不意に家へ訪れてきた美女は昔、駅で痴漢から助けてあげた美少女だった件…
ALC
第1話こんな展開あったら怖い…
三十歳で独身。
馬車馬のように働く社畜の僕に恋人など存在するわけもない。
本日は珍しい休日で前日の深夜から泥のように眠っていたわけだ。
もう目を開けたくない。
このまま静かに安らかに眠り続けたい。
そんな思考が眠っている自分の無意識が感じ始めた時…。
心臓の鼓動はゆっくりと静かなものへと変わっていく。
このままピタリと停まってしまうような気さえしていた時…。
ピンポーンとインターホンの爆音でドキンと心臓は再び息を取り戻したかのように大きく跳ね出す。
ビクッとして目を覚ますと一度全身を落ち着かせるために深呼吸をする。
ベッドから這い出て玄関へと向かった。
扉を開けて僕は絶句する。
玄関の外には絶世の美女が立っているからだ。
多分だが二十代序盤から中盤の若い美女だと思われる。
まるで見覚えのない女性に僕は困り果てて言葉を失っていた。
「私のこと…覚えていますか?」
突然の告白の様な言葉に僕は不可解な気分のまま首を傾げた。
新手の詐欺や押し売りなどだろうか。
そんなことを想像させるほど目の前の女性は美人で華があった。
「えっと…まるで記憶にないですね」
詐欺や押し売りに引っかかるわけにはいかないと玄関の扉を閉めようと一歩後ろに家の中へとたたらを踏んだ。
「十年前…駅のホームで少女を助けましたよね?」
その言葉を受けて僕は何故か動くのを止めた。
そしてそこから軽く思考する。
だが思考する必要もないことだと簡単に気付くと一度頷く。
「僕の経験として痴漢から少女を救ったのは一度だけですね…」
目の前の美女と目を合わせるのも気まずくて少しうつむき加減に声を発すると美女はぐいっと前のめりになって口を開く。
「その時の少女です!ずっと探していました!」
「え…?え…?」
「探偵を使って調べてもらったんです!あの時、名前を教えてくれましたよね!?」
「あ…そうだったかな…」
「はい!今でも覚えています!
「あ…うん。そうだね…」
「家に上がっても良いですか?」
唐突にグイグイと攻めてくる美女の猛攻に気圧されると僕はどうしたら良いのか分からずに玄関のドアを大きく開いた。
「お邪魔します」
入って良いと言う合図と受け取った美女はそのまま玄関へと入ってくる。
靴を脱いでそのまま一人暮らしのマンションへと入ってきた美女は廊下を抜けてリビングへと向かった。
玄関の鍵を閉めるとこの後の展開をイメージしながら後ろを追う。
リビングの椅子に腰掛けた美女を目にした僕は冷蔵庫からお茶を取り出した。
「人が来ることなんて無いので…気が利いた物は何もないんですが…」
そんな前置きをしてテーブルの上に新品のお茶のペットボトルを差し出した。
「ありがとうございます。私の名前って覚えていますか?」
「いや…全然覚えてない。ごめん」
「いえ。良いんです。あの時の私は高校生ですから。今でも私にことを覚えているとは思ってもいませんでしたよ」
「そう。なら良いけど…。それで…要件は何かな?」
「はい!………」
お茶を一口含んだ美女はゴクリとそれを飲み込んで一気に要件を伝えてくるのである。
「私と付き合ってください!この十年間、須藤さんを見つけるためだけに過ごしてきたんです!私は須藤さんとしか一緒になる気は有りません!私と付き合ってください!」
目の前の美女の名前もまだ思い出せていない。
僕はこの美女に対してどう返事をするべきなのか…。
これから僕こと須藤幹と過去に痴漢から救った美少女。
今ではすっかり美女へと変身した彼女とのラブコメは始まろうとしている…のか?
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