湖からの贈り物
さて、湖の浄化が終わり、俺はマオを連れて地上へ戻った。
道中、セノとリアも一緒だ。地上に戻ると、エリたちが待っていた。
「あ、戻って来た!! マオちゃ~ん!!」
「にゃうー」
エリはマオを抱きしめる……マオもネコミミと尻尾を動かして喜んでいた。
周りを見ると、戦いは終わったようだ。
安心していると、ミュウが俺の腕を取る。
「おつかれ~!! ねえねえケイ、湖すっごく綺麗になったねえ」
「ああ。モフモフとモフモフの癒し効果でな……」
「?」
サモエドの子犬とゴマフアザラシの赤ちゃんがスリスリしていた光景しか思い出せないが、改めて湖を眺めると……うん、すごく輝いて見える。
太陽の光でキラキラ輝く湖面は、美しいの一言……お、魚が跳ねた。
すると、ケルベロスが言う。
「湖の浄化が済むと同時に、ゴブリンゾンビが撤退した。奴らは汚れた環境を好む……もうこの地が侵されることはないだろうな」
「そりゃよかった。とりあえず、仕事は終わりかな」
一息つく俺。というかミュウ、胸が当たってるんで……そのままで!! とは言わない。
すると、リアとセノが跪いた。
「ケイ様。この度は感謝の言葉もなく……」
「待った待った。堅苦しいのはいいって。それより、ラプラス族はこれからが大変だろ。早く帰って休んだ方がいいぞ」
「はっ……ケイ様、一つお願いが」
「ん、なに?」
「自分か、姉のリアのどちらかを、ケイ様の部下として置いて頂けないでしょうか」
そ、そうきたか。
異世界あるあるだったら、姉弟を村に迎える!! ってなるんだが……どっちかか。
ハーレム系主人公なら迷わず女の子を選ぶんだろうな。
リア……ショートヘアで、スタイルもいい。まだ怪人態は見てないけど、たぶんカッコいい……でも俺、ハーレムあんまり好きじゃないしな……まあハーレムは要員ではないけど。
「じゃあセノ。村に来てくれ」
「はっ!! 姉さん、行ってくる」
「ええ。村は任せて……村から離れたラプラス族も、戻ってくるかもしれないわ」
「ああ。またガイアルーン王国が来るかもしれないけど……」
「安心して。大精霊様も力を取り戻したわ。イヌガミ様の力も残っているし、何とかなる」
「わかった。ではケイ様、よろしくお願いします!!」
「あ、ああ」
こうして、村にラプラス族のセノが来ることになった!!
ざまあみろ!! 女の子じゃねえっての!!
◇◇◇◇◇◇
村に戻り、セノを連れて『シャオルーン政府』という名の二階建て住居へ。
政府内に入ると、金華さんの使役する半透明の猫たちがいっぱいいた。そして、山盛りの書類に囲まれた金華さんと、ソファで休憩しているサモエドのマイケルがいた。
「お疲れ様です、ご主人様」
「ただいま。いや~疲れた……金華さんも少し休んだら?」
「いえ、やることが山積みですので……そちらの方は、ラプラス族の」
「セノと申します。この度、ケイ様の救われたことで、庇護下に入りました」
「わかりました。では、ラプラス族について、そしてこれからラプラス族がどうすべきか、どうなるのかを詳しく説明してください」
い、いきなりだな……セノも少し困ってるぞ。
金華さんは立ち上がり、眼鏡をクイッと上げる。そして、ソファにセノを案内すると、質問責めにする。
「ラプラス族は地上で生活も可能ですか?」
「えと……訓練を受ければ。オレや姉さんは才能があったのですぐに地上に適応できましたけど、そうでない者は訓練が必要です」
「食事などは?」
「基本的に、地上に出れば人間と変わりません。水中にいる場合は、魚や貝、海藻などを食べていました」
「魚……その魚ですが、どのように捕獲しますか?」
「普通に狩りを。銛で突いたり、姉さんは魔法で捕まえたりしました。湖も浄化されたので、少しずつ魚も戻り始めました……恐らくまた狩りが始まるでしょう」
「ふむ。その魚をこの村で仕入れることは可能でしょうか?」
「……その考えはなかった。姉に確認をしても」
「ええ。セノさん、あなたはラプラス族の住処と、この村を繋ぐパイプ役として働いてもらいます。交易の第一歩……できますか?」
「はい。あの……ぱいぷ、って何ですか?」
なんか新たな交易を開拓しようとしているな。
さて、俺はもうお役御免……こっそり戻るとしますかね。
◇◇◇◇◇◇
さて、政府を出るとエリがいた。
「やっほー、終わった?」
「まあ何とか……とりあえず、ラプラス族はもう大丈夫っぽいな」
エリと並んで歩き出す。
俺は何となく聞いてみた。
「なあエリ……この村、どう思う?」
「どうって、すごいじゃん。ワンコやにゃんこたちが開拓して、魔族がいっぱい来て、今は互いに手を取って開拓してる。住人も増えたし、これからもどんどん増えそうだなー」
「だよな。でもさ……ここまで開拓始まったら、もう俺の出番ないよな」
「はあ?」
なんというか、愚痴だ。
「だってさ、もう俺いらねえじゃん。開拓の邪魔になるかも、って思ってるし」
「……あんた、それマジで言ってる?」
「そりゃまあ……」
「あのねー……そんなわけないでしょ。あんた、自分がどれだけ必要とされてるか考えなさいよ」
異世界あるある……開拓系主人公は長きにわたりチートで開拓、ハーレムを増やし『主人公すげえ!』で周りにチヤホヤされよ……だろ?
でも俺、最初はそこそこ頑張ったけど、今はもう必要ない。
金華さんの指示あれば村は益々開拓されるし、周囲の廃村も復活する。
力仕事が得意な種族が増えてるし、頭のいい連中もいるし……ああ、俺がいないと犬猫のエサとか、スキルの恩恵が消えちまうか。
「まあ、必要だよな……ある意味では」
「……はあ、あんたまさか『自分がいないとスキルの恩恵消える』とか考えてる?」
ぎっくりどきぃ!! 考えバレたし!!
「あのさ、あんたには経験ないの? 命を救われたことや、手を差し伸べられたこと」
「……それはないな。平和な国じゃまずない」
「だったら経験してみれば? 絶望して、行き場のない人たちがあんたに手を差し伸べられて、こんな平和な村で暮らすことできるのよ? あんたに感謝してるに決まってるじゃない……必要ないとか、あんたそれみんなの前で言える?」
「…………」
「ケイ、あんたは必要よ。この村にも、あたしにも」
「……エリ」
「あ、その、あたしにも、ってのは……まあ、言いすぎだけど」
エリは照れていた。
なんか、ジーンときたぜ……よし!!
「ありがとな、エリ。お礼にカッコいい変身を見るか?」
「は?」
「『海人』のオーシャンアーマーを見せようか? あ、ドラゴニュート族のスキルもコピーしなきゃな!! よし、行くか」
「あ、ちょ、待ちなさいよっ!!」
こうして俺は、ドラゴニュート族のスキル『竜闘士』を手に入れるのだった……じゃなくて!!
エリのおかげで、自分の必要性を少し理解するのだった。
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