ガイアルーン王国の勇者たちがやって来た……どころじゃない!

「お、オォ、オレはォォォォォォッ!!」

「な、なにこいつ……イッちゃってるわ」

「こいつ、黒鉄レオン……だよな? ドーピング剤の入ったコンソメスープでも一気飲みしたのか?」


 髪が抜けてハゲ散らかし、全身の血管が浮き上がり、ボディビルダーも逃げ出すような筋肉で、さらに肌が真っ赤になっている異形……黒鉄レオン。

 マジでなにこれ。ヤベー薬一気飲みしたとかそんなレベルだぞ。

 待った。レベル……?


 ◇◇◇◇◇◇

 〇黒鉄オン 16歳 男

 〇スキル『勇者』 レベル138

 ※※※??!+/*

 ま×ろ※?+}{

 ◇◇◇◇◇◇


 な、なんだこれ……スキルがバグってやがる。

 さすがにこれはコピーできない。俺もおかしくなりそうだ。

 この短期間でレベル100超え。ああそっか……なんとなくわかった。


「レオンくーん!!」

「お、おい……あれ、レオンかよ」

「な、なんかヤバイよね……」


 お、夢見に鎧塚、相川だ。

 そして悪女神フォルトゥーナ……間違いない。この異常、あいつが原因だ。

 すると、黒鉄レオンは剣を振り回しながら襲い掛かってきた。


「ほぉぉぉあぁぁぁぁあちゃたたたたたたたた!!」

「ぬっ!? ぐ、ぎぎっ……!?」


 狙いは藍音。滅茶苦茶に剣を振り回すが……速い!!

 そりゃレベル100超えだもんな。というか藍音よりレベル高いし。

 藍音も聖剣で受けるが、その重さに苦悶の表情を浮かべている。

 俺はレオンの背後に回り、その背中を強めに蹴った。


「やめろ馬鹿、って……か、硬っ!?」

「じゃまだああああああああああああああ!!」

「げっ……うおわっ!?」


 力任せに腕をブン回すレオン。俺は防御するが、拳が鎧に当たると亀裂が走る。

 かなりの威力。やべえ、こいつマジで強い。

 でも不思議だ。セノと戦った時ほど怖くない。俺が成長している……というか、なんというか、やっぱ殺気がないというか。


「舐めんなぁ!!」

「ギッギッギッギッギィィィィィィ!!」


 おお、藍音も押し返す。だが、レオンのが少し強い。

 このままじゃまずい……!!


「あっ……」

「あっぶねぇ!!」


 そして、剣が弾かれた藍音を庇い、俺は藍音を掴んで横っ飛びする。

 驚く藍音。俺は『ヒーターガン』と唱えると、左腕に銃口のような物が現れたので、とりあえず発砲した。おお、なんかエメラルドみたいな塊が飛んでいく。

 が、黒鉄レオンの筋肉に弾かれた……いやアイツやべえだろ。


「あ、ありがと……」

「おう。どうする、あれマジでヤバいぞ」

「わ、わかってるけど……こうなったら殺すしかないわ」

「こ、殺す?」

「ええ。慧、あいつの気を引いて。あたしが隙を伺って、首を切断するから」

「……わかった」


 異世界あるある……まあ、普通だったら『殺すな』とか『あいつは仲間なんだ……』みたいな展開になるが、アレは無理。

 まあ、可哀想だが……うん、仕方ない。

 俺は『インセクトチョッパー』を装備してレオンに向けると、鎧塚が叫んだ。


「有馬!! おいてめえ、レオンをどうするつもりだ!!」

「倒す。ってかこの状況でどうするも何も……そもそも襲って来たのこいつだろ」

「レオンくん!! 真の勇者様、負けないで!!」

「きゃあああああああっゅ!!」

「が、がんばれー……うん」


 夢見レイナは熱狂しているが、相川セイラはちょっと引いていた……もしかしたら、あいつは目が覚めるかもしれん。

 黒鉄レオンはすでにスキンヘッド。というか眉もまつ毛も抜けてしまい、有り得ないくらい全身の血管が浮き上がっていた……ば、バケモノだな。

 そして気付いた。少し離れた位置にある高台で、悪女神フォルトゥーナが足を組み、岩に座ってこちらを……いや、この場全体を眺めていた。

 あいつ、楽しんでやがる……ああそっか。悪女神フォルトゥーナ、遊ぶためにいろいろ動いているんだっけか。これも一つのショーかよ。


「あぎゃああああああああああああああああああ!!」

「ひっ」


 血管から血が噴き出した。

 そして、筋肉もさらに膨張……上半身だけ膨張して下半身はそのままなので、マジでバケモノにしか見えない。というか、爆発寸前のような気がしてならないぞ。

 

「ありミャああああああああああああああああああああああぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「あ、有馬です。はい……ご、ごめん」

 

 ボコボコボコボコボコ……と、筋肉がやばい。とにかくヤバイ。

 膨張が止まらない。なにこれモンスター?

 もう手に持ってる聖剣が爪楊枝みたいな大きさに見える。


「ちねえええええええええええええええええええええええ───……っぼ」


 そして、黒鉄レオンは爆発した。

 ブォォン!! と、俺の目の前で爆発した。

 血と臓物が周囲に飛び散り、普通サイズの下半身だけがヨタヨタ歩いている。

 俺はインセクトアーマーを解除。鎧のおかげで汚れずに済んだ。

 藍音も口を押え、俺の傍に来る。


「…………う、おえっ」

「うえっ……き、気持ちわるっ」


 トラウマ級の爆発だ……異世界あるあるでもこんな光景ないぞ。

 すると、レオンの背後にいた夢見レイナ、鎧塚、相川セイラが肉片にまみれていた。

 完全に放心している……そして、相川セイラが盛大に吐いた。


「おげえええええええええええっ!!」

「は、はひ、はひひ……っば、ばくはつ」

「え? レオンくん? レオンくんどこ?」


 鎧塚はガタガタ震え、夢見レイナは受け入れられないのか周囲をキョロキョロしていた。

 即死……黒鉄レオンは爆死という壮絶な最後を迎えた。


「ご、ごめん慧……ちょっと腕いい?」

「あ、ああ」


 藍音は俺の腕を掴み、今の光景を少しでも柔らげようとしている。俺としても、藍音の柔らかさと匂いは落ち着く。

 すると、ケルベロスが来た。


「主、終わったぞ」

「え?」


 そして気付いた。あれほど大量に飛んでいたコガネムシが、ケルベロスと天仙猫猫、そしてザレフェドーラさん率いる警備隊に駆逐されていた。


「ぐふっ……あ、兄者……そ、その強さ、は」

「これが、友を信じ、家族を守るための力だ……シュラガザード」

「ふっ……馬鹿、な」


 あれ、いつのまにか兄弟対決も終わってる。さすがに『超越化』したギルティアスさん相手じゃ分が悪かったのか……さよなら四天王。

 俺は呼吸を整え、離れた場所で見ていた悪女神フォルトゥーナを見た……が、すでに消えていた。

 そして、少し目を離した隙に、黒鉄レオンの下半身、夢見レイナ、鎧塚金治、相川セイラも消えていた……くそ、逃げたか。


「……藍音、大丈夫か?」

「う、うん」

「とりあえず終わりでいいのかな……まあ、お茶でも飲んでいくか?」

「……うん」


 戦いは終わり、俺は藍音をお茶に誘うのだった。

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