浮気されたので浮気し返そうと思って合コンに行ったら、僕を昔パシリにしていた同級生と再会して同棲することになった

あらばら

第1話 再会

 大学に入学してひと月が過ぎた頃、僕こと白木しらき壮介そうすけには初めての彼女が出来た。

 同じゼミで知り合った同い年の、井尾いお凛音りんね

 栗色に染めたボブカットがトレードマークの可愛い女子で、僕なんかには過ぎたる存在だなと思っていた6月中旬のある日――


「――あんっ♡ あんっ♡」


 自宅マンションに帰ったら、凛音が見知らぬ男を僕の部屋に連れ込んでセックスしていた。信じられなかった。

 立ち尽くす僕を尻目に、凛音とその浮気相手は慌てて服を着て、浮気相手はそそくさと帰っていった。

 凛音は泣きながら謝ってきたけど、僕は許す気にはなれず。

 そうしていると凛音が逆ギレしてきて、何事かを喚いて出て行ったのが数日前のこと。


 凛音はあれから大学に顔を出さず、特に連絡も寄越さない。

 まぁ知ったこっちゃない。

 まだ付き合っている状態ではあるんだろうけど、僕の凛音に対する好意はもはや塵ほども残っていなかった。

 だから――


「おう壮介、今日数合わせで合コン来れね?」


 という友人の緒方からの誘いをあっさり承諾し、合コンに参加することになったんだ。

 浮気されたんだから、凛音との関係がまだ正式に終わったわけではないけど、別に行ってもいいだろう、って思った。なんなら新しい彼女でも見つけたい気分だった。

 別れてないのに新しい彼女を探しに行くのは、ひょっとしたら凛音と同じ穴のムジナなのかもしれない。だけど、同じところまで落ちないとやり返せないことがある。

 世の中は綺麗事だけじゃ回らないんだから。


   ◇


 合コンは繁華街のカラオケで始まった。

 相手の女子グループは、別の大学の人たちのようだった。学部とか年齢はバラバラで、バラエティーに富んでいた。


 そんな中で僕は、ハッとする事態に遭遇していた。相手の女子の1人に、見覚えがあったのだ。歌の順番待ちでタンバリンをシャンシャンして賑やかしに徹している黒髪ウルフカットの可愛いその女子は、僕の記憶に間違いがなければ……中学時代の同級生である町田まちだ寧々ねねだった。

 

 かつて同じ学び舎で過ごしていた彼女に、僕は少しトラウマがある。


 ……パシリだったんだ。


 中学時代、僕は根暗だった。まあ今も根暗寄りではありつつ、頑張って陽キャグループの一角に溶け込む努力をしていた高校時代を経て、多少マシにはなった。

 それに比べて、中学時代は冴えなかった。そんな中坊の僕をからかってパシリにしていたのが町田さんだった……。


 いじめと呼ぶほどのことはされていない。あくまでからかわれ、舎弟みたいな状態になっていただけだ。購買までお使いに行かされたり、肩を揉まされたり、見ようによっては仲良しに映っていたかもしれない。


 でも、僕は当時のことがトラウマだ。女子のパシリっていう情けない状態に甘んじていた自分に嫌気が差している。

 町田さんは僕のことなんて忘れているのか気付いてなさそうだけど、僕は気付いてしまったがゆえに胃がキリキリと痛み出した。


「悪い緒方……僕抜けるよ。ちょっと具合が」

「マジかよ。まぁ、お前居なくてもなんとか回りそうだし、帰るなら帰っていいぞ」


 そんな返事を受けて、僕はひっそりとカラオケボックスの外に出た。

 ……厄年にはまだ遠いのに、なんでこんなに悪いことが重なるんだろうか。

 浮気されるし、トラウマと再会するし、ろくでもない……。


 胃の痛みは、カラオケボックスから離れるにつれてマシになった。

 しかし駅に到着してホームで帰りの電車を待っているときに――それは起こった。


「――なんで抜け出したの?」

「……っ」


 不意に背後から声を掛けられた。間違いなく僕に向けられた声だった。聞き覚えもあった。だからこそ、せっかく止んだ胃の痛みがぶり返す。

 ……気付いてなかった、わけじゃなかったんだな。きちんと気付いた上で、けれどあの場で知り合いのように話すのをやめていただけらしい。


 僕は恐る恐る振り返る。どうして付いてきたのか。話しかけてきて何がしたいのか。疑問と不安を抱きながら、背後を振り返る。そして直後、僕の視界には――


「やあやあ。もしあたしから逃げたんだったら酷くない?w」


 そう言ってイタズラな表情で笑う町田さんが、映り込み始めてしまった。

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