月夜
猫又大統領
月夜
久しぶりだね、と並んで歩く幼馴染がいう。でも、日が沈んでから歩くなんてことは初めてだ。
幼馴染と最後に二人並んで歩いたのはいつ以来だろう。
同級生からの視線に勝てなかった。周りの目なんかより、僕の目が決して離さない彼女を見続けるだけでよかったはずなのに。
意を決して、彼女が校門を出るとき僕は、月を見に行こう、と少し震える声で言ってやった。
うん、と返事が返ってきたその言葉が、僕の心臓は回転をあげすぎて無音なる。
家に帰っても、落ち着くこともできないで、待ち合わせの一時間前から、彼女の家の近くにある街頭の下で待ち、待ち人が来るまで無数の虫と格闘をしていた。
どうしたの、と澄んだ声で幼馴染が白いワンピースで現れたとき、刺された痒みは消える。この世にある本物の万能薬は君だけだ。
こんなに暗さが重たい夜。風は流れず、草木も静まる。
僕の持っているライトひとつがこの道を照らす。無言は続き、辺りの鈴虫でさえ遠慮がちに鳴いているように思う。
しばらく歩くと地面を削って作っただけの荒い作りの階段が暗闇から浮かぶ。僕たちを歓迎する雰囲気はない。
隣の幼馴染の足元に光を向けると、ちらちら、と細くて白い足が見え隠れする。僕は必至で地面だけを照らす。そんな人だと思われたくない一心で。
その階段を昇り終わった場所から、月を見上げた。それが今の僕には精一杯だった。
相変わらず言葉がない二人だけど、何もなくても、何も変わらなくても、特別な日だったと僕はあの日を思う。
月夜 猫又大統領 @arigatou
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