はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう

第一章

プロローグ

「あなたのスキルは『模倣コピー』です!!」


 ある日、クラス総勢三十名ごと『異世界』に召喚され、女神とやらに与えられた『スキル』を調べると、まさかあらゆる能力をコピーする力だったとは……俺、有馬慧ありまけいは思わなかった。

 

「こ、コピー……?」

「ええ。えーっと……『鑑定』によると、あなたは視認した人物のスキルをコピーすることができます。ほら、私を見て……おお」


 ◇◇◇◇◇◇

有馬ありま けい

〇スキル『模倣コピー』 レベル1

・現在『鑑定アナライズ

 ◇◇◇◇◇◇


 窓に映る自分を見ると、こんな画像が表示された。

 どうやら、目の前にいる鑑定人のスキルをコピーしたらしい……コピーって、何でも吸い込むピンクの球体みたいだな。


「すごい!! 慧くん、それ主人公っぽい!! いいないいな!!」

「すごいかな……コピーって、相手いないと何もできないじゃん」

「そんなことないって!! ほらほら、ワイのスキルコピーして!!」

「え……」


 ◇◇◇◇◇◇

相屋そうや 為朝ためとも

〇スキル『相撲取り』 レベル1

 ◇◇◇◇◇◇


「や、やめとく……異世界に来てスキル『相撲取り』って、なんかお前のがすげぇよ」

「そ、そう? 照れるぜ」

「あ、ああ……」

「あ、そうだ……慧くん、『追放』には気を付けてくれ。こういう時、大抵誰か一人は追放されて、のちに奴隷少女や姫騎士や高名な女冒険者を仲間にして、クラスの調子こいてる上位カースト連中を『ざまあ』することになるから」

「ラノベの読みすぎだ。あと、そういう展開ってざまあ後は大抵迷走するモンだぞ」

「でへへ……だって、憧れの異世界だぜ? 地球人の妄想力って最高だぜ。ありもしない世界が『実はあった』とか、しかも思った通りの世界とか!!」


 ボソボソ話す為朝。

 ちなみにここ、召喚された異世界で、スキルを調べるための部屋。

 クラス総勢三十名。そして先生一人……みんなスキルを調べている。


「いや~、残念でしたな慧くん」

「何が。ってかお前テンション高すぎ……異世界召喚とかは知ってるけど、マジでやられると恐怖しか感じないんだが」

「まあまあ。慧くんは可愛い幼馴染もいない、想いを寄せられている可憐なクラスメイトもいない、追放されたのちに追っかけるような子もいない。主人公ではあり得ませんな。よく考えるとコピーって微妙……」

「お前、その異世界脳やめておけ」

「はっはっは。すまんすまん、つい興奮して」

「この『相撲取り』め……」


 さてさて、そろそろ説明すべきかな。

 なぜ、俺たちがこんなことになったのかを。


 ◇◇◇◇◇◇


 時間は半日ほど前に遡る。

 いつも通り登校し、教室に入り、為朝に挨拶し、あいつのちょっとウザいラノベ語りを聴き……あっという間に始業。

 先生が壇上に立った時───……クラスが光に包まれた。

 気が付けば、星を散りばめたような空間に、俺たち三十人はいた。

 そして、そこに『異物』……変な女がいた。


「初めまして皆さん。異世界ファルーンにおいて『召喚魔法』が行使されたので、あなたがた三十一名を『召喚』します。あ、地球ではちゃんとあなた方は『存在』することになっていますので、ご安心くださいね~……では、スキル付与!!」


 一方的にしゃべり、俺たちに向かって妙な光を浴びせ、気が付いたら古代の城っぽい場所にいた。

 唖然とする中、自在錯誤なフリフリドレスを着たお姫様が言う。


「成功です!! お父様……女神の勇者たちを召喚しました!!」

「おお……!! こ、これで、世界は救われる!!」


 すげー盛り上がってる。

 そして、最初に立ち上がったのは……このクラスの委員長であり、バスケ部所属……ではなく。


「異世界、キター!!」


 俺の席の前に座っていたラノベ狂人、宗屋為朝そうやためともだった。

 他にも「ラノベじゃん……」とか「マジな召喚……?」みたいな声が聞こえるので、クラスにもけっこうラノベ愛読者がいるようだ……というか、今はふつーにアニメも異世界尽くしだし、朝のニュースで取り上げられるくらい異世界アニメは浸透してる。

