第8話

 次の日の夕方、シドは用事があると言い、出かけて行った。だが、どう見ても怪しい……。


《目がバタフライするぐらい泳いでた。120%、後ろめたい事をする気なのよね。でも、シドの時間はシドのもの……。うーん。ステラさんに相談してみようかしら?》



 ファムは、ステラの店へと向かった。



「ひゃっひゃっひゃ!! あいつ大事にされてるねぇ〜」


 頬が赤く色づき、下を向くファム。


「あのバカはね。ガチガチに縛って、引き摺り歩くぐらいじゃないとダメだよ。アンタの勘は合ってる。あいつが行ったのは、アンナの店だね。間違いない」


〈ポン〉


「そうだ。このままお使いも頼まれてくれないかい?ユグニタイトっていうコーヒー豆なんだけど、10000エイン分欲しいのさ」


「はい。良いですよ。何故、喫茶店なのかはわかりませんが……やっぱり……アレですか?」


「ひゃっひゃっひゃ! あんたもだいぶアイツの事わかってるね! アレだよ」





〈キィー〉


 木造りのスイングドアをあける。

赤煉瓦の内装に、カウンター席のみ。

 店主は、優しい微笑みでファムを迎えた。


「いらっしゃい。……。あなたがシドの彼女ね」


「ち、違います!! ど、どうしてそんな事を……」


「ステラおばさんが言ってたわ。ニスデールの、フードを目深に被った女の子。シドの彼女だって」


「ただの友達です!!」


「ふふっ。そういう事にしておくわ」


「……。本当に違うのに……。あ、あの! ステラさんに、シドはきっとここだろうと聞いて来たのですが……」


「そうよ。2階に居るわ」


「あ、あとユグニタイト? 10000エイン分欲しいのですが……」


「はいはい、ステラおばさんのお使いね」


 アンナが、コーヒー豆を紙袋に入れて渡す。

小皿に五粒ほど出してファムに見せた。


「わぁ……すごい綺麗……。それに、どこか柑橘系? の香りもしますね」


「ユグニタイト。私しか作ってないの。コーヒー豆とジュラスの実を一緒にユグニに食べさせて、糞からコーヒー豆を採取するのよ」


「ええっ!?」


「ユグニの体内で発酵した豆に、ジュラスの実の風味が合わさって飴色に変化するの。とても綺麗でしょ? まぁ、殆どステラおばさんしか飲まないんだけどね」


「何でですか?」


「ジュラスの、ほのかな香りは良いんだけど……独特のエグみがあるの。でも、ステラおばさんはそれが良いって。飲んでみる?」


「エグ味……や、やめておきます」


「ふふふっ。そのまま二階に上がってちょうだい。1階に呼んでも、コーヒーの匂いを嫌がって降りてこないわ」





「レイズぅ! 20000っ! あかん! 神か! こんな事あんねやな! ストレートのフラッシュか!? 今日こそ、こんのアホ共のケ○の毛までむしり取ってやんねん! やべぇな! ついに俺の時代やーー! 盛り上がってまいりましたぁ!!」


〈スパぁん!!〉


「いってぇ!?」


「フォールド。帰るわよ」


「はぁー!? まてまてまて!? 今からや!

今からなんや!!」


「賭博場の出入り禁止。及び金銭を伴う賭博を禁止する」


「マジか!? マジでか!?」


「大マジよ。アンタ、叫びながらポーカーしてるのよ? 勝てるワケ無いじゃない」


「そんなワケあるか! そんなアホおるわけないやろ!!」


 シドは、周りを見渡した。


〈すっ〉

〈すすっ〉


 天井のシミを数える者、床を見る者……。

誰とも目が合わない……。


「?」


「帰るわよ」


「マジでムリやって!? 俺から賭博取ったら

只の好青年って要素しか残らへんやんけ!」


「童◯」


「あぁっ!? テメェ、ランド! お前は言っちゃいけねぇ事を! その一線を超えたら後は『◯貞』」


「っざけんなサラス! てめぇら後でグェっ!?」


〈ズルズルズル〉

 首根っこを捕まえて、シドを引き摺るファム。


「ふふっ。帰るわよっ ど◯てい」


「ぐはぁ!?」

〈ガクン〉


 月明かりの下、小さな足跡一人と二本のライン。少女の足取りは、何故か少し嬉しそうに軽やかだった。

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