湖のラプラス
「私はリア、こちらは弟のセノ。見ての通り、ラプラス族です」
気を失ったセノを寝かせ、姉のリアがぺこりと頭を下げた。
現在、戦いを終え、俺たちはようやく『敵意はない』とわかってもらい、こうして落ち着いて話をしている……けど、なんかいまいち距離置かれてるな。
まあ、弟をブッ倒した俺を警戒するのは当たり前だけど。
「それで……私たちに何か御用でしょうか」
「えーと、湖……これ、どうなってるんです? その、助けに来たんですけど」
「はい?」
リアは、「何言ってんの?」みたいな目で俺を見た。
いやまあ……うん、その目ちょっとやめて。
するとエリが言う。
「あのさ、湖……これどうなってんの? なんでこんな汚染されてんの?」
「……ガイアルーン王国です」
「ガイアルーン王国?」
「はい。五年ほど前、ガイアルーン王国の兵士が毒を流し込みました。私たちラプラス族の住処は水中……陸上でも水中でも勝ち目がないと知り、戦えない女子供を狙った毒殺を……」
「ひでえな……」
思わずうなる俺。
リアは歯を食いしばる。
「私たちは毒にある程度の耐性があります。なのでガイアルーン王国は、致死性の猛毒を流し込み、湖の生物を殺し、その生物を腐敗させることで私たちが住めない環境を作り出し弱体化を狙ったのです。策略通り、毒に汚染された私たちは、徐々に弱り……多くの同胞が人間に殺されました。そして、大精霊様も力を失い……今や、私たちが住む一部の水域を浄化するのに精いっぱい。それもいつまでもつか……」
ひ、ひどいなんてもんじゃねえ……さっきまで『変身!!』とか叫んだ俺が恥ずかしい。
ガイアルーン王国、かなりエグイことしやがる。
「外にあなたたちの気配を感じ、かろうじて動ける私とセノで様子を見に来たんです」
「あのー……ラプラス族って何人くらいいるんです?」
「……残り、三十名ほどです。多くが犠牲となり……もう、それだけしか」
ぜ、絶滅の危機。
これはなんとかしないと。
「とりあえず、湖を浄化しなくちゃな……」
俺はスキルを『女神の化身(シロ)』に変え、犬召喚を使う。
◇◇◇◇◇◇
〇犬召喚
・魔犬ケルベロス ・霊犬ブラックドッグ
・聖犬ライラプス ・竜犬テジュ・ジャグア
・大犬モザドゥーグ ・神犬イヌガミ
◇◇◇◇◇◇
とりあえず、前と同じライラプスかな……と、思ったら。
「待て主。ライラプスを呼ぶつもりか?」
「え? ああ、川の浄化をした時みたいに、またお願いしようかと」
ケルベロスが少し考え発言する。
「それならライラプスより、イヌガミを呼ぶといい。ライラプスの浄化は本来、霊的なモノを消し去るのが専門だ。汚れや毒素なども浄化できないわけではないがな」
「イヌガミって、神犬イヌガミ?」
「ああ。一応、オレたちの中では一番の力を持つ」
「なるほど……じゃあさっそく、召喚、『神犬イヌガミ』!!」
ポーズを決めて召喚すると、白銀の魔法陣……でけえ!! が地面に現れた。
神々しい魔法陣だ。形状も複雑で、形が目まぐるしく変化していく。
「う~ん……む? 人間!? 姉さん、下がって!! って、なんだこれ!?」
あ、セノが起きた。
リアも魔法陣に仰天して声が出ていない。エリ、ミュウ、天仙猫猫も同様だ。
そして……魔法陣から現れたのは。
『───……ほほほ。久しぶりの現世……ふむ、だがちと臭いのぉ』
「久しいな、イヌガミ」
『おお、ケルベロス……ああ理解した。我を召喚せし者よ』
「え、あ、はい……え、イヌガミ?」
『うむ』
俺の足元に、銀色の毛並みを持つ『サモエドの子犬』がいた。
サモエド。村にいるサモエドのマイケルより小さい。いやマジで小さい。
もっふもふ。ぽてぽて歩き、尻尾をぷるぷる振る。
『さて主。この老犬に何か御用かな?』
超渋い声で、サモエドの子犬がお座りした。
やばい……クソ可愛い。ってかなにこれ。
「あの、ケルベロス……」
「なんだ、主」
「その、イヌガミ……だよな」
「ああ」
ああ。じゃなくて!!
俺はしゃがみ込み、思わず撫でてしまう。
すると、冷や汗を流す天仙猫猫が言う。
「恐ろしいの……主、その怪物は神に匹敵するバケモノじゃ」
『ほほほ、猫よ……バケモノとはひどいのお』
「猫将軍と同じくらいかの……絶対に戦いたくないの」
天仙猫猫がここまでビビるとは。
するとマオ、天仙猫猫から離れてイヌガミを抱っこした。
「にゃあ、もふもふー」
『おお、抱っこされてもうた。はっはっは』
「ははは……あー、まあいいか。なあイヌガミ、この湖どう思う?」
俺はマオに抱っこされているイヌガミに湖を見てもらう。
『酷いのお……死にかけておる。湖も、精霊も……悲しいのお』
「精霊のこともわかるのか?」
『うむ。主よ、ここの浄化をワシに願うのかね?』
「ああ。ラプラス族と、その精霊を助けてほしい」
『わかった。そうじゃな……ワシが直接浄化してもいいが……せっかくじゃ、ワシの力を水の精霊に渡し、そやつに浄化させるかの。そこの娘、大精霊の元に案内せい』
「え、あ……は、はい」
ビクッとするリアとセノ。
するとケルベロス。いきなり明後日の方向を向いた。
「……何か来るな」
「む……これは魔獣かの」
天仙猫猫も気付く。
セノが舌打ちした。
「この匂いを好む魔獣だ。ゴブリンゾンビ……あいつら、決まった時間にこの湖に飛び込むんだ。そいつらが腐ってさらに、湖が汚れる」
「だから、私やセノが退治しているんです」
「マジか。よし、天仙猫猫とケルベロス、頼んでいいか?」
「ああ、任せろ」
「待った!! アタシもいるし、エリもいるよ!!」
「ふふん、お任せあれ!! あたしだってレベル上がって強くなったしね!!」
ケルベロス、天仙猫猫、エリ、ミュウが前に出る。
そしてイヌガミの身体が銀色に発光すると、俺とマオの身体が輝きだした。
『それで毒を弾き、水中でも呼吸可能になる。さあ、行こうかの』
「え、俺も行くの!? 水中!? マジで!?」
「にゃあ。行くー」
「よし……魔獣は任せる。姉さん、人間、行くぞ!!」
「ご案内します!!」
リア、セノが湖に飛び込み、イヌガミを抱っこしたマオも飛び込んだ。
そして、現れる大量のゴブリンゾンビ……うっげえ、くせえ!!
「くっさ!! おえええええ!! え、あたしの武器足なんだけど、こいつら蹴るの!?」
「アタシ弓でよかった~!!」
「行くぞ!!」
「フフフ、臭いのはお断りじゃ!!」
た、戦い始まった~!!
ううう、身体光ってるし、マジで湖に入るのかよ。こう言ったらアレだが……俺、別に行かなくてもよくないか!?
「うぐぐぐ……ああもう、わかったよ、わかったっての!!」
だが、ここで逃げるのはあまりにも情けない。
異世界あるあるじゃないけど、俺だってやるときはやってやるんだ!!
「あ、有馬慧、いきまーっす!!」
俺は意を決し、紫色の湖に飛び込むのだった。
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