第60話
D 妖魔力(槍・ダンジョン主)∞
E オーラ(球体状の塊・コモン)∞
新着枠にその二つの名前が記されていた。
(よし、問題なくストックできてるな。おっと、そういやさっき黒い槍も回収してたんだよな。一応テキストも確認しておくか)
あまり時間に余裕はないので、サッと妖魔力についての説明に目を通す。
妖魔力というのは、簡単にいえば妖魔が要するエネルギーのこと。自在に操作し攻撃にも防御にも活用することができるものらしい。また侵食するという特性を持っている。
そして赤髪から回収したあのエネルギーの塊の正体が――オーラ。
前世でもオーラという言葉自体は、よく漫画やアニメなどでも使用されていたような認識で間違いないようだ。いわゆる生命エネルギーのことらしい。
(オーラ……ね。まさかあの赤髪も使えるなんて、間違いなく転生特典だろうな)
実はこのオーラ。このナクルの物語において重要な意味を持っている。長門から聞いた話ではあるが、オーラは誰もが持っているものの、それを扱うことができるのはこの世界では選ばれた者のみとのこと。
特にオーラの絶対量が生まれつき多いのが女性であり、それを扱う者のほとんどが女性と聞く。もちろん男性の中でも扱うことができる者もいるが、極めて稀だということ。
となるとイレギュラーであるはずの赤髪が元から扱えるとは思えないので、恐らくは転生特典として手に入れた能力だということが推察できた。
ちなみに長門も銀河も使えないようなので、そこから判断した結果である。
(かくいう俺も使えないけどな。でも……コレなら)
沖長は意を決して岩場の頂に辿り着くと、当然蔦絵がこちらに気づいて攻撃のモーションを見せる。
相手の攻撃が放たれる前に、沖長は回収したオーラの塊を取り出す。
すると頭上に先ほど回収した時と同じ大きさのオーラが出現。だがそのまま浮かんだままである。
「やっべ、どうやって飛ばすんだコレ?」
てっきりそのまま砲丸のように発射してくれるかと思ったが、そう都合良くはいかなかった。そうこうするうちに例の槍型の妖魔力が飛んでくる。
このままでは直撃してしまうので、とりあえず回収しようと思ったが、何故か飛んできていた槍がピタリと動きを止めた。
「? ……どうしたんだ?」
突然の攻撃停止に、蔦絵に何がしかが起きているのかと注目する。すると彼女の身体が僅かに震えていることに気づく。そしてゆっくりと瞼が開く。
「っ……逃げ……て……!」
間違いなくそれは蔦絵の口から発せられた言葉だった。
「蔦絵さん! 意識が戻ったんですね!」
どうやら彼女が意識を取り戻したことで、妖魔力がコントロールを失っている様子。しかしながら彼女の辛そうな表情を見るに、今にもまた瞼が閉じそうな勢いだ。
「い……今のうち……に……逃げ…………なさい……っ」
「蔦絵さん……」
すると蔦絵の全身を覆っていた妖魔力が、細い紐状のようになり蔦絵の首に巻き付き始めた。
「あっ……ぐっ……」
どうやら何らかの意志が、蔦絵の意識を強制的に閉じさせようとし始めた。
(くそ! このままじゃ蔦絵さんが危ねえ! あの蔦絵さんを覆ってる妖魔力を丸ごと回収できればいいんだけど!)
しかしそれができずにいた。何故なら沖長の認識で〝アレ〟は生きているものだということを理解しているから。
あの本体ともいうべき蔦絵に纏わりついている妖魔力から切り離された槍であったのなら、それはもう生物ではないと判定し回収できたが、本体そのもの正体を知っている今の沖長では回収することができないのだ。
「――蔦絵ちゃんっ!」
苦しんでいる蔦絵を見て耐えられなくなったのか、ナクルが岩の蔭から姿を見せた。
「バカッ、出てくるな、ナクル!」
するとそのタイミングで、蔦絵がぐったりと意識を失うと同時に、触手がナクル目掛けて伸びてきた。
咄嗟に千本を放って触手を弾こうとするが、当たっても突き刺さるだけで影響は一切なく、そのままナクルへと向かう。
「ナクル、逃げ――」
逃げろと言おうとした直後、思いも寄らぬことが起きる。
「来ないでッス!」
ナクルが、向かってきた触手の先端を殴りつけて、弾き飛ばしてしまったのである。
「――ろ…………はい?」
その光景に思わず固まってしまった沖長。
「え……あ、あれ?」
そしてナクルもまた、そんな結果にならないと思っていたようで呆気に取られているようだ。
しばらくシーンとした静寂が流れるが……。
「…………いや! とにかくナクル、よくやった! こっち来い!」
ナクルが沖長の指示に従ってこちらへ駆け寄ってくる。
さすがは主人公といったところなのか。とりあえずそんな感じで納得することにした。
もちろんナクルが触手を殴りつけて飛ばすような描写は原作になかった。ナクルは蔦絵が死ぬまで何もできなかったのだから。勇者として目覚めた後はまた話が別だが。
(原作よりも多分ナクルは鍛えられてるはずだ。そのお蔭なのかもな)
ここがファンタジーの世界だと知り、いずれ戦いが訪れると分かってから、沖長は自分も鍛えたが、ナクルもまたそんな沖長に後れを取らないように必死に己を磨いていたのだ。
嫌々武術を学んでいた原作ナクルとは違い、この世界ではナクルは沖長とともに精力的に強さを求めている。その分、当然有している力量は高くなっていることだろう。
「ナクル、手は大丈夫か?」
「問題ないッスよ」
見れば赤くもなっていないし、本当に問題はないようだ。
これならナクルの自衛も合わせて十分戦える可能性が増したと判断できる。そもそも普通に戦えばナクルの方が強いので、生存率でいえば彼女の方が高いのだが。
すると触手を戻した蔦絵が、こちらを警戒するようにさらに触手を増やし、かつ大きくしていく。その間に、どうしたものかと思案していると、ナクルが「オキくん」と声をかけてきた。
「どうした、ナクル?」
「蔦絵ちゃんがあんなことになってるのって、あの黒いやつのせいッスよね?」
「ああ、間違いないだろうな。何とかアレを蔦絵さんから剥がすことができれば……」
「蔦絵ちゃんが元に戻る?」
恐らくと沖長は首肯すると、ナクルがまたもとんでもないことを口にした。
「じゃあボクがぶっ飛ばすッス!」
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