第64話 子供たち *アイカ視点
「ほんとに、ありがとうね。アイカちゃん」
私に顔を近付けて、健康ハツラツ系美少女がお礼を言ってくれた。
――女子の汗の香りが、これまたなんとも……、いいものですな。
北郊からの帰りにアイシェさんに案内してもらったのは、旧都への道中でリティアさんにお願いした『子ども食堂』だ。
――仕事が速ぇぇ。
部屋いっぱいの子供達が、お昼ご飯に鶏肉のシチューを食べてる。パンもいっぱいある。
さっき、わざわざお礼を言いに来てくれたのは、孤児だったガラちゃん14歳。
『だった』というのは、この食堂の運営スタッフに雇われたらしい。
せっせとシチューのお代わりを皿に注いでいる。
弟のレオンくん10歳も元気よく手伝ってる。姉弟仲良しなのはいいよ。うん。いいよ。
北街区のはずれ、私が王都に来た最初、悪い男の人に連れ込まれた土間のある小さな館が、会場になってた。
「残念な記憶を、塗り替えてほしい」
って、アイシェさんが申し訳なさそうに笑った。
――了解です! あの土間は、もうナイっス。
机を囲む子供たちは、皆んな笑顔。喧嘩してる子もいるけど、それも賑やか。
確かに、あっという間に、場所の意味が変わったよ。
ザラザラして見えた土壁も、ピカピカ光って見える。
「まだ、王都の孤児全員という訳ではないんだ」
と、アイラさんのお父さんのシモンさんが姿を見せた。
初めましてだけど、洒落た服をサラリと着こなす男前だ。
北街区の無頼の元締さんだけあって、王族や騎兵長さんたちとは、また違った風格がある。
「今は試し試しだからね」と、アイシェさんが付け加えた。
王族や騎士団が直接運営に乗り出すのは障りがあるってことで、リティアさんの出資でシモンさんに運営を任せることになったらしい。
『無頼の束ね』の命令なので、他の無頼も元締も手出し無用とのこと。
孤児を囲い込もうとされても困るってことだ。
――アイシェはああ見えて、実に細やかな仕事をする。
リティアさんの言葉の通りだった。
第六騎士団で接収していた館を提供し、成人間近のガラちゃんを抜擢して職と住処を与え、シモンさんにバックアップしてもらう。
私たちが旧都に行っている間に立ち上げて、最初はアイシェさんも入って、ガラちゃんに料理を教えていたそう。
ついこの前まで地下水路で暮らす孤児だったガラちゃんなので、孤児たちの警戒も緩んで足を踏み入れやすい。
基本的なことをスグに覚えたガラちゃんだけで切り盛りできるところまで持って行って、この賑わい。
――いや。完璧っスわ、部長。この短期間で。
「ありがとう」と、耳元に口を寄せたクレイアさんが囁いた。
――近っ!
だから、その距離っ! 永遠に慣れません。
「私が、思い付くべきことだった」
そうだ。クレイアさんも孤児の出身だった。
ちょっと瞳が潤んでる。
きっと、心の中に住んでる子供のクレイアちゃんもお腹いっぱい食べられたよね。
その時、突然、ひゃっ、ひゃー! と、変な声を出してしまった。
クレイアさんと反対側の耳に息を吹きかけられたのだ。
子供たちに、ドッとうけた。
振り返ると、アイラさんが私に顔を寄せてニヤニヤしてる。
――貴女も、近いですよ。
「やるじゃん、アイカ」
と、曲げていた腰を伸ばしたアイラさんが、子供達の方を向いた。
「泊まりたい子は、泊まらせてやってるんだ。ガラも住んでるし、間違いのないように私や信頼出来る者が交代で泊まるようにしてる」
それは、もう孤児院ですね。
「さあ、あまり大人がいると子供たちに警戒される」
と、シモンさんに促されて館を出た。
なんか、良い方向に向かってる気がするし、このまま皆んながハッピーになるといいなぁ。
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