第3話 担いで走る男
今日もリーサは学校が終わるとすぐに走って帰ろうとしていた、友達のマリがゆっくり話しながら帰ろうと誘うが、いつものように断った。すると門のところで2人の少年が待っていた。
「リーサ! 勝負だ!」
「俺たちの足を見せてやるぜ!」
2人はセイジとソージ。双子の兄弟だ。彼らはこの学校で一番足が速いと言われていた。だが周りからリーサの方が早いと言われてカチンときて勝負をしに来たのだ。
「いいわ! ついてきて! 私を抜いたらあなたたちの勝ちよ!」
リーサは振り向いてそう言った。相手をしている暇はないが、帰り道なら構わない・・・でも私が負けるわけがないと彼女は思っていた。
「ようし!」
2人の少年はリーサを追いかけてきた。リーサはまた走り出した。少年たちは懸命に追いかけて来るが、リーサの速さには敵わない。それにその持久力にも。
やがて少年たちは息を切らせて走るのをやめてしまった。
「全くかなわないぜ」
「ああ。俺たちじゃ相手にならない・・・」
少年たちは悔しそうにしていた。
「じゃあ、ここまでね。さようなら!」
リーサは笑顔で彼らに手を振るとまた走り始めた。少年たちはあきれたようにそれを見ていた。
◇
そこは村の大きな道だった。ここにも走っている男がいた。「えっさ、えっさ・・・」と掛け声をかけながら、かなり早いペースでずっと駆けている。そしておかしなことにその背には多くの薪を担いでいた。その男はもう中年に差し掛かる年ではあるが、かなりの健脚のようだ。
旅の一行が偶然、畑のわきの道でその男とすれ違った。それは白いひげと白髪で優しそうな顔をした老人と黄色の服を着た男、そして背中に2本の剣を刺した剣士の3人だった。老人はその奇妙な格好で走る健脚の男に興味がひかれた。
「キリン。あの男はどうしてあのような姿で走っているのであろうか?」
「さあ、この土地にはそんな風習があるのかもしれません」
キリンと呼ばれた黄色の服を着た男はそう言った。老人は振り返ってその姿をもう一度見た。やはり重い薪を背負って走る姿は異様であり、そのわけが知りたくなった。
「あそこに人がいます。訳を聞いてまいりましょうか?」
お供の剣士が前を指さしてそう言った。
「そうじゃな。ビャッコ。この村の人のようじゃ。儂が行って訳を聞いてみるか」
老人たちはその村人のそばに行った。
「もし。私は旅の方術師です。一つ教えていただきたいのですが、さっきここを走っておられた方のことですが・・・」
「ああ、ガンジさんだね。見回り組の騎士さんだよ」
「あの人はどうして薪を背負って走っていなさるのか?」
「ガンジさんは朝駆けに出るから鍛錬しているんだ。確か、去年、一番乗りだったんだよ」
と村人はそう教えてくれた。老人は大きくうなずいた。
「そうでございましたか。ありがとうございます」
老人は礼を言ってまた道を歩き始めた。
「朝駆けか・・・」
ふと老人は何かの異変を感じてつぶやいた。そしてその懐から水晶玉を出して中をのぞいてみた。その中には過去、現在、未来のあらゆる事象を映し出すと言われている。
老人はいつになく厳しい顔をしている。水晶玉によくないことが映ったのだ。
「うむ。そうか・・・」
老人はうなずいてそう呟いた。何が見えたのかが気になったビャッコが老人に尋ねた。
「どうかなさったのですか?」
「この地に乱れがある」
「乱れでございますか?」
「そうだ。この乱れは人が作ったもの。それでこの気象が乱されておる」
老人はすべてを見て取ったのか、水晶玉を懐にしまった。
「このトキソ国は評議会が新たに任命したアデン王が治めておりましょう」
「若いが広く学問を修め、思いやりがあり、人物としては申し分ない。しかし・・・」
老人は言葉を濁らせた。ビャッコはさらに聞いてみた。
「それなのにこの国は乱れていると?」
「そうだ。先王の時から雨不足による飢饉に見舞われ、民は疲弊していた。アデン王なら立て直せると思ったのだが・・・」
老人はそう言ってため息をついた。
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