第176話 ヒメ様温泉
「提案?」と、ルクシアが興味ありげな表情でアイカを見た。
アイカが率いるパーティに誘うのかと、皆が思った。が、アイカの口から出た言葉は意外で、かつ納得のいくものだった。
いつものアイカだと。
「リティア
「賊を集めて?」
「はいっ! さすが《天衣無縫の無頼姫》だと思いません!? 荒くれ者の皆さんや、無法者の皆さんを自分の民にするだなんてっ! あっ! さっきいた髭モジャのジョルジュさんも元は賊の大親分だったんですよーっ!」
「へぇ~、面白そうだな」
「ルクシアさんなら、きっとリティア
「ははっ! 私にプシャン砂漠を渡れってか?」
「大丈夫ですよ! この私でさえ渡れたんです。しかも、行きと帰りと2回も! ルクシアさんだったら余裕です!」
「……お母さん」
と、アイラが小さな声で、口を挟んだ。
「ん? なんだ?」
「……ルーファの元賊たちの集落は、私がつくったんだ。もちろん、私だけでつくったって訳じゃないけど……、その……」
ルクシアはにんまりと、しかし初めて親らしい表情を浮かべた。母親らしいかどうかは、ともかくとして。
「よし、分かった! アイラの仕事を見に、いっちょプシャン砂漠を渡ってみますか。47歳年下の従姉妹、無頼姫殿下の顔も久しぶりに拝みたいしな!」
カハッと笑ったルクシアは、湯で顔をバシャバシャと洗い、もう一度、気持ちよさそうに笑った。
そんなルクシアを、アイラは照れくさそうに見詰めていた。
*
『そろそろ帰ろうかの。泉は元の冷水に戻る故、はやく上がれ』
と、ヒメ様の言葉で、皆、泉から出た。
光り輝きつづけてはいたが、あまりに自然に微笑んで話を聞いていたので、神様であることを、アイカ以外の皆が少し忘れかけていた。
『
「営業……」
『冗談じゃ。……異界でくらいハメを外させよ。しかし、この名湯は女子の間だけの秘密じゃぞ?』
皆が苦笑い気味に、首を縦に振った。
『……アイカよ。招魂転生者たるそなたには、まだまだ数奇な運命が待ち受けておるやもしれん。が、我に会いたくなれば、この泉にて、我を呼べ。アイカの求めには、必ずや応えようぞ』
そう言うと、ヒメ様は姿を消し、泉は元の冷水に戻った。
チーナが、
「アイカ殿下が招魂転生者とは……? 反魂の秘法とは……?」
と、聞いてきた。
が、「明日にしましょう」と応えるくらいには、アイカもヘトヘトであった。
ただ、異界の神様に遭ったという奇跡は女子たちに特別な連帯感も生む。62歳のルクシアから18歳のアイラまで、皆が
その後、アイカたちは気力を振り絞って、ルクシアたちと装備の交換をした。つまり、水筒など砂漠を越える装備と、馬など大路を駆ける装備とをである。
どちらが得をしたか分からなかったが、豪気なルクシアは、
「手間が省けたぜ!」
と、笑いながら礼を言った。
アルナヴィスに帰還したいカリュの父は、途中までアイカのパーティに同行することになった。
あっさりとした別れ際、ルクシアがアイラに声をかけた。
「楽しめよ」
一瞬、目を見開いたアイラは、すぐにニヤリと笑った。
「お母さんもね!」
*
そもそも山越えで体力を使い果たしていたところに来た大渋滞で、パーティは1日休んだくらいでは体力が回復しなかった。
数日をアイカの
『……いや、こんなにスグとは』
「求めれば、必ず応えるって……」
『そうではあるのだが……、神様としての価値というか……』
女子たちは、男子には内緒で毎日、ヒメ様温泉を楽しんだ。
ヒメ様も結局、異世界女子トークに興味津々であった。
そうして、すっかり身体の疲れを癒した後、いよいよ旧都テノリクアに向けて出発する。
アイカはいつも通り、タロウとジロウの背に交互に乗って進む。そして、馬を得たパーティの旅程は快調に進んだ。
王太后カタリナ、第2王子ステファノス、そして王妃アナスタシアの待つ、王国発祥の都に向かって――。
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