暗闇の中で落ちる雫

颯風 こゆき

第1話 始まりの日

それは真っ白な世界で起きた出来事だった。

心臓は苦しくなるほど打ち鳴らし、腕の中にいる重みに逃げ出したくなるほどの恐怖と、静かな空気の中に鳴り響くサイレンの音。

周りの声が聞こえずらい。息が苦しい。何も考えられらない。

涙で視界は歪み、震えが止まらない。

遠のく意識の中、腕の中の彼がどんな顔をしていたのか必死に思い出す。

それでも、歪んだ景色の中で見た彼の顔を思い出す事が出来ずに、暗闇へと堕ちた・・・・。




「・・・・なんだ?お前・・・?」

もうすぐ夏も終わりそうなその日、いつもの帰り道で花壇に腰をかける男の子の姿が目に止まる。

それは、恐らく幽霊とか言う類のものであろうと予測できるほど、体は透けていた。

普通なら恐怖で逃げるか、素通りしてしまうその姿に何故か目が離せず、俺はつい声をかけてしまった。

俺の声に反応するかのように、その男の子はゆっくりと俺へと顔を向け、驚いた表情をする。

「お兄さん、僕が見えるの?」

その問いかけに俺は小さくあぁと答えた。彼は戸惑った表情で何かをぶつぶつと呟いている。

「どうしよう・・・今までは誰も見えていなかったのに・・・」

聞き取れそうではっきりと聞き取れない声に、俺は少し苛立ちながら声をかける。

「呪いの言葉でも呟いているのか?それなら、確実に呪い殺せ。それが出来ないなら付いてきたりするなよ。俺はお祓いなんぞ、出来ねぇ」

乱暴にそう言い放つと、俺は横を通り過ぎようと歩き始めた。

すると、今度は大きな声で俺に話しかけてくる。

「待って!行かないで!」

その声に俺は立ち止まり、振り返る。

「僕は呪い殺すなんて出来ないけど、お兄さんに付いて行きたい。成仏なんかしなくていい。僕は罰を受けなくてはいけないから・・・」

言葉の最後は小さな声になっていたが、その言葉は俺の耳にはっきりと届いた。

「・・・勝手にしろ」

俺はそう答えると、また歩き始めた。

罰・・・彼の言葉が俺に重くのしかかる。俺の罪も消える事はないだろう・・・きっと死ぬまで償い続けないといけない。

それが俺の罰・・・だが、それでいい・・・俺も逃れられなくていい・・

罰を受けなければいけない人間なのだから・・・

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