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 社の周辺をはいて、社そのものも掃除して。一通り終わる頃には五時半です。終わりました、とかんな様に一声かけると、かんな様はすぐに本を閉じました。いそいそと社の中へと入っていきます。

 社の中は、一応はかんな様の居住スペースなのだそうです。ただし中は物置同然です。事実、眠る必要のないかんな様はずっと外で過ごしているそうです。社の中に入ったかんな様はすぐにブルーシートを引きずって戻ってきました。


 かんな様からブルーシートを受け取って、社の前に広げます。かんな様がそこに座り、私もその隣に座りました。ブルーシートは少し大きめのもので、大人五人程度なら寝転がれる広さがあります。私は自宅から持ってきたものをブルーシートの上に並べていきます。

 パックに入れたおにぎりと、そして今回は特別におはぎです。かんな様はおはぎを見て、瞳を輝かせています。ただしいつも通り無表情ですが。


 水筒から熱いお茶を紙コップに注いで、かんな様の前に置きます。次に自分の分も。それを終えてから、かんな様と二人で手を合わせました。いただきます。

 静かな薄闇の中、のんびりと食事を取ります。私は毎朝のこの時間がとても好きです。この時間は門が閉まっているため、生徒はまず来ません。なのでこうして堂々とくつろげます。


 自分のおにぎりを食べながら、隣に視線を移します。おにぎりを食べているかんな様はとても幸せそうです。いえ、無表情なのですが、雰囲気が、です。

 ちなみにかんな様が食べたものは自然へとエネルギーか還元されたりかんな様のお力となる神力になったりと、だそうです。難しい理屈は分かりません。相手は神様ですし、理解しようとする方がいけないことのような気もします。


「どうですか?」


 おにぎりを頬張っているかんな様に聞くと、かんな様はこちらを一瞥して頷きました。


「美味しい」

「そうですか。安心しました」

「うん。おにぎりは至高」


 かんな様の好物はおにぎりです。中でも鮭おにぎりと何も入れていないおにぎりが好きなんだとか。なので私が持ってくるお供え物はほとんどがおにぎりです。具だけはその日によって変えていますが。同じ物だと飽きそうですし。

 おにぎりを食べ終えたかんな様は、次におはぎに手を伸ばします。そして一口食べて、満足そうに頷きました。


「おはぎは至高」

「おにぎりじゃなかったんですか?」

「ん? 二つとも至高」


 至高とは一体。いえ、かんな様が嬉しそうに食べているのでいいのですが。


「私は三個でいい。一個はさつきが食べて」

「いえ、私はいいですよ? かんな様へのお供え物ですし」

「食べなさい」


 じとっとかんな様が睨み付けてきます。私は苦笑しながら、ありがとうございますとおはぎを一個もらいました。うん。美味しい。

 おにぎりとおはぎを食べ終えて、私とかんな様はのんびりとお茶を飲みます。特に会話することはありませんが、それでもとても心地良い時間です。


「さつき」


 不意にかんな様に呼ばれて私がそちらを見れば、かんな様は社を見ていました。私も社を見てみますが、特に変わったことはありません。我ながらしっかりと掃除できています。がんばりました、と胸を張ると、かんな様は頷いてくれました。


「いつもありがとう」

「私にはこれぐらいしかできませんから。他にもやってほしいことがあれば遠慮無く言ってくださいね」

「ん。ありがと」


 その後もかんな様はじっと社を見つめています。かんな様が何を考えているのか私には分かりませんが、私の掃除を気に入ってくれているなら嬉しいなと、ちょっとだけ思ってしまいました。

 お茶の時間が終わる頃には六時になります。日も昇り始めていますが、まだまだこの周辺は静かです。部活の朝の練習は七時からで統一されているので、それまではもう少しゆっくりできるでしょう。


 私は少しだけ眠気を感じて欠伸をしてしまいます。そして目を開けると、こちらをじっと見つめるかんな様と目が合いました。つまりは今の欠伸が見られているというわけで。恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じます。けれどかんな様は特に気にした様子もなく、


「眠いなら少し休むといい。七時前に起こす」

「ではちょっとだけ……」


 実を言うと、これは今回だけではなく、二日に一回はこうして休ませてもらっています。起床時間に合わせて就寝時間も早くしているのですが、どうにもまだまだ慣れないというのが本音です。

 かんな様は一つ頷くと、社の方へと向かいました。中から毛布を取り出してきて、渡してくれました。ふわふわで柔らかい毛布です。私が仮眠を取るときは、いつも貸してくださいます。


「ありがとうございます、かんな様」

「ん」


 かんな様は無表情に頷いて、シートの上に座りました。本を読み始めたかんな様の隣で、私は毛布にくるまって横になりました。すぐに睡魔が襲ってきて、いつの間にか私は眠りに落ちていました。




 体を揺すられて、私は目を覚ましました。起こしてくれたかんな様にお礼を言いながらスマホで時間を確認します。七時前のいつもの時間です。一時間近くも眠っていたことになります。


「八時ぐらいまで寝かせてあげたいところだけど」


 かんな様はそう言ってくれますが、さすがにそれはできません。というのも、一部の学生は毎朝ここにお参りに来る人もいます。特に運動部は朝の練習の前に来るので、本当に七時すぐに来てしまいます。社の前で眠る一年生。不審者です。

 私は手早く毛布とシートを畳んで、かんな様に渡します。かんな様は社にそれらを入れると、さて、と振り返りました。


「今日もありがとう、さつき」

「そんな! お礼なんていらないですよ。また放課後に来ますね」

「ん。待ってる」


 かんな様が頷いて言います。いつもこの時のかんな様は、どこか寂しそうに見えてしまいます。幼い見た目も合わさって、とても可愛らしい、と思ってしまうのは不敬でしょうか。

 私はかんな様に見送られながらその場を後にして、教室に向かいました。




 教室にはいつも一番乗りです。毎日職員室で教室の鍵を受け取り、開けています。一人きりの教室で私がやることは、ひたすら勉強です。昨日の復習から今日の予習までを八時までやります。朝や放課後はかんな様と過ごすため、この短い時間は私の数少ない勉強の時間です。

 かんな様に勉強をしたいと言えば放課後は来なくてもいいと言ってくれるとは思います。けれど、かんな様の巫女として、そちらを疎かにしたくはありません。かといって私も学生なので、勉強をしないわけにもいかず。ならば! 両立させてみせましょう!


「そう思ってたのになあ……」


 勉強は好きです。それ故に、自慢ではありませんがそれなりの成績を保っていました。ですが、英語。これだけは分かりません。ここは日本なのに外国語の勉強は必要なのでしょうか。

 授業さえ聞いていればだいたい分かる他の科目よりも、予復習の時間を取られてしまいます。もう少し、良い勉強方法が分かればいいのですが。

 そうして勉強を続けていると、少しずつクラスメイトが登校してきます。私が一番乗りして勉強をしているのはいつものことなので、みんなが私に挨拶してくれます。もちろん私もしっかりと挨拶を返していきます。

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