第4話 猛る暴君
「キギュウウイイイイイ!!」
前四本の脚をもたげて、耳障りな金切り声をあげるタランチュラパラドクス。
「ちょっと危ないかも。……アイラちゃん、安全な場所で隠れてて!」
「オッケー! ……って、あいつと戦うつもり!?」
安全な後方に身を隠しつつ目を丸くするアイラに構わず、ティナはモニター越しにタランチュラパラドクスをにらんだ。
「――って、ゴウレックス!?」
「グルルオオオオオオオン!!」
その矢先にゴウレックスがティナの操縦を待たずに、タランチュラパラドクスに突撃し始める。
「キギュウウイイイイイ!!」
それに伴いタランチュラパラドクスが体毛の一つ一つを銃口に変形させ、そこから機銃掃射の雨あられを降らせた。
「ティナーー!!」
機銃掃射を浴びせられるゴウレックスを目の当たりにしてティナの名前を叫ぶアイラ。
しかしゴウレックスの強固な装甲はびくともしない。
「グルルオオオオオオオン!!」
そればかりかゴウレックスは闘争心に火が着いたのか、機銃掃射をものともせず突撃を続ける。
「や、ヤバ……っ」
「う、うううううっ!」
コックピット内でティナが苦悶の声をあげるのとは裏腹に、ゴウレックスは強引にタランチュラパラドクスに肉薄し、巨大な足でその顔面を踏みつけた。
「キギュウウウ!?」
「グルルウウウ!!」
もがくタランチュラパラドクスに食らいつこうと大口を開けるゴウレックス。
しかしタランチュラパラドクスも負けじと脚をドリルとチェーンソーに変形させて、軋むような稼働音を立て始めた。
「ティナ、危ない!」
アイラの叫びも届かず、タランチュラパラドクスのドリルとチェーンソーがゴウレックスの装甲と接触する。
その瞬間迸る火花!
「グルルウウウ!!」
これにゴウレックスが逆上したのか、極太の牙が生えた強靭なあごでタランチュラパラドクスのドリルとチェーンソーに食らいつく。
「キギュウウウ!?」
それはまるで紙切れのように易々と引きちぎられた。
「ヤバっ、大型パラドクスの肉体って戦車の砲撃でもびくともしないくらい強固だって授業で習ったのに……!」
そこからは一方的な展開だった、踏みつけられたままタランチュラパラドクスはゴウレックスに全身を食い破られて、ついには消滅してしまう。
「大型パラドクスをあんな簡単に倒しちゃうなんて……ヤッバーーー!!」
「アイラちゃん、来ちゃダメーー!!」
興奮のままにアイラが駆け寄ろうとした時、通信越しにティナが制止した。
「へ? うひゃあああ!?」
「グルルウウウ! グルルオオオオオオオン!!」
タランチュラパラドクスを撃破したにも関わらず、ゴウレックスはなおも暴れ狂っているのだ。
「ちょっとティナ! ゴウレックスを止めなよ!!」
「――ダメ、操縦が利かないの! うううっ、ダメだよゴウレックス~!!」
「そんな、ウソでしょ……!?」
ティナの悲痛な言葉で顔面蒼白になるアイラ。
ゴウレックスはティナの操縦を受け付けず、完全に暴走していた。
「――グギュルルル」
「あれ、キー坊? もしかして乗れって?」
頭を垂れてコックピットハッチを開けたキー坊に、アイラは慌てて乗り込む。
その間にもゴウレックスは次なる変形を遂げていた。
背中と尻尾の付け根の装甲を展開し、足元のアンカーを下ろして地面に固定する。
低く一直線になった体幹を通して大きく開け放たれた口の砲口に、凝縮されようとするとてつもないエネルギー。
「まさか、あれって荷電粒子砲……!?」
荷電粒子砲、それは空気中の荷電粒子を取り込み、亜光速まで加速して放つ最強火力の武装及び攻撃である。
「こんなところで荷電粒子砲なんて撃たれたら、アタシたち生き埋めになっちゃう!! ――キー坊! ……キー坊?」
アイラが操縦桿を握るも、アクセルラプターのキー坊は一歩も動こうとしない。
「もしかしてビビってるの!?」
「グギュルルル……」
「もーしっかりしてよキー坊!!」
アイラがガチャガチャと操縦桿を動かすも、キー坊はそれを受け付けようとせず。
そうしている間にも荷電粒子のチャージは進んでいた。
「――もうやめてええええええええ!!」
ティナがゴウレックスのコックピット内で絶叫した次の瞬間。
崩れた天井からカブトムシ型の小型機獣【ビートボーグ】三体が急降下して、ゴウレックスに体当たりした。
「グルルウウウ!?」
三体の体当たりでゴウレックスは横倒しに転倒し、その動きを止める。
それと同時に開いたコックピットハッチから、ティナが放り出された。
「ティナーーー!!」
慌ててコックピットから飛び降りたアイラが、ティナに駆け寄る。
「ティナ、大丈夫!?」
「う、うん……わたしは平気だよ。それよりもゴウレックスが……」
おぼつかない目をティナが向けた先には、眼光が消えて稼働を停止したゴウレックスの姿が。
「――ったく、お前ら危ないところだったんだぜ?」
「その声はクラフト君!」
ビートボーグの一体から降りて苦言を呈したのは、クラスメートの少年ダニエル・クラフトである。
「それにしても何ですか、この巨大な機獣は」
「騒ぎを聞いて飛んできてみたら、ホントひどい有り様ね」
残りの二体から降りたやや小柄な少年パック・シュタインと少女レベッカ・エインもまた、この状況に顔をしかめていた。
「三人とも助けに来てくれてサンキューだよ~!」
「こらっ、抱きつくな! ……ったく!」
感激の涙を流したアイラは、来てくれた三人をまとめて抱きしめる。
こうしてビートボーグ三体に地下空間から引き上げられた後、ティナとアイラは実技の先生から大目玉を食らうのであった。
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