第17話 パラドクス出現

 突然のサイレンに騒然とする人々。

 その中にはもちろんティナたちもいた。


「ええっ! こんなところにパラドクスが!?」

「ティナ見て、あそこ!」


 アイラが指差した東の空を見上げると、虚空に亀裂が生じ始めている。


 その亀裂が大きくなると、そこからゴリラのような姿のパラドクスたちがわらわらと降下してきた。


 以前の蜘蛛型よりも幾分か大きい中型のパラドクスで、同じようにマゼンタ色の身体に黒いハニカム模様が刻まれている。


「グルルルオオオ!!」


 着地するなり胸を叩いて肩から雄叫びをあげるゴリラパラドクスを前に、町の人々はパニックを起こして逃げ惑う。


「皆様! こちらに避難を!!」


 そこへ駆けつけた警備員が先導をして皆を逃がそうとするも、ゴリラパラドクスの数はどんどんと増えていた。


 そんな中で的確に避難するティナたちのスマートフォンに通知が届く。


『どうやらパラドクス出現地点の近くにいるみたいですね。これよりあなた方の機獣を輸送しますので、大変恐縮ですがパラドクスを撃退してくださらないですか?』

「アルバス先生からだ!」

「はい、こちらはもちろんオーケーです!」

『それは助かります。シティーアイランドのヘリポートで待機をお願いします』

「みんな、行こう!」


 アイラの目配せで、四人はシティーアイランドのヘリポートへ向かうことに。


 向かう間、現場へ駆けつけようとする白と黒のボディーをした亀の小型機獣【キャノントータス】と同じ色合いの狼の中型機獣【ウルフソルジャー】それぞれ十数体とすれ違う。


「あれってここの自警団だよね!」


 この地域をはじめとした各区域では各育成校の若き卒業生たちが、自警団として日夜安全を守っているのだ。


「今はそんなこと気にしてる場合じゃないわティナちゃん、急ぎましょう!」

「う、うん! リコちゃん!」


 ヘリポートへの道のりの途中、四人は公衆トイレに寄る。


 機獣を操縦する上で欠かせない耐Gウェアに着替えるためだ。


「いやー、学校からは耐Gウェアを常に携帯するよう耳にタコができるくらい言われてたけど、まさかこんなところで役に立つときが来るなんてね!」

「全くだわ、アイラ」

「備えは大事」


 そんなことを言いながら耐Gウェアに着替えた四人は、またすぐにヘリポートへ急ぐ。


 ちなみにティナ以外の耐Gウェアはアイラと同じ最新型で、リコリスは藍色、ルーテシアはマゼンタ色を基調とするものだ。


(リコちゃんとルーちゃんもスタイルいいなあ。幼児体型なのはわたしだけ……)


 ピッチリとしたスーツから浮かび上がる三人のスタイルのよさと比較して、自分の体型を気にするティナ。


 そんなこんなでヘリポートに駆けつけると、ちょうどそこに巨大な鯨型の機獣【ホエールジャンボ】が飛んでくる。


「うわあ、大きい……!」


 ティナが目を見張るほど巨大なホエールジャンボがヘリポートに着陸すると、側面のハッチが展開して中からそれぞれオレンジ、藍、ピンクのアクセルラプター三体とゴウレックスが飛び出してきた。


「待ってたよキー坊~!」

「グーギュルル!」


 駆けつけるなりオレンジ色のキー坊に抱きつくアイラ。


 そのそばでリコリスとルーテシアも自分のアクセルラプターに駆け寄った。


 ちなみにリコリスのは藍色の装甲で背中の左側に砲身の長いガトリング砲を装備しており、ルーテシアのはピンクの装甲で背中の右側にパイルバンカーを装備している。


「はわわ、リコちゃんとルーちゃんのもすごい装備……!」


 個性的なカスタマイズが施されたアクセルラプターに目を丸くするティナの元にも、ゴウレックスが歩み寄ってきた。


「ゴウレックス!」

「ドゥルルル……」

「……あれ、元気ないの?」


 首をかしげるティナの言う通り、ゴウレックスはどこか動きが緩慢に見える。


「とにかくっ、アタシたちも機獣と一緒に戦おう!」

「そうね!」

「了解!」


 頭を下げたそれぞれのアクセルラプターのコックピットに、アイラたち三人が颯爽と乗り込んだ。


 それに続くようティナもゴウレックスのコックピットに乗り込む。


「行くよゴウレックス!」

「ドゥルルル」


 コックピットの座席に乗った直後、背後から伸びたケーブルが首もとに接続され、とてつもない快楽と僅かな痛みを混ぜたような感覚が全身を伝……わなかった。


「あれ、どうしたのゴウレックス?」


 戸惑うティナは、目の前のモニターに伝言が通知されているのに気づく。


『念のためゴウレックスのマインドリンクに制御回路リミッターをつけさせてもらいましたよ。不完全なシンクロ状態で街の中を暴走されたら大惨事になってしまいますからね』

「リミッター……それでゴウレックスに元気がなかったんだ……!」


 そう悟ったティナは、操縦桿を優しくなでてこう言い聞かせた。


「ごめんねゴウレックス、気分悪いかもだけどちょっとだけ我慢してね」

「ドゥルルル……」


 小さく唸ったゴウレックスも、先を行くアイラたちのアクセルラプターについていく。


 現場へ近づくほどに、無惨な戦いの痕跡が目についてきた。


 パラドクスの攻撃で崩れて瓦礫と化した建物の数々が見受けられて、ティナは言葉を失う。


「ひ、ひどい……!」

「あんなに賑やかだったシティーアイランドをメチャメチャにするなんて、許せないよ!」


 そして現場に舞い戻ると、そこでは今もなお自警団とパラドクスの激しい戦いが繰り広げられていた。

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