【完結】転生７年！ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

第五章 王国動乱

第99話 頭痛の種

　王都ヴィアナと、大路沿いに位置する列候領フィエラの、中間に広がるスパラ平原で、王太子バシリオス率いるヴィアナ騎士団と、第３王子ルカス率いるザイチェミア騎士団およびリーヤボルク兵が激突した。

　バシリオスは、リティアが王都を去った後、すぐに出陣を決意した。

　王都ヴィアナとフェトクリシスの間に位置する、クヌルトゥアという列候領で、リティアは、バシリオス敗戦の一報を受けた。

　詳細までは伝わらなかったが、バシリオスは消息不明、筆頭万騎兵長ピオンは戦死という報だけでも、充分にその悲惨な戦いぶりが伝わる。

　ルカスはリーヤボルク兵を維持したまま、王都に向けて進軍中であるという。

　バシリオスを討ったら、リーヤボルク兵を国に返すのではないかという、リティアが抱いていた一縷の望みは絶たれた。

　――ルカス兄は、リーヤボルクの兵力を背景に王位を窺うつもりか。

　テノリア王国の中枢に、リーヤボルクの兵が満ちることは、もはや疑いようがなかった。

　リティアはアイシェに命じて、自室にペトラ姉内親王とファイナ妹内親王を招いた。既に父ルカスの勝報に接していた２人は、実に複雑な表情で姿を現した。

「ペトラ殿下、ファイナ殿下。まずは、父君、ルカス兄上の勝利をお喜び申し上げる」

「そんな……」

　と、ペトラは困惑した表情のまま、言葉を継げなかった。

　父ルカスの為したことは、決して手放しに褒められるようなことではない。かと言って、敗けてほしかったという訳でもない。父に真意を尋ねるまで、なんとも決めかねていた。

「両内親王殿下。単刀直入に申し上げるが、私は、今のままではルカス兄上の即位に賛同することは出来ない」

「それは、そうでございましょう……」

「私は、予定通りルーファに向かい、情勢を見極めたいと考えています。ですが、お２人の立場は異なります。もし、父君のもとに戻りたいということであれば、護衛を付けて送り届けさせていただく」

「よろしいのですか……？」

「両内親王殿下を、人質に取るようなマネは、私には出来ません」

　ハッキリとした物言いのリティアの言葉に、表情を変えたペトラとファイナに、リティアは、つとめて明るい表情を浮かべた。

「我らは明朝出発いたします。それまでに決めて下さったので結構です。なんならフェトクリシスまでは同行していただいても良いのです」

　ペトラとファイナを下がらせたリティアに、侍女のゼルフィアが囁いた。

「エメーウ様が……」

「分かっている」

　エメーウは、ペトラとファイナを人質に、ルーファまで帯同させるべきだと主張していた。

　リティアにとって、母が多年に渡って自分を騙していた心の傷は、すぐに癒えるものではなかった。かといって、精力的に振る舞う母の姿が、嬉しくない訳でもない。

　ただ、その物言いは、多分に部下たちを振り回し始めている。

　本来であれば、メルヴェが示唆したように、旧都テノリクアに入って情勢を窺うという選択肢がない訳ではなかった。

　しかし、母エメーウはルーファ行きを当然のこととして、念を押してくる。

　また、元々エメーウの侍女として王都に随行してきたゼルフィアとアイシェは、どちらかと言えば、エメーウの意思に沿おうとしている。

　リティアにとって、母エメーウは頭痛の種になりつつあった――。