2-5
私は自分の部屋で目を覚ましました。体を起こして、周囲を確認します。間違い無く、自分の部屋です。何をしていたのか思い出そうとしますが、猫を追いかけていた時までしか記憶にありません。疲れて、ベンチで休憩していたはずなのですが。
ふと枕元を見ると、明日香のキーホルダーが置かれていました。どうやら結局、かんな様に神力を使わせてしまったようです。申し訳なさとふがいなさに落ち込んでしまいます。
不意に部屋の扉がノックされます。はい、と声をかけると、扉が開かれてお母さんが入ってきました。
「ちゃんと帰っていたのね」
どうやら私が帰ってきていることに気づいていなかったようです。そのまま一晩放置されていたと思うと少し悲しくなります。
「お母さん、娘が一晩どこにもいなくて心配しなかったの?」
「かんな様が一緒なら安心でしょう?」
「それはそうだね!」
なるほど納得です。完璧な論理です。かんな様が一緒だと分かっているのなら疑う余地すらありませんでした。
「この考え方も十分異常よねえ……」
「なに?」
「何でもないわよ。今日は私がお弁当を作っておいたから、持って行きなさい」
そう言ってお母さんが弁当箱を差し出してくれます。就寝までに帰ってこなかった私のために作ってくれていたようです。そのおかげでゆっくり眠れました。
「ありがとう、お母さん」
「いえいえ。あとかんな様から感想をもらってきなさい。いいわね? 絶対よ?」
「了解です!」
どうやらそちらが主目的のようです。いや、いいんですけどね。
「それじゃあさつき、そろそろ準備した方がいいわよ」
「へ? ……げ!?」
スマホの時間を確認して、ちょっと変な声が出てしまいました。お母さんがお腹を抱えています。ひどい。ちなみに時間は五時です。かんな様に心配をかけてしまいます。
「すぐに着替えて行ってくる!」
私が叫ぶように言うと、お母さんは笑いを堪えながら言いました。
「ええ。気をつけて行きなさい」
学校にたどり着いたのは、五時半でした。全力で走ったかいがあったというものです。疲れましたが、気持ちの良い汗です。
かんな様は社の前で、本を読んでいました。私に気が付くと顔を上げます。気のせいか、安心したような表情だったような気がします。ですがすぐに無表情になっているので、きっと私の気のせいでしょう。
「遅くなってしまってごめんなさい、かんな様」
私が頭を下げると、気にしなくて良い、とかんな様は首を振りました。
「今日はもう掃除はいいから、座って」
今気が付きましたが、すでにブルーシートが敷かれています。私は分かりましたと頷いて、かんな様の隣に座ります。
「体の調子はどう?」
「元気ですよ。昨日はその、ごめんなさい……」
いくらなんでも、途中で寝てしまうとか自分で思い出してもあり得ません。恥ずかしくて顔が真っ赤になりそうです。けれどかんな様は気にした様子もなく、こちらを興味深そうに見つめてきました。あまり見られると恥ずかしいのですけど。
「私の方こそ、無理をさせすぎた。ごめん」
「いえ、そんな! 私が好きでやってたことですから!」
今回は私が勝手についていって、勝手に張り切って、勝手に寝てしまっただけのことです。かんな様が謝る必要はありません。むしろ私を怒ってもいいぐらいです。ですが、かんな様は怒るようなことはなく、肩をすくめて私の頭を撫でてくれました。
「最初から、何でも一人でできる人なんていない。さつきが気にする必要はない」
「はい……。ありがとうございます」
「キーホルダーはさつきから返しておいて。さつきが渡した方が自然だし」
「はい……。任せてください」
かんな様の手柄を横取りするような気がして気が引けますが、かんな様が渡す場合は、気が付く場所に置いておくことになるそうです。それなら私が渡す方がまだ自然でしょう。
「それじゃあ、この話はおしまい。ところでとても良い匂いがする」
「あ、気が付きました? ちょっと待ってくださいね」
かんな様の鼻がぴくぴく動いています。その様子が可愛らしくて、思わず頬が緩んでいまいます。そんなことを思うのは不敬かもしれませんが、口に出さなければ問題ないでしょう。私の神様はとってもかわいいです。
「じゃーん!」
私がお母さんから受け取った弁当箱を取り出すと、おー、とかんな様が間延びした声を上げました。弁当箱を開けてシートの上に広げていきます。唐揚げやたこの形のウインナーなど、おかずがたくさんありました。
「今日はいろいろあるね」
「お母さんが作ってくれましたから」
「ああ、なるほど」
「今どうして納得したんですか?」
じっとかんな様を見つめると、かんな様は気まずそうに目を逸らしました。そうしながらも早速とばかりにおにぎりを取り出して食べています。たくさんおかずがあるのに真っ先におにぎりというのが、かんな様らしいです。
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