幕間 第01話



「おう史郎、おはよーさん」


 城ヶ峰高校の正門前で、親友の沢崎頼斗が話しかけてきた。二人は小学校来の親友で同じクラス。高校ではいつもつるんでいた。周りは登校してきた生徒でごった返しており、パンを咥えながら曲がり角を曲がる者、不良に絡まれてる女の子を助ける者、鼻緒が切れて困っている和装女性などでいっぱいだ。


「おう、頼斗。今日ははえーな」


に叩き起こされたわ。布団捲って竹刀で叩いてくるって信じられるか?」


 頼斗は、遠い目で空を見つめる。


「……。春はそんな事しねーだろ」


〈ぼそっ〉

「あいつ、お前の前では猫被ってるしなぁ……」


「でも、本当にそうなら止めさせないとな」


「いやっ、ちょちょっと待ってくれ! お、俺の勘違いだ! 寝ぼけてたんだよ! 夢だ夢! 春には絶対話すな! 話す必要が無い!!」


「何でそんなに焦ってんだ。てかどんな夢見てんだよ」


「すまん、まだ寝ぼけてた! 俺が悪い! 忘れてくれ!」


「? よくわかんね」


 突然、周りの話声が止んだ。二人がふと校門を振り返ると、モーゼが海を割ったかの様に人混みが割れていく。

 割れた先には絶世の美女と言っても過言では無い程の愛くるしい少女がいた。

 彫刻の様な整った顔にストレートのロングヘアー。見る者全てを惹きつけるルビーの様な瞳。少女は悠然とこちらへ向かって来ている。


「史郎さん。おはようございます」


 綺麗な所作でお辞儀をした少女がニコリと微笑んだ。

 周りでは「はうぁ!」やら「ふおっ!?」やら男子生徒がモジモジしている。


「あぁ、おはよう春。そのキーホルダー付けてくれてるんだ。嬉しいよ」


 史郎が挨拶し、微笑み返す。


「はぅう!! も、もちろんです! 家に帰ったらプチプチで包んでキズが付かない様にしていますっ! 寝る時も一緒です! 昨日はワックスもかけてーーーーーー」


「? 大事にしてくれてありがとう。さぁ遅れちゃうよ。行こっか」


 史郎は、正面玄関に向けて歩き出した。


「はあぁぁぁぁぁ尊いっ……」


「何やってんだよ」


 頼斗の胸ぐらが掴まれる。そこには笑顔の春が居た。


「おにい、余計な事……、喋ってないでしょうね?」


 頼斗を激しい悪寒が襲う。


「あ、当たり前じゃないか……。あ、当たり前じゃないか……」


「……帰ったらお話ね。何でおにいが史郎さんの隣を占領しているの……。いつもいつもいつもいつも……」


 頼斗は震える事しか出来ない。見ている男子生徒の中には興奮して息を荒げる者まで出る始末。


「おーい? あと10分ぐらいで始業のチャイム鳴んぞー?」


「史郎さんすいません! 今行きます!」


 もちろん、頼斗の背中で春が胸ぐらを掴んでいる事は見えていない。


「おにいだけいつも隣、おにいだけいつも隣、おにいだけいつも隣、ーーーーーー」


 春が通り過ぎてから、頼斗は震える足を正面玄関に向けて歩き出した。


 肩を担がれて登校する男子生徒、頬を赤らめてモジモジしながら遠巻きに史郎を見てキャーキャー言う女子生徒。

 春の兄だけあって、頼斗もかなりのイケメンだが、史郎のモテ具合とは次元が違い過ぎる。


 これが、城ヶ峰高校の朝の日常だった。



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