ガイアルーン王国の勇者たちがやって来た③

 慧と藍音の戦いが始まろうとしていた頃……ガイアルーン王国城下町から少し離れた水場。


「レオンくん。綺麗にしたよ」

「…………ありがとう」


 夢見レイナにズボンとパンツを洗ってもらった黒鉄レオンは、すっかり落ち込んだ様子だった。

 レイナは、乾かしたズボンとパンツを丁寧に畳んでカバンにしまう。

 そして、落ち込んでいる鎧塚金治と相川セイラに声を掛ける。


「二人とも、大丈夫?」

「「…………」」


 完全に落ち込んでいた。

 声を掛けても返事をせず、水辺の傍で俯いている。

 なぜこれほど落ち込んでいるのか……理由は一つ。藍音たちに「役立たず」と言われ、現実に打ちのめされていたからだ。

 少なくとも、異世界に召喚され「勇者」のスキルを得たレオンは、自分こそこの世界の主人公であると思っていた。

 だが、現実は違う。主人公どころか、モブですらない。

 役立たずのゴミ。それは、鎧塚金治と相川セイラも同じだった。

 勇者の仲間……金治はこの世界で活躍する気満々だったし、セイラもレオンについていけば豪華な暮らしができると本気で思っていた。

 だが……もう、理解した。

 この世界は、自分たちの思う通りに動いていない。


(……って、考えてるわねぇ)


 ラーズハハートには、レオンたちの考えが手に取るように理解できた。

 黒鉄レオン、夢見レイナ、鎧塚金治、相川セイラ。

 ファルーン王国の「勇者」……正直なところ、あまりにも見所が少ない。


(私の予想だと、ファルーン王国を離脱してからレベル上げしつつ、ガイアルーン王国に到着するまでレベル100は超えているはずなんだけど……まさか、魔獣との戦いを避けに避けるとはねぇ。ちょっとだけ私の女神としての力を付与したのに、ここまで逃げ腰になるとは……もう少しレベル高かったら、藍音ちゃんたちも話を聞いただろうに)


 実はラーズハハート。ほんの少しだけ「女神」としての力を使い、レベルを上がりやすくしたのだが……道中、あまりにも戦わず逃げ腰だったので、未だにレベルが低い。

 雑魚と言われても仕方ないのである。


(さて、このままじゃ魔王四天王が到着しちゃうわね。仕方ない……)


 ラーズハハートはレオンに近づくと、そっと抱きしめた。


「えっ……」

「勇者様。大丈夫……あなたはやればできる人です」


 ラーズハハートは、レオンに触れて直接「力」を流し込む。

 あまり大きな力は使えない。姉である女神に居場所がバレてしまう。

 なので……一度だけ。


「───ウっ」


 ドクン……と、レオンの心臓が跳ねあがる。

 

「勇者様……この世界が、あなたを待っています」

「オッ、オッ、オッ……お、オレを、ま、待っている……!!」


 一時的に───……スキルを『ブースト』させる。

 スキル管理はもともと、女神フォルトゥーナの仕事。

 この世のスキル全てに干渉することが可能。今は女神としての権能を失っているが、権能に似た「力」を生み出し、操ることができるようになっていた。

 レオンは立ち上がる。


「金治!! セイラ!! レイナ!!」

「お、おう」「は、はい?」「なに、レオンくん!!」


 黒鉄レオンの髪がっ逆立ち、額に青筋が浮かび、筋肉が盛り上がっていた。


「今ならいける……!! オレが、有馬慧を……そして、あのクソ生意気な女、久寿川藍音をブチ殺してやる!!」

「お、おいレオン……?」

「シャああああああああああ!! 行くぜお前らああああああああ!!」


 レオンは、何故か鼻血を出していた。

 二の腕がおかしいくらい膨張し、肌がどんどん赤くなっていく。


「あ、あのレオンくん……大丈夫? なんか赤いけど……」


 相川セイラが心配するが、レオンは腕をグルグル回転させて聞いていない。

 夢見レイナは目をキラキラさせ、荷物をまとめカバンを金治に押し付けた。


「二人とも、行こう!! レオンくんは『覚醒』したんだ……真の勇者に!!」

「「し、真の勇者?」」

「うん!! 見て分からない? どう見ても『覚醒』だよ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 『覚醒』というか『暴走』では……と、二人は言えなかった。

 なぜか、身体から蒸気まで出ている。たった数分でボディビルダーのような体形になり、逆立った髪がまるで獅子のように見える。

 ラーズハハートは苦笑した。


(やりすぎたかな……スキルをブーストさせた影響で身体にも影響が出てる。でも……まあ、なんとかなるかな)


 ラーズハハートは言う。


「皆さん、行きましょう……シャオルーン領地へ!!」


 ラーズハハートが言うと、レオンは走り出す。

 金治、セイラ、レイナも走り出し、ラーズハハートも後を追う。


(さて、これで少しはいい勝負になるかしら。フフ……有馬慧、久寿川藍音、魔王四天王。そして黒鉄レオン……どういう戦いになるのか、見物だわ)


 ◇◇◇◇◇◇

 〇黒鉄レオン 16歳 男

 〇スキル『勇者』 レベル138

 ※※※??!+/*

 ま×ろ※?+}{

 ◇◇◇◇◇◇


 黒鉄レオンのスキルが『ブースト』の影響で狂っていたが、ラーズハハートこと悪女神フォルトゥーナは全く気にしていなかった。

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