第109話

 國滝織乃との接見から三日後、本日は授業も休みである土曜日。午後から道場で修練だが、その前にと沖長は近場にある林の中へとやってきていた。

 そこは人気はなく、周りの目を気にすることないので、たまに《アイテムボックス》機能を試す場として利用させてもらっている。


 今日やってきたのも同じ理由なのだが、沖長は目の前にプカプカと浮かぶオーラの塊を見つめながら溜息を吐いていた。


「う~ん、こう浮いたままじゃ宝の持ち腐れなんだよなぁ」


 このオーラは例の赤髪少年――石堂紅蓮から回収したものである。せっかく回収できたし、ボックス内には無限に存在するので活用できればと思っていた。

 ただ残念ながらオーラの扱い方に関してはまったくの無知なこともあり、手に入れたコイツの活用方法が分からず仕舞いだったのである。


「まあ操作できてもコモンオーラだから、ダンジョン主には効かないけど妖魔対策には使えるしなぁ」


 ダンジョン主を倒すことができるのはナクルや千疋が有するブレイヴオーラのみ。コモンオーラで対処できるのはいわゆる雑魚敵だけ。

 ならナクルからブレイヴオーラを回収させてもらえばいいと思い回収させてもらった。しかしこれを見て欲しい。



S オーラ(日ノ部ナクル専用・無形状・ブレイヴ)1



 驚くことに以前千疋から回収した〝カースダンジョンのコア〟と同ランクの代物だったのである。 

 つまり回収した直後に無限化せず、複製するにもかなりの時間を要する。

 しかも時間があった時にコアの複製も試したが、複製=無限化ではなく、どうやら倍化するだけのようだ。


 つまり一個が二個になり、二個が四個、四個が八個といった具合に。

 故にたとえ複製できたとしても、おいそれと使用できないわけだ。それでも一度回収すれば、時間さえあれば増やすことができるのは嬉しい機能ではあるが。


 そういうことでせっかく手に入れたブレイヴオーラだが、とりあえずは放置のまま。まずは無限化できるコモンオーラの扱い方を覚え、それからブレイヴオーラの扱いを決めようと思っているのだ。


「触れる……ことは触れるんだよなぁ」


 ただそのまま放置していれば、次第に分散していく性質を持っているようで、こちらの意思や何かで操作することはできずにいた。


「……ん? そっか、触れるんだったら……」


 沖長はあることを思いつき、オーラの塊の前で腰を若干低くして右拳を引いて力を溜める。そしてそのまま勢いよく拳を突き出した。

 すると思った通り、殴りつけたオーラの塊が真っ直ぐ前方へと飛んで行く。その先にあった木にぶつかると、その衝撃で乾いた音とともに半ばから折れたのであった。


「お、おお……!」


 思わず感動で声が漏れた。


「すげえ! これなら十分攻撃にも転用できるな!」


 光明が見えたことで興奮し、オーラの塊を次々と出して拳やら蹴りやらで弾き飛ばしていく。しかし沖長の顔は複雑な気持ちを表していた。

 何故なら叩いて飛ばすことはできても、的に当てるということが意外に難しかったからだ。


 中心を殴りつけないと、望んだ方向へ飛んではくれない。これでは正確性にかけ、下手をすれば前で戦う仲間に当ててしまう危険性がある。


「フレンドリーファイアなんてシャレになってないしな。ま、とにかく活用法が見つかったんだし、要練習ってことだな」


 これが上手くいけば、いずれブレイヴオーラも同じように扱えるはず。そうなれば本来勇者しか倒せないダンジョン主を沖長一人でも討伐できることになる。


(時間を見つけてブレイヴオーラを増やしておかないとなぁ。けど複製中はボックスが使えなくなるし気を付けないと)


 しかし確実に強くなれる術を得られることで安堵もしていた。

 それから一時間ほど、オーラの塊を殴り飛ばす行為を繰り返していると、何となくコツみたいなものが掴めてきた。


「なるほど……殴り方次第で面白い動きをさせることができるな」


 打点の違いで球に回転が備わり、まるでピッチャーが投げる球種のような様々な動きをすることが判明した。

 もしこれを状況に応じて使い分けることができれば、より強い武器になってくれるだろう。しかしまずは基本。確実に真っ直ぐ飛ばせるようにしてからだ。


「……ふぅ。にしてもこれだけ動いてもあまり疲れないな」


 もっともそれは古武術を習い始めてから知ったことだが、本当にこの身体はタフにできているようだ。怪我の治りも異常だし、体力もずば抜けている。

 一時間ぶっ続けて動いたにもかかわらず、僅かに呼吸が荒くなる程度だ。


 蔦絵からは『体力お化け』と呼ばれてからかわれているが、これも間違いなく転生特典である丈夫な身体が起因しているのだろう。

 それに最近は力自体も増してきているようで、小学生なのに握力はすでに六十を軽く超えている。成人する頃には百キロを超えそうだ。


「……ん? ナクルから?」


 スマホが震えたので確認していると、彼女からメッセージが来ていた。

 目を通してみると、午後からの修練が中止になったという内容である。どうやら緊急の用事が日ノ部家に入ったようで、ナクルも含めてその対応をしないといけないとのこと。

 なら仕方ないと、沖長は了承する旨をメッセージで送った。


「いきなり午後から暇になったな。どうすっかなぁ」


 このままぶっ通しで単独修練でもするかと考えていると、またスマホが震えた。しかも今度は着信だ。確認すると意外な人物からだった。

 一体どうしたのだろうと思いさっそく確かめるべく通話をすることに。


 するとその相手から、時間があれば会って話したいらしく、午後からなら空いていることを告げると、相手も喜んで受け入れてくれた。

 そうしてキリの良いところで修練を終え、一度自宅に帰って汗を流したあとに、午後になり待ち合わせの場所へと急いだ。


 すでに相手はそこで沖長を待っていたので、到着と同時に声をかけた。


「す、すみませんお待たせしてしまって。お久しぶりですね――――夜風さん」


 着信の相手は、あの金剛寺銀河の姉である夜風だったのである。



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