幕間 第05話

 やがて、史郎たち3年生の高校最後となる文化祭がやってきた。

 もちろん、学校はピリついている。女生徒の大多数が目をギラつかせて、あの男を狙っている。

 校内の曲がり角という曲がり角には、数人の女生徒がスタンバイしており、ぶつかるタイミングを測っている。正面から誘いに行く算段の女生徒達も互いに牽制しあい、手を出せずにいた。


「あっ、あの! さ、斎藤先輩! わ、わた……」


「ん?」


「はうっ!?」

〈クラっ〉


「!? 大丈夫?」


「ひぃっ!?」


「ち、ちょっと!?」


 倒れる女生徒を支える史郎。


「おいおいおいおい」


 ヤレヤレな頼斗。


「いや、ちょっと喋って失神って俺めちゃくちゃヘコむんだけど……。ごめんね……。後で訴えないでね?」


 史郎は、お姫様抱っこで女生徒を保健室に運ぶ。


「はぁ……。今日で何人目よ……」


 疲れた顔の保健室の教諭が呟く。


「いやぁ……何と言うか……すいません……」


「史郎君が悪いワケじゃないんだけど……史郎君が悪いのよね」


「ちょっとメンタルが持たなくて、暫く学校休むかもしれないです……」


「ダメ! ダメよ!! そんな事したらもっと大変な事になる!! ダメよ! 絶対学校に来てよ!?」


「? は、はい」


 二人は保健室を後にして、自分のクラスの出し物の準備に向かう。


 二人のクラスの出し物は、初めは【執事喫茶】だった。女性陣の強力なプッシュで実現しそうになった時、史郎が呟いた。



「たこ焼きっておいしいよね」



「私、たこ焼き屋がいいわ!」


「ウチもたこ焼き屋しか無いと思ってた!」


「誰よ、執事喫茶が良いって言ったヤツ!」



 そして二人は準備に向かう。男子は屋台制作と焼き、女子は売り子がメインだ。


 空き教室では、本格的な屋台が組み上がっていた。タコは地元の漁師から直で仕入れる。


「【タコ焼き史郎】……。なんで俺の名前なの?」


「そりゃあ……なぁ?」


「?」


 二人が細々とした屋台の装飾をしていると、

そそそっと教室の扉が空いた。

 隙間から春が顔を出す。どよめく教室。とくに男性陣。


「おぅ春じゃん? どした?」


 頼斗は安定の無視。


「春、どうしたの?」


「史郎さん、ちょっと……時間ある?」


 史郎が教室を見渡すと、壊れたオモチャの様に首を縦に振る男性陣。


「いいよ。どっか行く?」


「あっちの空き教室はどう?」


「いいよ」


 史郎と春が去った教室は男女入り乱れて、咽び泣く声が響いていた。





 夕陽が沈む直前の、赤焼けた空き教室。二人は空いた席に向かい合って座っていた。


「し、史郎さん……文化祭なんだけど……」


「うん。春さぁ文化祭、時間ある? 良かったら俺と回ってくれないかな?」


「ふああ!? わ、私! 私!?」


「うん。お願い」


「はわわわ!? し、仕方無いわね!? こ、今回だけだからねっ!?」


「ありがとう。すげー嬉しい。寒いから気をつけて帰るんだよ? 俺、まだ準備あるから帰れないしさ」


 史郎は、着ていたジャケットを脱ぐと春にかけた。


「寒いから羽織ってけばいいよ。じゃあごめん、俺行くね」


 春は目が回り茹だっていた。パニックに次ぐパニック。ジャケットから良い香りもするし、自分で何を言ったかも覚えていないし、ここがどこなのかもわからない。

 準備を終えた史郎が、気になって空き教室を見に行くとフワフワと揺れている春が居た。

 苦笑いを浮かべる史郎は、春の手を取り家まで送って行く。

 家に帰って、ご飯を食べる時に正気に戻った春は、頼斗に帰りの経緯を聞かされ、何故正気に戻してくれなかったと言いながら、愛刀を持ち出してくるのであった。

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