第6話 友達
ティナががむしゃらに駆けつけた区画では、ちょうど鎮座するティラノサウルス型大型機獣ゴウレックスが解析を受けているところであった。
「ゴウレックス……!」
息を切らしながらティナがその名前を呼ぶと、解析作業の中心に立っていた小柄な男が声をかける。
「もしかして君がこの機獣を目覚めさせたのですかな?」
「あれ、あなたは確か……」
小柄なティナとそう変わらない身長の小男は、仰々しく挨拶をした。
「これはこれはお初にお目にかかりますね。ボクはアルバス、この格納庫の責任者ですよ」
「アルバス先生! ティナ・ララミリアです、よろしくお願いしますっ」
慌ててお辞儀をするティナに、アルバス先生はカカカっと笑う。
「そんな緊張しなくてもいいですよララミリアさん。ほら、肩の力を抜いてください」
「は、はい……」
「それで、君はここに何をしに来たのですかな?」
ガラス瓶の底みたいに分厚い眼鏡をくいっと押し上げるアルバス先生の問いかけに、ティナは平らな胸の前でぐっと拳を握って答えた。
「あのっ、ゴウレックスは無事なんでしょうか!?」
「ゴウレックス、それがあの機獣の名前なんですね。心配はいりません、多少疲弊していますがまたすぐに動けるようになりますかと」
「良かった~!」
アルバス先生の返答にティナはほっと胸をなで下ろす。
「こんなところで立ち話を続けるのも難だから、少し場所を移しませんか?」
「あ、はい。いいですけど……」
ティナがアルバス先生に連れてこられたのは、格納庫の事務所であった。
「それでララミリアさん、ゴウレックスのことを聴かせてくれませんか?」
「はい。かくかくしかじか……」
ティナが実習で起きたことを事細かく話すと、アルバス先生は重々しくうなづく。
「なるほど、それは運命的な出逢いだったんですね」
「はい! ……途中からゴウレックスを制御できませんでしたが……」
「気にすることはないですよララミリアさん、初めから乗り手に従順な機獣ばかりではないですから。ましてやあのゴウレックスは特別な機獣なんです」
「え、そうなんですか!?」
アルバス先生の言葉にティナはガタッ!と席を立ち上がった。
「あ、すみません……」
「気にしてませんよ。それよりあの機獣なんですが、解析途中でも他の機獣とは一線を画す特徴が多数見受けられたんです。未知の機獣であることは間違いありません」
「そうなんですね、それをわたしが……!」
アルバス先生の話を聞くうち、ティナは途中まででもゴウレックスと心を通わせた実感をひしひしと手に感じる。
「あの……そんなに特別な機獣なら、わたしなんかが乗っていいものなのでしょうか……?」
「問題ないですよ。ゴウレックスは恐らく君を選んだんですから」
「そう、なんですね」
念願の
「やっと、やっとわたしにも相棒ができたんだ~! しかもなんかすごそうなのと!」
アルバス先生から告げられた
「……こうしちゃいられないよ、お父さんに連絡しなくっちゃ!」
ふと思い立ったティナは、スマートフォンを片手に父親へメッセージを送ることにした。
『お父さん、わたしついに自分だけの相棒ができたよ。しかもなんか特別そうなやつ!』
「送信っと」
メッセージを送信したところで、ティナの部屋にインターホンが鳴る。
「あれっ、だれだろう?」
不思議に思ったティナが扉を開けると、外からアイラが飛びついてきた。
「わわっ、アイラちゃん!?」
「めっちゃすごいじゃんティナ! やっぱりアタシが信じた通りだった!!」
むぎゅーっとアイラに抱きしめられて、ティナはその発育した胸に顔を埋められてもがく。
「むご、むごごっ!」
「あ、ごめんごめん!」
慌てたアイラに解放されて、ティナはプハーっと深く息をした。
「はあ、苦しかった……。それでアイラちゃん、わたしの部屋に何の用?」
「そうそう! せっかくだから一緒にピザ食べよっ!」
「ピザ?」
アイラの言う通りその手にはピザ箱が入ってるであろうビニール袋が携えられている。
「なんでピザ?」
「お祝いっていったら美味しいピザっしょ? ほら、ティナに相棒ができた記念だよ!」
「あっ」
ニシシと笑うアイラに、ティナは改めて思い出した。
ゴウレックスと繋がった瞬間、全身を包んだあの感覚。
「あれやっぱり夢じゃないんだよね」
「ほらほら、ピザが冷めちゃうから早く食べよ!」
ズカズカと部屋に上がるアイラは、ティナの机でピザを開けた。
「おお~!」
「へへっ、普通のマルゲリータなんだけどどうかなあ?」
「うん、すごくおいしそうだよ!」
「それじゃあ相棒ができたお祝いに、かんぱーい!」
「か、かんぱーい!」
一緒に持ってきていたコーラを注いだコップを片手に、アイラはティナと乾杯をかわす。
「んんっ、これすごくおいしい!」
「でしょでしょ~! アタシ行きつけのピザ屋さんで買ったんだー!」
ピザを口に入れた途端、口腔いっぱいに広がるトマトの爽やかな酸味とチーズのコクにティナは舌鼓を打った。
「だけどアイラちゃん、なんでわざわざわたしなんかに?」
「んー? だってアタシたち、友達じゃん!」
「友達……」
「そっ、友達!」
ニカッと笑うアイラの言葉に、ティナの心はポカポカと暖まるよう。
「わたしと、友達……」
その素敵な言葉をしばらく反芻していると、アイラがこんなことを。
「ティナ~、部活の助っ人で汗かいちゃったからシャワー貸してくんない?」
「うん、いいけど」
「サンキュー、ティナ!」
そう言うなりアイラはバスルームへと直行した。
しばらくするとアイラが出てきたのだが。
「ふ~っ、シャワーサンキューねティナ」
「ぶほっ!?」
ティナは口に含んでいたコーラを吹き出してしまう。
それもアイラがタオルを巻いただけの姿で出てきたからだ。
「んー、どうしたのティナ?」
「す、すごい……!」
タオル越しでもよくわかる、胸の膨らみと腰のくびれといった彼女の絶妙なプロポーションが、ティナには眩しくてたまらない。
「あれ~? ティナー、おーい」
「あ、ううん! なんでもないよアイラちゃん!」
「そっか。それじゃあまたね~!」
青い学生服に着替えるなり出ていったアイラを見届けるティナだが、その一晩あの抜群なスタイルが脳裏に焼き付いて離れなかった……。
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