遭難日誌4日目
【西田茂の手記】
宮本さんが野生動物を狩ってくれているとはいえ、携帯食料も残りわずかしかない。
性別による基礎代謝や仕事量から見て、田尻さんの配給を減らすのが合理的だと思うが、それを強要することはできない。
俺達と同じ量を食べるのはいいけど、もっと仕事をしてほしい。午前中に終わる程度の農作業で仕事をやりきった感を出さないでほしいし、楽しい食事中に愚痴をこぼさないでほしい。
我々が文句一つ言わずに働いてるのを見て、何か思うところはないのだろうか?
まずいな、食料問題のせいでストレスが溜まってきているようだ。
卑俗な話だが、性欲の方も辛い。
死体が無事に処理された安心感もあるのだろうか? なんにせよ、情けない話だ。
無駄なエネルギーやら亜鉛やらを消費したくないが、遠出するついでに処理するべきか?
いや、宮本さんが脱出と生き残りに全力をかけているのに、俺が岩場にかけるのは間違ってるな。
亜鉛で思い出したが、塩はどうすればいいんだ? 今ある塩が尽きた場合、全員死んでしまうのではないか?
いざとなれば生肉や血液で補給できると思うが、寄生虫のリスクが怖すぎる。
まずい、急に不安になってきた。
狩りと携帯食料で作物が育つまで持ち堪えたとして、安全な塩分の補給が思いつかない。本当にシャレにならない。
どうする? 宮本さんに相談すべきか?
いや、宮本さんならとっくに気付いているはずだ。気付いていないのは、彼女だけだろう。
彼女の労働力と資源の消費は明らかに見合っていない。
ダメだ、いくら考えても踏ん切りがつかない。
やるとすれば俺が責任をもって、手を血に染めるべきなんだろうけど、恐ろしい。
ゴク潰しを処理するなら早い方が得だとはわかっているんだが……。
先延ばしも兼ねて、彼女の労働を観察してみることにした。
あえて説明せずに、彼女が改心するのを待つというハラだ。
現状のヤバさを鑑みるに改心しない方がいいのだが、それでも改心してほしい。
ああ、俺ってどこまでも情けない男だ。
とりあえず風呂の建築ペースを落として、狩りを手伝う方針に切り替えた。
食事の量さえ増えれば、田尻さんも味付けなんてさほど気にしなくなるという淡い期待を込めてのことだ。
彼女に使う塩だけ、極端に少なくする。これぐらいは許されるだろう。
そうだ、男性の方が必要な塩分量は多いのだから、別に問題はない。
そもそも彼女は大して汗をかいていないし、必要ないだろう。
【宮本智の手記】
西田君、やるなぁ! ちょびっとだけ見直したわ!
敦子ちゃんの飯だけ塩全然使ってないやん! さすがに怪しまれるやろうに、ええ勝負度胸やわ。麻雀とか強いタイプやな。
いやぁ、この状況で風呂作りなんて始めた時はどないしたろって思ったけど、正しい判断ができるみたいで一安心や。宇宙船修理できるの西田君しかおらんのやから、しっかりしてもらわんとな。
敦子ちゃんは塩分不足で緩慢な死を迎えるんやろな。働かざる者、塩分を得るべからずってな!
まあ、初日の時点で大量の塩を地面に隠してるから、節約する必要なんて全然あらへんのやけどな。無駄な食い扶持減らすって意味では、塩分抜きは賢いわ。
囚人も塩分減らすだけで大人しくなるっていうし、逆に毎日塩分過多にして夫を亡き者にするってウルテクもあるらしいな。塩ってホンマ凄い!
それはさておき、今日は西田君が狩りを手伝ってくれた。
一人でも楽しいけど二人やとめっちゃ楽しい。敦子ちゃんもやればええのに。
ただ、西田君は動物殺すの怖がってた。めっちゃウケる。
スーパーに売ってる肉なんて死体そのものやのに、何が怖いんやろ。
ペットショップでワンちゃん達が陳列してる裏でいっぱい死んでるのに、何を今更怖がってるんやろ。変わってるわ。
っていうかタバコどうしよかな。
死体からかき集めた分もそう長く持たんやろうしなぁ。
短期間だからって少ししか持ってこなかったことを後悔してます。
これからは不時着する可能性を考慮して、常に半年分は持ちあるこっと。
【田尻敦子の手記】
風呂作りどうしたん? アイツ。
サボりもいい加減にしろ!
狩りすんのはいいけど、作業が遅れた分、徹夜で風呂を作れ!
あっ、でもうるさくて眠れないかな。
じゃあ夜中のうちに遠くで木を切ったりすればいいのか。私って天才?
ホント、アイツ時間の使い方が下手くそすぎ! マジ無能!
こっちは一生懸命、作物育ててるのに、なんでアイツはサボってんの?
今日の肉は昨日よりマシだったけど、味が薄すぎ。
男ってなんで料理一つまともにできないのかな。いや、答えは明白。
世の中の女性を性欲処理係兼飯炊き女だと思い込んでるからだ。
人類が誕生してから幾年もの月日が流れてるのに、なんで男って成長しないんだろうか。下半身に脳みそついてるに違いない。潰れたらいいのに。
あーあ、日記書くのも面倒になってきたな。
アイツが無能すぎて愚痴しか書くことがないからだわ。
作物っていう、サバイバルで一番重要な物を作ってる人を怒らせたことを、絶対に後悔させてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます