第41話 再会と出会い

王立学園の夏季休暇は1ヶ月だ。

日本と同じ位だね!そしてなんと、宿題課題ナシ!

浮かれポンチになるわ~、幸せ!と思っていたけれど、休み明けすぐに確認テストがあるらしい。それはそれで結構えげつない。まあでも、休暇期間中は自分のペースで過ごせるし、良しとしよう。

サバンス家としては、夏季休暇終了の一週間前には王都に戻る予定だ。 


そして本日は領地滞在の3日目。


予定通り、1日目にさっそく牧場へ行って美味しいソフトクリームを食べ、2日目にはキレイな湖でピクニックをした。

そして、今日の3日目は、街へお出かけだ。昨日と一昨日は両親も一緒だったけど、街歩きはまだダメだと、お父様がお母様への過保護を発揮して、今回はマリーアと私の二人だけで、である(護衛はいるよ)。


いろいろできて、これぞザ・夏休み!って感じ。楽しい!私はまだ学園生じゃないけどね。それでも普段よりお勉強は少ないし。適度な休憩は大事、大事。


サバンス領の領都も、王都とは違った賑わいで溢れている。言うなれば、軽井沢や那須辺りのいいとこ取りをしたような観光都市、みたいな?避暑地としても人気なので、結構観光収入もあったりするのだ。美味しいレストランなんかもたくさんあるよ!みなさん、おいでませ~。


でも、今日の私たちのお目当ては、魔道具店。

王都の魔道具店は、指輪や腕輪などの装飾系を扱うお店や、前世で言うところの家電店が多いが、地方に行くと農機具やら工業用の器具、生活魔道具の取り扱いが多くなる。

イデアーレ様ほどの天才はなかなかいないが、うちの魔道具師たちも結構粒ぞろいなんですよ!土地柄、搾乳器とか干し草作りのものとか、酪農、農業の魔道具が得意なのだ。これも、ある意味うちの領の特産品かな。


そんなわけで、領都をマリーアに案内するのと、特産品魔道具の視察も兼ねての街歩きなのだ。魔道具の見学は勉強にもなるしね!


そうして、前世でのホームセンターと車屋さんを足して二で割って、更にアンティーク調にしたような、うちの自慢の魔道具店に到着した。


「マリーアお嬢様、リリアンナお嬢様、本日はようこそお越しいただきました。店主のラビオと申します」


今日はお忍び風に、てなことで、あまり仰々しくならないように話してあったので、店長が静かに迎えてくれた。護衛もいるし、なんならマリーアも私もある程度の魔法は使えるので、お客様の出入りの制限もせずにいつも通りでお願いしてある。それでこその視察じゃない?


「今日はお世話になるわ、ラビオ店長。いろいろと伺うのを楽しみにしていました」

「才女と誉れ高いマリーア様のお言葉、恐悦至極に存じます」

「あまり畏まらないで?本当に二人で楽しみにしていたの。ね、リリー?」

「はい!搾乳器のあの、人の手と同じように動かせる仕組みですとか、マリー姉様とあれこれ考えて来たりしました!」

「リリアンナ様。ほう、それはそれは。是非、お二人の見解を……」


ラビオ店長も、収支計算が得意なために店長もやらされているが、立派な魔道具師だ。研究に関する話になるとかなり食いついて来て、見学しながらいろんな事を聞けて、有意義な時間を過ごすことができる。そして少ししたところで、出入口のドアが開き、カランカランと来客を知らせる鐘と共に、見知った顔の少女が入ってきた。


「いらっしゃいませ。これは、イデアーレ様」

「「イデアーレ様?!」」


店長の挨拶と被りそうなタイミングで、マリーアと私でつい叫んでしまった。店長ももちろんイデアーレ様の顔も偉業も知っていて、ウェルカムモードだ。


「まあ、ご機嫌よう、マリーア様、リリアンナ様。それにラビオ様。ご無沙汰しております。そして、マリーア様とリリアンナ様におかれましては、この度はおめでとうございます」

「ご機嫌よう。ありがとうございます、イデアーレ様。まさかお会いできると思っていなくて、大声でごめんなさい」

「そんな、気になさらいで、マリーア様。リリアンナ様も、今お忙しいのでは?」

「そうでもないのですよぉ。わたくしはまだ学園にも行けないですし。毎日明るく楽しく過ごす様に心がけるだけですわ」

「ふふっ、リリアンナ様もお変わりないようで、嬉しいわ。わたくしがこちらへお邪魔したのは……」

『イデア!ちょっと、向こう!向こうにもっと面白そうなものが……!!』


イデアーレ様と私たちの挨拶の途中で、彼女を呼ぶ楽しい声と共に一人の美少年がバーンと店に入ってきた。あれ?初対面なのに、既視感のある子だな。妙にキラキラして……。ん?あれ?


「イルス!人前での話し方は気をつけて、と」

『あ~、ごめんごめん。外に展示してある魔道具が面白い設計で…………って、ゲッ!!』


どうやらイデアーレ様のお連れ様のようであるは、楽しそうな視線をイデアーレ様から私たちに移した瞬間、二、三歩下がってそう漏らした。


……今、明らかにゲッ、って言ったよね、ゲッて。


マリーアと二人で視線を合わせる。美少年過ぎるこの子は、もしや。

……考え通りだとすると、いろいろと突っ込みどころがありすぎるのだけれど。


「イル!急に失礼よ!お二人に謝って。申し訳ございません、マリーア様、リリアンナ様」

『ああ、いやあ~、今日はちょっとお暇しようかと思っているから……』

「えっ、お店の見学とその後の研究に付き合ってくれないの?」

『い、いや、その』


彼、いやイルス様は、こちらをチラチラ見ながら逃走体制に入っているが、イデアーレ様との約束を反故にするのもしづらいらしい。


その様子を見て、マリーアと私は阿吽の呼吸でイルス様の両サイドを固める。


「ここでは何ですから。お店を出て話をしませんか?ノーム様……ですよね?」


私の耳元での囁きに、諦めたように下を向いて、頷くノーム様……いえ、イルス様がいいのかしら。

かなり驚いた様子のイデアーレ様も含めて、お話をした方が良さそうですよね。

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