いつか

色音

1追

いつか願った。

この世界で僕とあの子だけになれたら。

あの時の僕は子供で…。

今でも子供という枠から外れる事はできていないが…。それも今では叶ったら苦痛でしかないだろう。

僕は、病院の一部屋でカーテンに揺らぐ風と共にゆらゆらと水を運ぶ。

もうちょっとだけ。

もう少しだけあの子を見て聞いて話して笑って泣いて怒って少しだけ、少しだけでいいから今日という日を長引かせたい。

同時に早く終わってほしくもあるんだけど。

終わってしまって明日を迎えたらあの子が身罷ってしまったことを夢から現実にしてしまいそうで…怖い。

太陽がこちらに手を振り反対から暗闇がやってくると僕はその部屋をぶらり立ち去り病院から姿を消し等間隔の電灯の下をふらふらと歩く。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

息を切らしながら少しづつ足取りを早めながら歩く。

僕は進む方向を変え西に舵を取る。

街灯が消えて階段を登る。

一段飛ばし二段飛ばしひとつずつ…また二段飛ばし……不自然なリズムで階段を上がる。

あの子と僕の楽しそうな登りを少し前に見て頭を下げて僕は登る。

「はぁはぁ…スゥーふぅ」

息を本当に切らしなんとか上りきり僕は西に歩き少し開けたところから少し前にあの子と僕で見た景色を見る。

あの頃の空気を完全に共有し完全に想起できるかと思ったけれどそんなことが出来るわけもなく。ただ寒い空気を肌に感じて、今見れば大したこともない景色を見る。

気づけば明るくなり再び太陽がこちらに手を振る。

それを繰り返す。

いつの日か…僕は…

「…なにをしているんだろうか」

私は自分自身に呆れ掠れた声で呟く。

今もあの子を探す。

どこにもいない。

この行いが他者から見たらものすごく無意味である意味不審者だろう。

分かりきっているこの行いに意味もないしゴールなどもない。

それでも、続ける。

一途に熱心に。

無神論者であるのにも関わらず今だけは神に願う。彼女に会いたい。

ふと、気づくと寺にいた。

そこに人の気配はなく。

空気が生きているような気もしない。

それこそ、時が止まっているかのように感じるのだ。

目の前がフワリと光る。

蛍のような光が僕をどこかへ誘う。

それを動かない足で必死に追いかける。

そして

「あぁ……あぁ……」

光が消え周りが一気に明るくなり白い花が添えられている。

僕の目は前に全神経を向け離さない。

目の前にいるモノの正体を知っている。

この世界で僕だけが知っている。

「名前を……変えたんだね、」

目を瞑り僕は……。


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いつか 色音 @sikine_0

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