第12話 舞い降りた天使
「ゴウレックスと……一つに……?」
思いもしなかったことを訊かれて目を白黒させるティナに、アルバス先生はこう切り出した。
「昨日の決闘見させてもらいましたよ。いやー、興味深い場面ばかりで目を離せませんでした。これでもボク、格納庫の管理者であると同時に機獣の研究も任されてますから」
「…………」
オーバーな身振りで話すアルバス先生に戸惑うティナ。
「でも、一番はゴウレックスと君のマインドリンクですよ! あそこまでシンクロ値が同調するなんて、今まで見たことがありません! もはや機獣と一心同体とさえ言っていい状態でしたから」
「一心……同体……ううっ!」
昨日のことを思い出してティナは胸を痛める。
ゴウレックスと繋がった結果、昨日はあの大惨事を招いてしまったのだ。
「わたしのせいで……!」
平らな胸の前でぎゅっと拳を握りながら涙するティナに、アルバス先生は肩をすくめる。
「まあ昨日のは少々暴走気味でしたからね。けどあのマインドリンクを極めればっ、ウォーリアーは次のステージに行けると思うんです!」
「次のステージって……?」
そうかと思えば大層な言動で興奮を表現するアルバス先生に、ティナは瞳を震わせた。
そんな彼女の華奢な肩にアルバス先生は手を置いて続ける。
「そこでララミリアさん、今後もゴウレックスに乗ってデータをとらせていただきたいんです」
「でもわたし、ゴウレックスに乗っていいんでしょうか? また暴走したら……!」
「その暴走を抑制しつつマインドリンクを極めるためですよ、ララミリアさん。ボクの研究に付き合ってくれれば、きっと君もゴウレックスをもっと乗りこなせるようになるはずです」
「ゴウレックス……」
アルバス先生の提案で、ティナは目の前のゴウレックスを見上げた。
それはなおも静かに鎮座していて、ティナには何を考えているか分からず。
「……ちょっと考えさせてください。いろいろありすぎて頭の中がグルグルしているので……」
「まあ答えは急ぎません。期待してますよ、ララミリアさん」
アルバス先生と分かれたティナが格納庫を出ると、そこで仁王立ちで待っていたのはアイラだった。
「やっぱりここにいたー」
「アイラちゃん?」
「ほら、今日のティナってばなんか様子が変だったからさー」
「心配かけちゃってごめんね、アイラちゃん。でもわたし、もう大丈夫だから」
心配を寄せるアイラにティナは作り笑いで誤魔化そうとするも、それはすぐにバレてしまう。
「ティナ、そういうヘタクソなウソはよくないよ」
「あはは、ダメか……」
愛想笑いをした後うつむくティナを抱きしめて、アイラはこう伝えた。
「無理には聴かないよ、話したくなった時にいつでも聴いてあげるから。ね?」
「ありがとう、アイラちゃん……」
抱きしめるアイラの柔らかさと温もりが、ティナにはこれ以上ないくらい優しく思えて。
「まーでも、ゴウレックスと出会っていろいろあったから気疲れしちゃったよね! 明日休みでしょ、良かったら明日アタシと付き合ってくんない? 一緒にパーっと楽しもうよ!」
「ふえっ、アイラちゃんと~!?」
アイラに付き合ってくれと言われて、ティナは顔を真っ赤にしてしまう。
「どうしたのティナ、顔真っ赤だよ?」
「う、ううん! なんでもない! ……それよりわたしなんかでいいの?」
「ティナじゃなきゃダメなんじゃん! ティナのこと、友達としてもっと知りたいんだアタシ」
「友達、友達……」
アイラが当たり前のように口にした友達という言葉を、ティナは何度も反芻した。
「わたしでよかったら……お願いしますっ」
九十度に腰を曲げたティナの差し出した手を、アイラは笑ってとる。
「あはは、気張りすぎだよティナー! でもありがとっ」
「こ、こちらこそだよ~!」
こうしてティナは明日の約束をアイラと交わしたのであった。
夜になってティナはベッドで横になっている。
「アイラちゃんと友達、むふふふふ~!!」
興奮冷めやらないティナは、枕を顔に埋めてばた足をしている。
――ティナのこと、友達としてもっと知りたいんだ
日中アイラに言われた言葉を頭の中で反芻しながら、ティナは喜びに浸っていた。
「わたしが友達、か~」
自分のことを友達として真っ直ぐに接してくれるアイラのことを思い浮かべて、ティナは脱力したような笑みを浮かべる。
生まれてこの方15年、後ろ向きで地味なティナには友達らしい友達が一人としていなかった。
母親は幼くして亡くなり、父親も多忙で家にはほとんど帰ってこなかったため、ティナは昔から独りぼっちだったのである。
そんな彼女に明るい光を差し込むように舞い降りたのがアイラだったのだ。
「ああ、今のわたしって幸せ者だよ~!」
思えば機獣のゴウレックスと出会ったのも、他でもないアイラと友達になってからである。
「アイラちゃん、あなたは天使ですか……?」
顔を上げて手を固く組み合わせるティナには、天使のような羽を背中に生やしたアイラが見えるようだった。
「ふううう~! アイラちゃんアイラちゃんアイラちゃんアイラちゃ~~~ん!!」
……興奮冷めやらないままティナはこの日も眠りにつくことができなかったのである。
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