第12話

 シドとファムは、人目を避けるように山の中を歩いていた。


「ユストゥル山の麓……。そこに奴らが……」


「えぇ、たぶん本拠地。研究施設があるわ」


「警備の数は?」


「門にはニ人。施設はそれなりの大きさだったから、中には500人程って所でしょうね。中の警備まではわからないけど……」


「そうか……。キレたクズを敵に回した事、後悔させてやるよ」






 所々岩肌が見える、ユングフラウの様な山。

ユストゥル山の麓には、石造りの防壁があり施設を取り囲んでいる。

 付近の森は、深く広大。厳しい自然環境、A〜Cランク魔物の巣窟という事で、各国が統治出来ない、地図上の空白地帯になっていた。


 防壁の門から1km程度離れたなだらかな丘。

そこには、蔦に覆われた二人。

 シドとファムは、ニスデールを着て腹這いになっている。

 ファムは、単眼鏡らしき物を覗き込み、シドはゴーグルをつけている。ゴーグルには各種数値が表示されていた。


「ファム」


「ええ」


「セット。3、2、1……」


 レイが、狼狽している兵士を貫く。


「……よし、2キル。今日はこのまま退く」


「わかったわ」


 到着して一ヶ月間、二人は付近の調査•マッピングを行った。

 ニスデールに、気配遮断インビジブルの魔法をかけ、目立つ昼間を避けて、暗くなってからの作業。

 マークした狙撃ポイントは、300箇所を超える。一度使ったポイントは使用しない事を徹底していた。


 一日に、一〜三人を淡々と殺していく。

 見回りをする者、見張りの者、施設から逃げ出してきた者も。



「門から出たら殺される。でも警戒には誰かが出なあかん。毎日数人づつ減っていって、弱体化•恐慌に陥らへん組織は無いで。もう一ヶ月弱か……。そろそろやろな」


「ええ。早馬をわざと逃して二週間。そろそろでしょうね」



 

 それから三日後、一台の馬車が防壁の門を潜ろうとしていた。


「ファム」


「ええ」


「セット。3、2、1……」


 レイが射出され、馬車のキャビンへ向かうが、半円状の障壁に弾かれてしまう。


 火花が散った。




「……間違いないわ。……メフィスよ」


 馬車から降りてきた、フードを目深に被った人物が、こちらを指差し何かを指示している。


「……流石に気付くか。退こう」


「ええ」



 射撃ポイントと同じく、拠点も毎日移動している。ファムが、植物魔法で簡易のドームを形成し、拠点としていた。


「シド。あなた眠る時ぐらい、そのゴーグル外しなさいよ」


「あかん。これは願掛けやねん。アイツを殺したら外すって決めとんねん。まぁ寝にくいけどな」


「そう……。シド、あなた最近寝れてるの?」


「ん? 寝れてるで?」


「ヒール」


 シドを淡い光が包み込む。


「サンキュな」


「なら良いんだけど……いよいよね」


「ああ」



「明日、地獄を始めてやるよ」





 早馬以外の通行者は、全て殺してきた。ファムが施設の見回り、門番を狙撃する。隊列を伴う通行人は、ファムが施設を見張り、シドが殺す。右手の人差し指を落として。


 外に出れば何かに殺される。備蓄の食料も少なくなってきており、満足な食事はあたらない。

 地下水には下剤成分のある種子が溶かされ、深刻な脱水症状を起こす者も。発狂した人間は隔離されていた。


 最早、施設の機能の殆どが停止していた。


「はははっ。やってくれるねぇ……あのクソエルフ……」


 メフィスは、指で机を叩きながら苛立ちを隠せないでいる。


「クソがぁ!! ここまで! ここまで造り上げるのにどれだけの金と時間がかかったと思ってやがる!! ーーっ!! があああー!!」


 メフィスを止められる者など、誰もいない。

施設内の私室で、何人もの鮮血が舞った。

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