第40話 皇帝はかく語りき⑥~正義という罪~


「そっちの言い分は理解したよ。けど生憎、俺にはその話の中のどれくらいが真実か確かめるすべがない」


 話を聞いての素直な感想を言うと、皇帝は残念そうにため息を零している。いちいち態度が癪に障るのはこの際置いておくとして、言葉だけではいそうですかと人を信用できるような相手ではない。

 それによしんば言っていたことが真実だったとしても、それにかこつけて随分と好き勝手をやっているなというのが正直な感想だ……アルを死なせた理由としては納得できるもんじゃない。

 それに皇帝の言うような勇者の力を危険だと判断するような事件があったとしても、やり方はいくらでもあった

 今の帝国の行動はある意味でその暴走した先代勇者と同じことをやっている。皇帝は気づいているのかはわからないが。


「そうか。……国父たる天騎士が先代勇者の暴走を聖教会と共に隠蔽したので証拠と呼べるものがこの記憶以外にないのでな、そう言われると返す言葉がない。世界を救った勇者が殺戮をしたという事、親友が無辜の民を虐殺したという事を歴史に残さないようにしたのが裏目に出たか」


「ま、そんな事はどうでもいいんだけどな、俺からしたら。……で、目論み通りに勇者の排斥には成功した訳だがこの先をどうするつもりだ?あの大砲で世界を支配でもするつもりか?」


 俺の質問に、呵々大笑をする皇帝。


「ハッハッハ!大砲か、教会に与えたあんなものは――――我が帝国の叡智の末端でしかないわ。あんなもので倒せるほど災厄は貧弱でもない。みるが良い天騎士よ、女神の従僕たちよ。この帝国こそがまさに世界を導く“旗頭”なのだということをな」


 皇帝の言葉に、城の天蓋が動く。いや、城壁事建物が動いているようだ。城の屋根が開かれ、夜空がみえる。そこから見えるはずの星の光は王国やエルフの国とは違って街の灯りで随分と少ないように感じるが、それよりも空に浮かぶ何かが星の光を遮っている。目が慣れてきてその全容がわかると、思わず声が出た。


「……船?いや、これは飛空艇?」


「ほぉ?天騎士はわかるか。そうとも、これこそが代々の魔導研究の成果であり、帝国の防衛予算の2/3を注ぎ込んで作られた世界唯一にして最高の力、空を飛ぶ要塞“ルーラーシップ”じゃ」


 ドヤ顔で説明をする皇帝。……その言葉が示すのは空に浮いているのは巨大な船だ。帆船のようにもみえるそれは空中に浮遊しており、その船体の横には教会が使っていたあの大砲が無数に配備されており、こちらを向いている船体正面にはひときわ巨大な砲がある。


 ……本当にとんでもないものを作ったなと、素直に感嘆する。


 空を飛ぶには一部の魔法や、ファルティの月皇弓のような特殊な道具を用いない限り空を飛ぶ手段がないこの世界において自由に空を飛べるというアドバンテージは計り知れない。たしかに、都市ひとつぐらい単独で制圧できるだろう。災厄に対しても機動力と火力で十分に戦う事も可能かもしれない。

 支配権と船をかけてるのはシャレが聞いたネーミングだな、前世の記憶だとまた別のものが思い浮かぶんだけど……今は関係ないか。


「帝国はこの船で既に何体も災厄を滅ぼしておる。

 この世界にはびこる災厄を帝国が、余が全て滅ぼしつくし新世界の秩序をつくる!そして―――世界を平和にした後は女神の神殿を吹き飛ばし、神話の時代を終わらせてくれようぞ!!」


「随分と自信があるようだがそう上手くいくかな?……そしてもう一つ、それだけの力を持った帝国が、お前の主張する先代勇者のように道を誤らないという保証は誰がしてくれるんだ?」


「―――保障?そんなものするまでもない。余が、……余こそが正義である!!」


 ―――あぁ、論外だ。酔ってるのかこいつ、正義って言葉に。いっそ欲望が原動力で世界征服の野望だとか言ってくれた方がまだマシだったが……よりにもよって“それ”か。

 自分自身が正義だと思い込んで独善的に暴走する奴は人の話を聞かない、何を言っても理解しないし聞く耳を持たない。その結果が思い込みと決めつけで勇者を排除し、災厄を顕現させる遠因になった。……そもそもアルについてもアル自身をみずに排除すべしと決めつけてかかっていた時点で人の話を聞くタイプじゃない。自分が絶対に正しいと主張して暴走する奴は狂人のそれと変わりがない。

 この世界で不幸だったのはそういう人間に“力”があったこと。


 ……どこの国でも世界でも、“正義”って言葉に酔ってる奴が一番タチが悪い最悪……いや災厄だな。

 

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