天使の食卓~強化された料理の力で、いろいろチートしちゃいます!~

ニア・アルミナート

第1話 夢

 気づけば私は何もない空間に立っていた。暗い、とても暗い。何も見えない空間に。自分の体があることは感じ取れる。目線を下に向けても、何も見えないけど。


 地面があるのかもわからない。前に進めない。どうしよう。ここは、どこなんだろう。


 数分間、そうして呆然とその場に立ち尽くしていると、前から輝く何か……おそらく人? がこちらに向かってきているのが見えた。


 さらに数分後、その人はかなりこちらに近付いていた。外見的特徴から言うなら人じゃなくて、天使かな。背中に純白の翼が3対あるし。なんか法衣みたいなのを着てるし。


 でも、すごく、傷を負っているみたい。左のお腹を押さえて右足を引きずってこちらまで歩いてきた。


 彼女が私の元までたどり着いたとき、私の回りが一気に明るくなった。どうやら、純白の部屋にたっていたらしい。


 体も見えるようになった。そして、何か、彼女と繋がったような感覚がした。


「ずいぶん、時間がかかったなぁ。やっと、つながったんだね」


「そう、みたいだね」


 紫髪の天使さん。彼女はもう、長くないんだ。つながったとたんに何もかも、理解した気がする。


 私は彼女の力の継承者。たった一人の、彼女の意思を継ぐもの。


「わかってはいると思うけど……ボクの名前はシルフィーナ。風の大天使。見てのとおり、もうすぐ、消えるよ」


 知っている。その名乗りの時、彼女は右手を上げて私に見せる。


 彼女の右手はすでに光の粒子となってた。


「無理、しないで?」


「してない、といったらうそになるかな。この引継ぎ作業だってかなり無理してやってるからね……」


 輪廻に基づき、転生するはずだった魂を消費して、彼女は私に力を引き継ぎに来たんだ。そうしなければ、天使の力は行き場を失うから。


「シルフィーナ……。私……」


「大丈夫、ボクは君で、君はボクだ。ボクが消えても、君が生きていれば、問題ないよ。君がボクを覚えていてくれればいいんだからね」


 私はついに右腕全体、そして左のお腹、右足が完全に光の粒子に変わってしまった彼女を抱きしめる。


 初めて会ったはずだ。面識はないはずだ。


 なのに、彼女は今、私の中で最も大切な人だった。彼女の記憶、そして力を引き継ぎ、継承者となった今、彼女がとても大切に思えた。


 抱き留めたその時、シルフィーナの左手が、私の頭の上に置かれる。そして、その手はゆっくりと、私の頭をなで始めた。


「ボクは人の頭をなでるのは初めてなんだ。……お気に召してくれたかな?」


「うん……、うん!」


 少し、ぎこちなさを感じたけれど。それは私の人生の中でもっとも、私の心を温かくしてくれた。


「一つ、お願いがあるんだ」


「なんでも言って?」


 何が何でも、その願いを叶えないといけない。その願いを知るのは、私以外にもう増えることはないのだから。


「もし、まだ、ミスティナ様が救われていなかったら。ミスティナ様の願いを叶えるお手伝いをして欲しい。ボク達の、お母さんなんだ」


「創造神様の、ね?」


 彼女の記憶で理解した一部。創造神ミスティナ。彼女がもし……救われていないのなら。私は継いだ力と、命を懸けることを約束する。


「ああ、もう時間だね。ボクの力の使い方、ちゃんとわかるかい? それと、翼の動かし方も。それに……」


「大丈夫、記憶を継いでるんだからなんでもわかるよ」


 そういうと、彼女は軽く目を見開いた後、表情を柔らかな笑顔へと変えた。


「そうだね。後ボクの考えを一つだけ。多分、きっともう、ミスティナ様は救われてるんだ。ボクは、君のところにたどり着くのに時間をかけすぎた。引継ぎの用意を怠ったんだ。きっと君はボクの力をただ継ぐだけ。使命とかそういったしがらみもない。でも、せっかくだ。ボクの力、存分に使って楽しんで生きて行って欲しい。いつか倒れるその日まで、ずっとずっと。ボクの力で」


「うん、絶対、シルフィーナの事、忘れないように、この力を使っていくよ」


 私がその言葉を口にしたとき、シルフィーナの表情には安堵の色が浮かんでいた。


「……じゃあね。もう会うことはないけど、期待してるよ」


 その言葉を最後に、シルフィーナの体は完全に光の粒子となって、私の体へと吸い込まれた。美しい金色の瞳を私に向けたまま。


 聞こえてるかどうかはわからないけど。私は言葉を放つ。


「うん、期待してて?」


◇◇◇


 いつもの天井が見える。目が覚めたらしい。


 私は飛び起きて、すぐに鏡の前に立った。


 夢、だと思いたくはなかった。大切だと思えた、彼女の存在を。


「夢、じゃない!」


 真っ黒かった私の髪の毛の毛先は紫色に変わっていた。彼女の髪の色だ。


「意識すれば……翼も出せる」


 私の背に純白の白い翼が3対、現れる。魔力でできた翼だ。


 あ、服破れなくてよかった。魔力でできているから、実質実態はなさそうである。


「夢じゃないんだ。夢じゃ。シルフィーナ、これから私、この力で楽しんで生きていくよ!」


 私の中にいるであろう、シルフィーナに向けて、私は決意の言葉を口にした。


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