二十三話 想いの重さ

 借り物競走の時間になって、としくんがスタート位置の方に向かった。借り物競走か、あれって意外と目立つしめんどくさいからやりたくなかった。


 僕がそう思っていると、スタートの合図が鳴り響く。そしてお題が書いてある紙を見て、一瞬驚いていたが僕の方を見て微笑んでいた。


 何だろうと思っていると、彼は終始笑顔のままでこっちに向かってきた。僕が不思議の思っていると、彼に手を差し伸べられた。


「陸、一緒に来て」


「あ、うん」


 僕はよく分からないまま、彼に手を引かれて走っていく。僕のスピードに、合わせて走ってくれて嬉しかった。


 手を引かれるままに向かうと、お題が好きな人で戸惑ってしまう。案の定周りからは、男っていう好奇の目で見られていた。


 やっぱ男同士って可笑しいのかな……僕が考えていると、としくんがとびっきりの笑顔でこう告げた。


「好きな人が、大好きな友達でも良いだろ」


 彼の言葉に先生も仕方ないなと言って、了承してくれた。しかし、少しモヤっとしてしまった。


 盛り上がっているのを見るのが辛くなってしまった。僕は一人で、体育倉庫の裏に行って考えていた。


 好きな人っていうお題で、僕を選んでくれたのは嬉しい。僕のことを、配慮しての言葉だって分かってる。


 それでも傷ついてしまっている自分もいる。頭では分かっているんだけど、僕は自分が思っていたよりも何倍も彼が好きなのだ。


 僕のことを思っての行動だろうし……これから何度も傷つくことあると思う。その度に同じことをしていたら身が持たない。


「はあ……」


 分かっているんだけど……僕はそう思ってため息をついて、その場にへたり込んでしまった。


「あっ、いた。陸ここにいたのか、探したぞ」


「――――としくん」


「何かあったのか! 涙流して」


「――――何でもない」


「何にもなくないだろ!」


 彼に指摘されて初めて、自分が涙を流していることに気がついた。僕の元に駆け寄ってきて目元を拭いてくれた。


 僕が一人で不貞腐れているのに、彼は優しく抱きしめてくれた。僕って自分でも驚くくらいに、傷つきやすいのかもしれない。 


 本気で心配してくれているのが、分かって少し嬉しくなってしまった。それと同時に僕は言葉の意味が気になってしまった。


 怖くて声が震えるのを必死で押さえながら、意を決して聞いてみる事にした。友達って言ったのは、僕のことを考えてのことだったと言われることを期待して。


「友達って思っているの?」


「――――あれ、嘘だから。友達なんて今まで一度も思ったことないから」


「えっ……」


「俺は昔から陸が」


 そこまで聞いて僕は怖くなって走り出してしまった。友達って思われてなかったって、確かに今は友達ではない。


 でも幼稚園や小学生の時は、友達だと思っていたのに……。考えてみたらとしくんは、僕と仲良くなりたくなかったのかもしれない。


「僕の独りよがりだったのかな……」


 昔のことだし……よく覚えてないけど、あの頃のとしくんは何となく僕たちを拒絶していたように見えた。


 でも何となくこの子と友達になりたいと思ったんだ。思っていたよりも一緒にいると、楽しくて時間もあっという間に過ぎていく。


 それにしても、としくんって優しいし頭いいし……いつでも僕のことを一番に考えてくれていると思う。


 自惚れではなく、本当に僕のことを色々と助けてくれている。自分に自信がなくて、何も出来ずに落ち込んでしまう。


 そんな僕をいつでも彼は優しく支えてくれる。僕はそんな彼がとても好きで、だから友達だと思われてなかったはキツイ……。


「胸が痛い……」


 知らない十年間は、僕も彼も変えてしまったのかもしれない……。こんな感情、としくん意外に感じたことない。


 でも彼は色んなことに慣れているから、今までも色んな人と同じようにしてきたのかな……。


 こんなのは八つ当たりだと分かっている……それでも弱気になっているから、今はそれしか考えることが出来なくなってしまう。


 彼が今までどんな恋愛をしていたとしても、僕には関係ないことだし……。過去は変えることは出来ないから、どうしようもないってことは分かっている。


 だけど僕だけだったのか、一緒にいて楽しくて嬉しかったのは。僕だけだったんだ……僕は耐えきれずに、保健室に行ってベッドで泣きじゃくってしまった。


 それからどれくらいの時間、寝てしまったのか分からないが目を覚ました。するとベッドの横に寝ている彼を見つける。


 僕のことを心配して来てくれたことも、僕が起きるまで待ってくれているところも。彼が好きすぎて怖くなってしまう。


 僕が彼の頭を触ろうとすると、目を覚ました彼に腕を掴まれてベッドに押し倒されてしまった。


 僕がどうすれば良いのか分からずに、目を逸らしてしまうとキスをされそうになって目を瞑った。


 いつになってもキスをされなかったから、目をおそるおそる開けてみた。すると静かに涙を流している彼の姿を見た。


「としくん……涙」


「俺のこと拒絶しないでくれ」


 彼の言葉はとても傷ついているのが分かった。擦れていて何とか絞り出したのが分かった。


「拒絶なんてしないよ。ただ、友達じゃなかったって言われて……ショック受けちゃったから」


「はあ……何だそんなことか」


「そ、そんなことって」


 やっぱとしくんにとって僕は、友達じゃなかったのか。僕がそう思って落ち込んでいると、彼に抱きしめられて耳元で囁かれた。


「俺は出会った時から、陸が好きだったんだよ。それに……俺は陸がこの世の何よりも大事なんだ」


「僕も大事だよ」


「重たくないか?」


「体重かけられて重いけど。としくんから貰うのは嬉しいよ」


 僕がそう言うと、彼はとても嬉しそうに優しくキスをしてきた。それから何度も、角度を変えてキスをされた。


 彼のキスは優しくて暖かくて気持ちよくなってしまう。そこで僕は外からの喧騒に気がついた。


「あっ、体育祭の途中だった」


「大丈夫だ、五十嵐に陸が具合悪いからって伝えておいたから」


「根回しがいいね」


「言っただろ、俺は陸が一番大事なんだよ」


 そう言って彼は僕を優しく抱き締めて、一緒にごろんと寝てしまった。その時の優しい瞳を見て安心してしまった。


 僕のことを一番に、思ってくれているのは嬉しかった。しかし、自分自身のことも大事にしてほしいと思った。

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