第6話 竜の里

 ティアの介抱により、私は簡単な回復魔法を扱えるくらいには魔力を戻すことができました。そしてティアの竜の姿も子牛ほどになりました。竜の姿でもティアは変わらず私に甘えてきます。


「ティアは甘えん坊さんなのね」

「何言ってるの、ボクはもう大人だよ」


 それを聞いて私は驚きました。


「ずっと人間に魔力を奪われてきたんだ。魔法具の材料として鱗や爪を剥がされ続けて……それで小さくなっちゃったんだ」


 私はティアの深い悲しみに気がつけず、己と人間の罪深さに慄きました。


「そんな……ティア、ごめんなさい。私たちのせいで、辛い思いをしたのね」

「いいんだよ。ボクはリーベのおかげでここまで回復できたし、それに辛い思いをしたけどこうやってリーベと出会えたんだ」


 ティアは少女の姿になると、私に抱きつきました。


「ボクとリーベは似ている。リーベは聖女として、ボクは竜としての誇りを傷つけられた。でも、ボクらはこうして出会ったんだ。それって、ええと……」

「神の思し召し、かしら?」

「そうそれ。カミサマってすごいんだね」


 ティアの顔が私の眼前に迫ってきます。


「お楽しみのところ悪いが……ルベリア殿、具合はどうですか?」


 コキが入ってきて、ティアは慌てて私から離れました。


「顔色も大分戻られたようですね。もしよろしければ、我々の悩みを聞いてくれないでしょうか?」


 コキの申し出を私は喜んで受けました。彼らは命の恩人で、そして傷ついた私をここまで介抱してくれたのです。その恩を返す必要があります。


***


 コキに連れられて、私は長老宅へ案内されました。そこには、弱って人の大きさほどに小さくなった竜がいました。


「大竜様です。本来はもっと大きいはずなのですが、魔力が抜け出る謎の奇病に冒されています。都度手当をし続けましたが、最近は体力が低下しておられて……」


 私は大竜様の治療に当たろうとしました。しかし、私の今の魔力では抜け出る魔力の補填にしかなりません。根本的に治療をするならば、聖法衣の力が必要です。その旨をコキに告げると、彼女はがっかりしたようでした。


「それなら、取りに行こうよ! 聖法衣をさ!」


 その場にいたティアが提案します。またロメールに戻ると聞いて私は少し怖くなりました。しかし、大竜様のため、そして病に苦しむ者を救えない私のために、私はあの教会へ戻る決意を固めました。


「もちろん、ボクも一緒に行くよ。リーベに何かあったら心配だから。それに、少しは魔力が戻ったんだ。きっと何かの役に立つよ」


 ティアはなんて強い子なんでしょう。少しでも怖いと思ってしまった私が恥ずかしくなりました。


「リーベはボクが必ず守るからね」


 私は抱きついてきたティアの身体をそっと包み込みました。


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