敗、したかな。
一年間、誰とも話せなくなるというのが嫌で、恩を売るような真似をしてさつきを巫女にした。今のところさつきから不平不満を聞いたことはないが、やはりこうして友達と遊ぶ方が楽しいのだろう。巫女として自分の側にいるよりも、こうして友達と遊んでいる方が、さつきには良いことのはずだ。
いや、さつきだけでなく、子供にとって例外なく、かもしれない。だからこそ、巫女になることを断られ続けたのかもしれない。
さつきは、どう思っているのだろうか。やはり自分の巫女を続けるのは辛いと感じてしまうのだろうか。聞きたいような、聞きたくないような。
かんなは小さくため息をつくと、そっとさつきの隣に座り、その耳に囁いた。
「そろそろ帰る。せっかくだからさつきはしっかり楽しむように」
「へ!?」
さつきが素っ頓狂な声を上げてこちらへと振り返る。当然ながらかんなのことが見えない二人は不思議そうにしている。いや、叶恵だけは、何かを察したかのように目を細めていた。
もしかすると、叶恵にはばれてしまっているのかもしれない。もしそうなら、後々何かしら手を回さなければならないだろう。ただそれも今すぐではない。その時に考えればいいことだ。
唖然としているさつきに手を振って、かんなは部屋を後にした。
扉を素通りして、表の通りへ。来た時の道をそのまま逆に歩いて行く。
ここまで来た時は、浮かれていたと自分でも自覚している。とても楽しい気持ちで歩いた道のりだ。だが今は、寂しさと不安で足を重く感じている。来た時とは真逆の、沈んだ気持ち。かんなは一人、夕暮れの赤い世界を歩いて行った。
・・・・・
いつも以上に早起きしました。いつも以上に準備に時間をかけて、そしていつもと同じ時間に家を出ました。
昨日、かんな様が帰った後、私は結局その場に残ってしまいました。というのも、抜け出す口実が見つからないのもありましたが、かんな様に気を遣わせてしまったという自責の念でとてもではないですが追いかけられなかったというのが本音です。
かんな様は私としか会話ができません。それなのに、あの場にいても寂しくなるだけだというのは分かりきっていたことでした。かんな様と一緒にいたのだから、明日香の誘いは断っておくべきでした。反省しないといけません。
ああ、けれど、もちろん友達を疎かにするつもりもありません。ちゃんと明日香とは別の日に約束をしていた、というだけのことですから。
自分に言い訳をしながら学校にたどり着いて、社へと向かいます。社の前ではかんな様がいつものように本を読んでいました。
「かんな様!」
私が呼ぶと、かんな様が顔を上げました。いつもの無表情でこちらをじっと見つめてきます。最近はその無表情からでも何となく感情が分かるようになってきていたのですが、今日はその何となくですら分かりません。怒らせてしまったのかもしれません。
「あの……」
私が声を掛けようとすると、かんな様は本を閉じました。こちらをじっと見つめたままで。
「さつき」
かんな様が私を呼びます。その声は優しくもなく厳しくもなく、怖いほどに平坦なものでした。
「正直に、答えてほしい」
「はい……。何でしょうか?」
「巫女を辞めたい、とか、思ったりしてない?」
それを聞いた瞬間、頭が真っ白になってしまいました。どうして、かんな様はそんなことを聞いてきたのでしょう。私が何かを言う前に、かんな様が続けます。
「もしもそうなら、私は、無理強いはしない。週に一回、話し相手になってくれたら、それでいい」
友達と遊ぶ時間が取れてないでしょう。
それを聞いて、ようやくかんな様の気持ちが分かったような気がします。やっぱりかんな様は私に気を遣ってくれているようです。もっと友達と遊ぶ時間が欲しいだろう、と。だから自分よりも友達と一緒にいなさい、と。
うん。何を言っているんでしょうこの神様。
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