第4話色んな形があって当然
恋人である神田桃は現在売れまくりの女優だ。
ドラマや映画に引っ張りだこで休みらしい休みは殆ど存在していなかった。
早朝に家を出ては深夜辺りに帰ってくることが殆どだった。
「毎日家に帰ってくるの大変じゃない?現場の近くのホテルでも取れば?」
深夜に疲れた表情で帰ってきた恋人に優しさからくる言葉を投げかけるが彼女は首を左右に振る。
「一日に一分でも幹の顔を見ないと…元気になれないの」
そんな甘えたような言葉を口にする恋人に僕は軽く苦笑する。
「桃が良いなら…それでいいけどさ。お弁当はちゃんと食べれた?」
僕は恋人のために前日の夜には、お弁当を作り置きしているのだ。
彼女の食生活を管理しないとならないのは、恋人が女優だからと言えるだろう。
体型を維持して健康的な食事を取ってもらいたい。
そんなことを思うと僕はかなり料理の勉強をしたのだ。
「うん。美味しかったよ。明日もお願いして良いの?」
「あぁ。もう殆ど準備できているから。後はご飯をよそうだけだよ。起きたら自分でやってくれる?」
「うん。それぐらいは出来るよ。私の出発が早すぎるから幹は起きれないよね」
「ごめん。深夜まで起きてて早朝起きるのは…日中の家事が疎かになると思うから」
「全然いいよ。責めているわけじゃないから。寝顔を見るだけでも元気になれるから」
「そうなんだ。じゃあ存分に見て行ってよ」
恋人になっていくらかの時間が経過していた。
僕らはそれなりにカップルらしくなっていると思われる。
普通の仲良しカップルとは少しだけ違う形かもしれないが、僕らはお互いが必要な存在だと理解している。
僕もきっと桃に依存しているし、桃も僕に依存しているだろう。
その依存の属性が違っているのは明らかだが…。
僕は生活面で彼女を支えているつもりだが、金銭面は全て彼女に甘えている。
彼女も金銭面で僕を支えているだろうが、生活面で僕を頼っている。
それに二人共が精神的にお互いに依存しているのは明らかだ。
お互いのことを切っても切れない間柄だと感じているのは誰の目から見ても明らかだった。
それが共依存と言われたとしても僕らはそんな言葉に何の意味も嫌味も感じいない。
これが僕らの形だと信じている。
痴漢から救っただけの美少女がいつまでも僕を忘れないで想い続けてくれたのは奇跡に近い。
それに探偵を雇って僕を見つけてくれたのも感謝しか無いのだ。
僕のあの日の行動に間違いは何もなかったのだ。
過去の自分を誇りに思うと現在の自分にも目を向けたかった。
現在の僕が未来の僕に誇られる様な存在で有りたい。
そんなことを簡単に思うと明日は早く起きて桃の見送りをしたいなどと感じるのであった。
翌日。
アラームの音で目を覚ますとすぐにキッチンへと向かう。
桃のお弁当にご飯を詰めると軽い朝食の準備をした。
桃のマネージャーが自宅の前まで移動車で来ているはずだ。
移動中でも片手で食べられるサンドイッチを手早く作る。
起きてきた桃はすぐに支度を整えるとリビングに顔を出した。
「起きてくれたんだ…ありがとう」
美しく微笑む桃を見て僕は少なからず昨日の自分に感謝した。
「昼食のお弁当と…こっちは移動中に食べられる朝食だよ。今日も頑張ってね」
そんな挨拶を交わすと桃は僕の手からそれらを受け取って急ぎ足で玄関へと向かった。
「もうマネージャー来てるから。行くね」
靴を履いた彼女は僕に向き合うと背伸びをして軽くキスをしてくる。
「うん。いってらっしゃい」
それを受け止めると彼女は微笑んで玄関の外に出る。
ふぅと息を吐くと本日もここからスタートするのであった。
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