第6話 おじさん探偵 *アイカ視点

「アイカよ」



 緊張してる私に、王様が直接声をかけてくれた。



「はい……」



 いや。ほんとは「はっ」って言うんだよね、たぶん。分かります。分かってるんだけど、まだ恥ずかしいよ、それ。



「タロウとジロウに触ってみても良いか?」


「あ……、はい。大丈夫です」



「陛下……」と、奥の側妃様とは別の美人さんが口を開いた。目鼻立ちのしっかりした、すこし遊ばせた黒髪が艶っぽい、姐さん! と呼びたくなる美人さん。



「危ないのではありませんか?」


「かまわぬ。こんな小さな子供に懐いている狼に怯む私ではないわ」



 そうですね。小さな子供ですね、私。でも、姐さんがご懸念の点も重々分かりますとも。狼ですもんね。


 私はタロウとジロウに「伏せ!」と合図して、その大きな身体を地に伏せさせた。これでどうです?



「賢いな」



 王様の微笑みは優しかった。筋骨隆々の力持ち系男前ヤンキーの笑顔って素敵です。王様にヤンキーはないか。でも、情に熱くてヤンチャそうな雰囲気にヤンキーって言葉がしっくりきて、少し落ち着いてしまった。


「ジリコ、ヤニス」と、リティアさんの指示で、王様の左右を護るように2人が立ち上がった。


 王様はタロウとジロウの側にかがんで、優しげな手つきで背中を撫でる。近くに来た王様からは、ちょっといい匂いがした。



「筋肉がよく付いている。王宮の犬たちとは大違いだ」


「山奥を駆け回っていたようですから」



 と、リティアさん。なぜ、ちょっとドヤ顔?


 とっても可愛らしいドヤ顔ですけどっ。



「陛下」



 と、そこに、ハードボイルドなおじさん探偵のような男の人が現れた。タバコと強いお酒を嗜んでそうな雰囲気。



「ジアンか」



 リティアさんがスッと私の側に寄って耳打ちしてくれる。



「ジアンはメラニアと同じ審神者さにわで、この王宮内の審神者を束ねる王宮審神長だ」



 美少女の吐息が、耳に……。



「今からアイカとタロウ、ジロウを審神みわけてもらう。アイカはそのままジッとしておいてくれ」



 飽くまでも笑顔。どこまでも私のことを気遣ってくれるんですね。


 ん? ていうかタロウとジロウも?



「たしかに、分かりませんな」



 しばしの沈黙の後、ジアンさんが口を開いた。



「メラニアの申す通り守護聖霊のあることは確かです。が、御名おんなは聞き取れず姿も確とは分かりません」


「ふむ」



 と、王様が思案顔をした。渋い。初めてお年寄りにドキっとしたかも。



「それに、リティア殿下の仰る通りで……」と、ジアンさんが呆れたように笑った。「狼どもにも守護聖霊があります」


「動物に守護聖霊があるというのは初めて聞いたな」



 王様は感心したような笑みでジアンさんに応えた。



「私も初めて審神ました。娘の守護聖霊とは異なるようですが……。いや、正確に申し上げますと、恐らく娘には複数の守護聖霊があり、狼どもには一柱の守護聖霊があります。白狼と黒狼の守護聖霊は同一のものです」


「不思議なことだ」


「ええ、まことに」



 おおっ! タロウ、ジロウ。お前たち、なんだか特別な狼のようだよ。リティアさんも目をキラキラ輝かせて見てくれてるよ。おじさん探偵、なんかありがとう!



「うむ。タロウとジロウと申したか?」


「はっ」



 うわ、私。王様に「はっ」って応えちゃった。


 呑まれてる。


 雰囲気に呑まれてる。


 王様は立ち上がってタロウとジロウから離れた。


 最終判断が出るんだろうなって気配で分かる。タロウとジロウと離れ離れにならなきゃいけないのか、私の立場はどうなるのか。ゴクリと唾を飲み込んで、王様の動きを目で追った――。

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