第100話

 この世界の生物には多少なりともオーラ――いわゆる生命エネルギーが存在する。

 そして誰もが修練を積めば、ある程度までオーラを扱うことができるらしい。とはいっても、オーラを感じ取ったり、体内の免疫力が僅かに向上したりと、それほど大きな恩恵とはいえないようなものばかり。


 だがその中で、才ある者たちは自身の身体能力を高めることや、オーラ自体を物質化して操作するなど、それこそファンタジーを代表するような技術を扱うことができるのだ。


 特筆した才のない者にとっては、オーラを感じるだけでも長期間の修練が必要になったりと、身に着けるには割に合わない時間を捧げることになってしまう。

 しかしながら極めることができる者にとっては大いなる力となるため、オーラの存在を知る者たちはこぞって修練に身を尽くす。


 ちなみにこの世界で強者と呼ばれる者たちは、ほぼ例外なくこのオーラの扱い方を身に着けているとのこと。

 沖長が学んでいる〝忍揆日ノ部流〟の師範である修一郎や蔦絵もまた、このオーラの行使者である。だからこそ一般人とは思えないほどの動きや膂力を有しているというわけだ。


 そしてこのオーラというのは、大きく分けて二つ存在する。

 一つは誰もが備えている一般的なオーラ。これを――〝コモンオーラ〟という。

 極めることで、極限にまで身体能力や感性を高めることが可能である。


 ただ問題もあり、コモンオーラでは妖魔に対抗できても、ダンジョン主――コアを破壊するには至らないということだ。

 どれほどオーラの扱いを極めた達人でも、これまでその力で主を倒せた者はいない。戦闘力では圧倒的に上だったとしても、トドメを刺すことができないのである。


 だがその中で、ダンジョン主さえ倒し得るオーラを持つ存在がいた。 

 それが勇者であり、勇者だけが持つとされているオーラ。


 その名を――〝ブレイヴオーラ〟。


 この力だけがダンジョン主、果てはコアも破壊することができることが証明されている。

 だからこそ勇者という存在は貴重であり、ナクルがどれほど稀有な人材か理解できるだろう。


 そして今、あの赤髪少年が迸らせているオーラはコモンオーラと呼ばれるものであることが、千疋の説明によって明かされたわけだ。


(まあ、俺は回収した時に知ったけどな)


 前に赤髪少年のオーラの塊を回収した時に、コモンと表示されていたこともあり前もって知ることができていた。

 ただ千疋の目利きでは、赤髪少年のオーラの総量自体はそれこそ天与レベルだという。修練で量を増やすことは可能だが、それでも数カ月から数年かけてようやく一割程度増やせるといった感じらしい。


 それを考えても、あれほどの量は修練で増やしたわけではなく、恐らくは生まれつきのものだと千疋は見抜いたのである。


(間違いなく転生特典だろうな)


 けれどこの世界においては強力な武器になることも確かだ。もし十全に扱うことができたら、それこそ修一郎レベルにまで成長できるかもしれない。


「ただのう、扱い方はまったくなっておらんわい。あれではただ垂れ流しにしておるだけで、オーラの特性を何ら活かせておらぬ」


 どうやら赤髪少年がオーラの修練などをしていないことが明白になったようだ。

 確かにあの性格では、地道に修練をするタイプには見えないが。

 千疋に言わせれば心底もったいない限りで宝の持ち腐れでしかないという。


「なるほど。だから金剛寺も簡単にアイツを蹴り飛ばせたってわけか」

「こんごう……ああ、あの金髪かや? まあ奴もまた微量ではあるが、オーラを発しておるからのう」

「え、そうなの?」

「うむ。あの赤髪と比べると心許ないものの、無意識じゃろうのう。確かにオーラで身体能力が強化されておるぞ」


 無意識ということは、金剛寺はオーラの存在を知りつつも、自分が扱っているという自覚はないようだ。

 しかしだからこそ、オーラで身体を覆っているはずの赤髪少年を蹴り飛ばすことができたのだが。


「だが扱い切れておらずとも、オーラの総量の違いは大きい。ほれ、決着が着くようじゃぞ」


 千疋が促したので視線を向けると、赤髪少年に力任せに殴りつけられ吹き飛んでいく金剛寺がいた。どうやらその一撃で意識を失ったのか、ぐったりと地面に倒れてしまっている。


(どちらも未熟には違いないけど、持っている武器に差があり過ぎたってわけか)


 例えるなら金剛寺は竹槍で、赤髪少年は丈夫な大剣といったところ。打ち合いを続ければどうなるかなど言葉にせずとも分かる。


「ハハハハハ! この俺に勝とうなんて無駄なんだよ踏み台ごときがよぉ! 何せこの俺こそが最強のオリジナル主人公なんだからなぁ!」


 勝利に酔いしれ高笑いをしている。


「……オリジナル主人公とは、奴は何を言っておるんじゃ?」

「さあ? アニメの見過ぎとかじゃね?」

「おーなるほど。つまりあれが噂のちゅーにびょーというやつかえ」


 二次小説などで、主人公とは別の作者が設定したもう一人の創作主人公。それがオリジナル主人公であり、よくオリ主とか呼ばれている存在だ。

 多くは転生チートなどを与えられ、原作をかき回すようなことをしている。

 赤髪少年は自分がそれだと疑っていない様子。


 ちなみに踏み台とは、オリ主にとって噛ませ犬として用意されている別の転生者である場合が多い。そのほとんどは今の赤髪少年のように自分がオリ主だなんだとほざく人物ばかりだが。


「さあ、あとは……ん? お、お前は千疋! 十鞍千疋じゃねえか! 何でこんなとこにいるんだ!?」


 そこで初めて千疋に気づいたようで、目を丸くしている赤髪少年。


「……はて? 何故お主がワシの名を知っておるんじゃ?」

「ククク、これは良い。やっと俺にも運が回ってきた……いや、オリジナル主人公らしくなってきたってわけだ! おい、千疋! 安心しろ! お前の呪いはこの俺が解いてやるからな!」

「!? ……何じゃとぉ?」


 これはマジで厄介なヤツだなと、赤髪少年に対して心の底から思った沖長だった。




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