第5話 精悍な老王 *アイカ視点
――広っ。
リティアさんに待つように言われた王宮の中庭が……、広い! 大きい!
中庭だけで東京ドームくらいの広さがある。それに、取り囲んで建つ王宮が長い。高いというか、長い。見上げたら首が痛くなりそう。
それにしても、山奥から街に降りて約2時間で王様に謁見って、展開が速すぎません?
物理ぼっちの7年間で、社会的ぼっち17年の重荷が降ろされ、心が軽くなってるのを感じてた。けど、そんなの関係ないほど王宮の威容は圧倒的だ。身体がカチコチになる……。
「アイカ殿」
イケメンお爺さんのジリコさんが声をかけてくれた。
「そう、緊張することはありません」
思わず「へへっ」と妙な笑いで返してしまった。これは良くない癖だと思う。できれば直そう。
中庭から見える回廊を行き交う人たちがチラチラこっちを見て行く。足を止めてマジマジ見てる人もいる。
――そりゃそうだ。狼、珍しいですよね。
タロウとジロウは、ちょこんとおすわりして大人しい。良かった。人間社会でもなんとかやっていけそう。物理ぼっち生活を一緒に過ごしてくれたタロウとジロウ。別れたくない。
でも、その両脇に立つジリコさんとヤニス少年は、暴れたら斬りかかるために残されたんだろうな。
このまま穏便に済めばいいんだけど。
「アイカ殿、お待たせした」
と、戻って来たクレイアさんの声で我に返った。ブラウン銀髪が陽光を反射してキラキラしてる。
「まもなく、陛下がお渡りになられます」
「陛下が?」
ジリコさんは姿勢を正し、クレイアさんが続けた。
「正式な謁見となると百騎兵長以上の待遇となってしまいます。侍女としても正式な手続きの前ですので、中庭に散策に出られたついでに偶然お目通りかなうことになります」
「心得た。それではお出ましになるまで控えず、お待ちしよう」
「それでよろしいかと。側妃様と第5王子エディン殿下も同行されます」
「ほう。側妃様がリティア殿下と同道されるか」
ジリコさんは意外そうに目線を逸らし、クレイアさんは目を伏せて意味ありげに笑って見せた。
「エディン殿下のご希望です」
色々あるんだろうな。偉い人がいっぱい一緒にいると。あの人とあの人は同席させちゃいけないとか、日本の庶民同士でも色々あったんだから。
もちろん状況を全部把握できてるわけじゃないけど、この時間で私の異世界ライフが決まるのだと思う。緊張を増した私の頬をタロウが舐めてきた。ジロウも負けじと反対の頬を舐める。
「ジリコよ」
よく通る声が聞こえた。
「陛下」と、ジリコさんが応えて、皆さん片膝をつかれたので真似をした。
現われたのは筋肉ムキムキのお爺さん。エメラルドグリーンの上等そうな衣装で熱い胸板が覆われてる。その周りには上品な美人さんが従っていて、小さな子供の手を引く美人さんもいる。
――こういう系の王様なのね。
見るからに精悍で目付きも鋭くて、戦争になったら先頭に立って突っ込んでいっても画になる感じ。でも、リティアさんのお父さんっていうには歳が離れすぎてるような……。
「久しいな、ジリコ。リティアを支え精勤に励んでいると聞き及ぶ。頼もしい限りだ」
「はっ。恐れ入ります」
「父上。あちらに控えておりますのが、私の新しい侍女になるアイカです」
と、王様の隣に立つリティアさんが、私を紹介してくれた。
えっ? 自己紹介とかするべきとこ……?
あ、だめだ「へへっ」が出そう。
「そして、両脇で大人しくおすわりしているのが、アイカの愛狼、タロウとジロウです」
「うむ」
と、王様は軽く笑った。
「本当に狼だな。白と黒に、見事な毛並みだ」
山奥暮らしを一緒に乗り切ったタロウとジロウ。褒めてもらえると嬉しく感じるものなんだな。
奥で子供の手を引く綺麗な女の人が『側妃様』?
ちょっと引いてますね。
そりゃそうですよね。
狼ですもんね。
皆さん、ゆったりと構えているのが上流階級って感じですけど、きっと王様や側妃様の一言で、ガラリと私の運命が変わったりするんですよね? 王宮の想像を超える威容からも、その権力の巨大さがよく分かります。
ガチガチに緊張して、精悍な王様の言葉を待った――。
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