遭難日誌最終日
【西田茂の手記】
もう俺はダメかもしれない。
後何日もつかわからないし、なんだったら今夜死ぬかもしれない。
最後に今日起きたことを振り返ろう。
最低限の荷物、日記と釣り竿と斧、銃だけ持って拠点を出た。
宮本さん、美恵ちゃんと三人で物資を集めに行ったのだ。
ダメ元で美恵ちゃんが元いた拠点に向かった。
死屍累々、生存者は誰一人いなかった。
あらかた漁りつくされてたみたいで、最低限の物資だけ残っていたって感じだ。
涙をこらえる美恵ちゃんを黙って抱きしめた。
ああ、今にして思えば、抱いておけばよかった。こんなことになるなら。
結局キスさえできないまま死ぬのか、俺は。せっかく落としたのに。
ふと、俺達の拠点の方角を見ると、煙があがっていた。
おそらく襲撃されたのだろう。
今となってはどうでもいいけど、せっかく作ったミシンやお風呂、置いてきた木や金属が勿体ないと落胆したな。住処自体は、もぬけの殻になったこの拠点があるからいいけど。
まあ、今となってはどうでも……。
寝場所を確保しようと、瓦礫を撤去していたらヘビが出てきて足を噛まれた。
種類はわからないけど、毒々しい色の蛇だ。
俺の症状からみても、猛毒で間違いない。
すぐに足を縛って、可能な限り毒を絞り出したけど、完全には取り除けていないだろう。現に、俺の体は衰弱の一途を辿っている。
頭がまわらないし、字もふにゃふにゃだ。誰かがこの日記を手に取っても、読めないだろうなぁ。
このまま死ぬのかな。ハードディスクを処分するノリで、死ぬ前に日記を燃やすべきかな。
いや、俺が生きた証として残したい。
死ぬ前にヤらせてくれと美恵ちゃんに頼んだが『生きてください! 希望を捨てないで! まだ助かります!』と励ますばかりで、キスの一つもしてくれない。
せめて胸を揉もうと思ったのだが、手を払いのけられた。
なぜだ? なぜ相思相愛なのに、今際の際なのに、なぜ体を許してくれない?
身持ちが固いことは察するが、それでもこんな時ぐらいいいじゃないか。
そもそも俺が衰弱してるのは、彼女に食料を分け与えてきたからだ。
彼女のために、必死な思いで重労働してきたからだ。その疲労がなければ、ヘビぐらい回避できた。
彼女のために命を落とそうとしているのに、なぜ俺の漢気に報いてくれない。
まさか見限ったのか? 俺のことを宇宙で一番好きなくせに、間もなく死ぬから愛想が尽きたのか?
まことに恐ろしい女だ。女ってのは皆そうだ。
愚妻もそうだった。元カレがどうだの、俺の前で平気でのたまっていた。
俺がいるのに、男のアイドルをおっかけてやがった。
夫の責務として、矯正してやったらDVだなんだと騒ぎ立てて、両親を巻き込んだ事件にまで発展させやがった。
なにがDVだ。俺が暴力なんて振るうはずないだろう。ああ、ろくな思い出がないなぁ。死ぬときくらいいい気持ちで死にたい。
覚悟を決めさせるために、悪い記憶ばかり想起させているのだろうか。
俺が助からないと悟ったのか、宮本さんが『実は前に食べさせた肉、キミが好きだった乗員の肉やねん』と笑いながら言ってきた。
きっと岩田さんのことだろう。
本来なら怒るところなんだろうな。でも、不思議と怒りはわかなかった。
岩田さんと心中できるみたいで、むしろ嬉しい。
俺が頑張ってこれたのって、岩田さんが俺の血肉として助けてくれてたからなんだな。間違いない。
俺が好いてる以上に、あの子も俺のこと好きだったもんな。俺に会うたび挨拶してくれたし、仕事を手伝ってくれと甘えてきたし。
だから俺と一体化して助けてくれたんだよ。
そっか、そういう愛もあるんだな。
よし、美恵ちゃんにも愛を貰おうか。
きっと彼女もそれを望んでるはず。だからこそ突き放すような態度をとったんだ。
虫の息の俺だが引き金ぐらいは引けるさ。二発あるからしくじることもないだろ。
【宮本智の手記】
美恵ちゃんの拠点壊滅してて草生える。
ちょっと弓矢撃ったくらいで、ここまでやるかぁ。殲滅戦までせんでもええのになぁ。野蛮やわぁ。
あっ、それとDXサトシティ燃えてた。
今までありがとな。大好きやったで。
西田君が蛇に噛まれててワロタ。
美恵ちゃん曰く、即死しなかっただけで奇跡らしい。
早めに縛ったから助かったんやろか。まあ、助かってはないんやけど。
とりあえず死ぬ前に、人肉のことをネタバレしたった。
思っとったリアクションと違ったけど、アレはアレで良かったわ。
なんか幸せそうっていうか、穏やかやった。どんな心境やねん。
初めて美恵ちゃんとまともに話したけど、西田君のこと嫌ってて草。
まあそうやろな、ちょっとキモかったもん。
とりま明日は、ここを襲撃した村を襲撃しようってことになった。
結構血の気荒いんやなぁ。
本格的なバトルかぁ。明日が楽しみやなぁ。
せや、明日は忘れずに銃を回収せんと。死人に銃なんかいらんやろうし、問題ないやろ。
西田君の形見と思って大事にしよ。西田君が力を貸してくれてるみたいで、勇気が湧いてきそうや。
異常者達の宇宙遭難日誌 シゲノゴローZZ @no56zz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます