第七章 修学旅行
二十八話 アイマスク
ついに来週は修学旅行で、今日は班行動についての話をしている。それはいいのだが、いつものようにとしくんと新田くんが喧嘩をしている。
「陸は俺と、行動するんだ!」
「何言ってんだ! 陸は俺と行動するんだ!」
なんか知らないけど、ずっとそんな調子で喧嘩をしている。そんな彼らをいつしか、クラスの皆んなは完全に無視している。
慣れって恐ろしいなと思っていた。因みに班は、としくんと僕と新田くんと九条さんに女子生徒二人の六人である。
正直、修学旅行中もこんな感じで喧嘩するのだろうかと思うと少々気が重い。僕がそんなことを考えていると、目の前に座っていた九条さんに声をかけられた。
「ほんと、あの二人も飽きないわよね」
「うん。よく、そんなに喧嘩できることあるよね」
「……ほんと、大久保くんって肝座っているわよね」
「そう?」
僕は九条さんが言っている意味が分からずに、頭に? を浮かべていた。そんな時に、後ろから急にとしくんに抱きつかれた。
「り〜く、空雅がイジメるんだ」
「そうなの? 空雅くん」
「ちげーだろ! 俊幸てめー! 変なことを告げ口すんじゃねーよ!」
そんな感じで彼は僕を抱きしめながら、新田くんと口論していた。僕はその間も、行ったことがない京都に思い馳せていた。
京都って言ったら美味しいもの多いよね。生八ツ橋とかは、流石に賞味期限が短いし。としくんは甘いものがいいかな?
どこかいいところとかあるのかな? そして僕は気になったから、若干こっちを見て引いている女子三人に聞いてみた。
「皆んなは京都に行ったことある?」
「……ないけども……それよりも俊幸が抱きしめていることに、関してなんとも思わないのかしら」
「う〜ん。としくんって寒がりみたいだし?」
「これを寒がりで片付けられるのは、逆に凄いと思うわ」
よく分からないが、九条さんたちに若干引かれながらそう言われた。まあでも、小学校も中学校の修学旅行は楽しめなかった。
高校の修学旅行はとしくんや他の皆んながいるから、とても楽しいものになると期待できた。
修学旅行当日。新幹線に乗り込んで、僕の隣にはもう既にここまでのバスで酔っていたとしくん。
窓側に座って景色でも見ていた方がいいと思ったのだが、なぜか通路側がいいらしく。としくんは、通路側に座ってしまった。
九条さんは僕の前で目を爛々と輝かせて、今日行く京都国立博物館で見る刀の説明をしていた。
本当に楽しそうに、話してくれているのはいいけども……新幹線が発車してから、としくんが本当に気持ち悪そうにしていた。
「としくん、大丈夫?」
「だいじょ……ぶじゃない」
「薬、飲んだ?」
「飲んだ……」
としくんが気持ち悪そうに来ているのを見て、とても不服そうに九条さんは話すのをやめてくれた。
としくんはよっぽど辛いのか、僕の肩に頭を置いて目を瞑っていた。僕は車酔いとかしないから、分からないけど相当辛いのだろう。
見るからに顔色が悪くて、誰が見ても具合が悪いのは明白だった。そして暫くして、落ち着いたみたいで寝てしまった。
「俊幸、寝てしまったみたいね」
「うん、気持ちよさそう」
「そりゃ、大久保くんの隣だからでしょ」
その九条さんの言葉の意味に気がついて、僕は自分の体温が急上昇していったのが分かった。
それにしてもこのとしくんの寝顔、改めて見ると可愛いな……。この寝顔、他の人に見られたくないな……。
特に九条さんには……。二人がそういう関係じゃないって、分かっているし。疑っているわけじゃないけど、上手く言えないけど僕の危機感がそう言っている。
そのため、僕は一応持ってきたアイマスクを鞄から取り出したんだけど……僕が持っていたのって、こんなのだったっけ?
まあいいか……この可愛い寝顔を見られるよりか……と思って、変顔みたくなってしまうアイマスクを着けてみた。
「ぷっ……」
「大久保くん……それって、ぷっ」
そうしたら案の定、面白くて僕は吹き出しそうになってしまう。しかし、吹き出してしまうと彼が起きてしまうから我慢した。
そんな僕を見て九条さんも笑いを堪えるのに必死だった。そして近くにいたクラスメイトたちも、なんだなんだと見にくる。
そして皆んなが、必死に笑いを堪えているのが分かった。肩を小刻みに揺らしたり、むせていたりいているのが見えた。
恐らくこんなことをするのは、兄貴しかいないと思うから。とりあえず、メールで「アイマスクの件で後でお話しましょう」と送っておいた。
それにしても、そんなこととは露知らずに爆睡しているとしくん。まあ、具合が悪くなるよりこの方がいいと思う。
寝顔を見られたくないって思う僕も、大概だなあと思ってしまった。僕がそう思っていると、そこに空気の読めない人がトイレから戻ってきてしまったようだ。
「俊幸! なんだよ! それ! ウケ狙いか! あはははは!」
「新田、あんた。空気読みなさいよ」
「なんだよ、九条。面白いんだから、しゃーねーだろ! ブフッ」
そこでクラスの皆んなの雰囲気が、凍りついてしまったのが分かった。よく分からないけど、としくんを起こさないようにしてくれている皆んなは優しいなと思った。
それに比べて新田くんは、空気とか場の雰囲気とかを読むということができないようだ。僕も天然だとかよく言われるけど、自覚がないから人のこと言えないけど。
僕が一人でそんなことを考えていると、としくんがムクっと起き上がった。そして、アイマスクを見ていたから僕は教えることにした。
「普通のやつ持ってきたはずだったんだけど、兄貴の仕業でそれになってたよ。だから、帰ったらお話しようと思う」
「……そうか、後で俺からも連絡しておく」
そう言って目を擦りながら、新田くんを睨んでいた。すると、流石の新田くんもビビって目を逸らすと口笛を吹いていた。
そんな様子を見てニヤリとした彼は、もう一度アイマスクをして眠りについた。そんな彼を見て、新田くんは何を思ったのかケロッとしていた。
そして新田くんは楽しそうに、中学時代の思い出を話し始める。
「俊幸の酔いは、中学の時でも有名なんだけどよ。その度に俺が弄ると、俊幸が怒るんだよな」
「新田、あんた。いい加減にしたほうがいいと思うわ」
「空雅くん、僕もそう思う」
「九条! 陸も……つっ」
僕が成長しないんだろうな……と思い新田くんを見ていた。そこで目があったが、目を逸らされてしまう。
何かしてしまったのかな? 新田くんほどじゃないけど、僕も空気が読めない部分とかあったのかな?
皆んなが優しいから忘れていたけど、僕って人付き合いが苦手だから。もしかして、気づかないうちに傷つけてしまったのかな?
やっぱ僕の勘違いじゃないよな……と思いつつ、皆んながいて、しかもとしくんと僕の様子をガン見している九条さんの手前言い出せずにいた。
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