 すると、今度こそクラスカーストグループの一人、黒鉄くろがねレオンが言う。


「女神の勇者、って……オレたちのことか?」


 お姫様も、ラノベ狂人よりツラのいいレオンを見て頷いた。


「その通りです。勇者様……あなた方は選ばれました。どうか、女神の力を持ち、この世界を救ってくださいませ!!」

「おいおい慧くん、マジだ。マジなヤツだぜこれはぁ~!! うほぉぉぉ!!」

「お前静かにしろよ」


 俺は為朝にチョップ。レオンが咳払いし、その隣にレオンの彼女である夢見ゆめみレイナが寄り添う。


「れ、レオンくん……」

「安心しろ。オレが守るから」

「う、うん」

「幼馴染カップルだぜ、あれ主人公だよね慧くん」

「お前静かにしてろっつの」


 今度変なこと言ったら頭叩こう。

 すると、カースト上位連中がレオンの周りに集まり、姫様とやらを質問攻めにする。

 ここはどこだ、とか。帰れるのか、とか。何をすればいい、とか。

 他にもクラスメイトたちはいるが、レオンたちに会話を任せ、成り行きを見守るようだ。

 さて、俺たちの担任である美人教師は……。


「ひぃぃ、な、なんだここ、なんだここは……」


 あ、美人教師じゃなかった。五十超えたサラリーマンハゲおっさん教師、山田先生だったわ。

 誰も手を貸さないので、俺が先生に手を貸す。


「先生、大丈夫っすか」

「お、おお……す、すまん有馬」

「いえいえ。あの……ここ、異世界っぽいです。知ってます、異世界」

「あ、ああ……ニュースとか新聞で、異世界系が人気とか」

「その認識でいいっす。で、俺らは勇者とかで、この世界を救う役目を与えられたようですね」

「なんと……おお、妻が家で待っているんだぞ。なんでこんなことに」

「お気の毒です……」

「……有馬、お前は落ち着いているな」

「ええ、なんというか……こういう性格なんで」


 と、先生と話していると。


「それでは皆さん、これより皆さんには、女神様から与えられたスキルを確認させていただきます」


 こうして、場所移動し……俺たちはスキルを確認することになったのだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 と、こんな感じでスキルを確認した。

 で、何より以外だったのは。


「あなたのスキルは───……『賢者』です!!」

「へ?」


 サラリーマンハゲおっさんこと山田先生が、『賢者』とかいうレアスキルだった。


「なっとくいかん!! 慧くん、ああいう『賢者』って、クラスの秀才とかが持つスキルだろ!? なんであんなハゲ教師が!!」

「お前めちゃくちゃ言うな……クラスの秀才っていうなら、先生だろうが」

「教師は除外だ!!」


 ちなみに、レオンは『勇者』で、幼馴染ヒロインの夢見は『聖女』だった。

 これには為朝もニッコリしてた……何なんだこいつは。

 お姫様……あ、そういや名前言ってたけど聞いてなかった……も、みんなのスキルに納得していたし、召喚としては大成功だったらしい。

 その後は、一人一室部屋を与えられ、パーティーまで休めと言われ解散となった。

 俺は、与えられた部屋でベッドにダイブ。


「……『模倣コピー』かあ」


 鏡を見ると、俺の情報が見える。


 ◇◇◇◇◇◇

有馬ありま けい

〇スキル『模倣コピー』 レベル1

・現在『聖女セイント

 ◇◇◇◇◇◇


「あ、そういえば夢見を見てたからか……『聖女』ねえ」


 試しに、今朝ぶつけて少し血が出た指先を見る。

 

「……回復しろ」


 そう念じて指を撫でると……傷が淡く輝き、消えた。


「マジかあ……」


 ようやく。俺は理解した。

 ここは異世界。名前はファルーン……マジで異世界に来たんだ、と。

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