第40話 領地に着きました

お母様のご懐妊で領地行きはナシかなと思ったら、予定通りに向かうことになった。

一瞬、馬車は平気なの?と過ったが、そうだ、あれはファーストクラスかそれ以上の乗り物だったと思い直す。ほとんど揺れないし、何なら横にもなれるし。


しかも!!魔道具で悪阻防止の腕輪まであるのよ!何てこと!!!


さすが原作が日本の小説。憧れと夢がたくさん詰まった世界ですわ。便利さとアンティークが混ざった、素敵なファンタジーの国ですわ。ありがとう、異世界転生。


だってー!妊娠中のつわり、結構酷かったんだよ、私!!何を食べても吐き、大好きなお米の匂いでも吐き、しまいには水を飲んでも吐き、なんやねん!ってなった。毎日毎日、明日には治まってるといいなあと朝起きて、気持ちの悪さにがっかりして……6ヶ月頃にようやく治まったんだよね……。生理と妊娠は病気じゃないって、本来の意味は『病気じゃないから、しんどいけど我慢しなくちゃいけない大変なこと』のはずだったのに、『病気じゃないから頑張って当たり前』に変えた黒幕大元凶は誰だ。吊し上げたいわ。

……コホン、また脳内白熱してしまった、10歳10歳。


そして、ファーブル王国に聖魔法があっても、使える人は稀だし、大病や大怪我を治せる人もそうそういないから、医療もわりと発展しているのでそこも安心材料。ポーション類もあるし。


と、いう訳で。


やって参りました、我が家の領地!


王都から馬車で3時間程で到着。


周りを山々に囲まれた、避暑地にうってつけの場所だ。軽井沢とか那須とか?そんなイメージかな。


「お帰りなさいませ。旦那様、皆様」


領主邸に着くと、こちらの執事さんとメイドさんたちがずらっと出迎えてくれた。


「ただいま帰った。フレッド、変わりはなかったか?」

「はい。滞りなく」


フレッドの返事に頷くお父様。そして、マリーアを隣に呼んだ。


「こちらの皆は初めて会うのであったな。リリアンナの姉となった、マリーアだ。マリーア、挨拶を」

「マリーアです。これからよろしくお願いしますね、フレッド」

「ご丁寧に、痛み入ります。こちらの邸のことは、何でもわたくしにお申し付けくださいませ」


フレッドは恭しく頭を下げた。

おおっ、久しぶりの淑女マリーア!抑えた貫禄のある微笑みも素敵です!メイドさんたちも、馬鹿にしていた訳ではないのだろうけれど、改めて空気がシャンと伸びたのを感じる。貴族である以上、こういうのも大事だもんね。


その後は、お母様も私も軽く挨拶をし、ティールームに移動して、お茶をいただく。その間にメイドさんたちが荷物を片付けてくれるのだ。これも、お嬢様生活ありがとうだよねー。

ちなみに、こちらの邸宅にはメイドさんしかいないので、専属侍女のアイリとスザンヌも付いてきてくれている。もちろんお母様にもだ。


「奥様。お体は辛くございませんか?いつでもアンヌ医師をお呼びできますので」


フレッドが木苺のタルトをサーブしながら、お母様に問いかける。


「ありがとう、大丈夫よ。もともと解毒の指輪もしていますし、悪阻防止の腕輪これもありますし」

「それでも心配だよ、ジョセフィーヌ。転んだりしないようにじっとしてーーー」

「出ましたわ、お父様の過保護」

「ふふっ、リリー、仕方ないわよ」

「そうかもしれないけどぉ」


フレッドの気遣いに便乗して過保護モードが入ったお父様に、すかさず突っ込む。だって。


「リリーたちは心配じゃないのか?」

「そんなはずないでしょう。お父様のは過剰と申し上げているのです。やりすぎるとお母様の精神衛生上よろしくないと思いまして。息が詰まりますよ」

「そうよね、リリー。お父様ったら、お義母様を常に抱き抱えて歩こうとする勢いだものね。仕方ないとは思いますけれど、確かに少し行き過ぎかとは……」

「うっ」


だからである。確かに安定期までは無駄に動きすぎはダメだけど、限度と言うものがあるのよね。

お父様は、いつもの突っ込み係の私だけではなく、マリーアにも指摘されて更にしょげている。


「リ、リリアンナお嬢様、マリーアお嬢様も……」

「ふふっ、大丈夫よ、フレッド。いつものことだから」

「……いつもの?」


フレッドはお母様の言葉を咀嚼しきれなかったらしく、普段は絶対しない、何とも言えない変な顔をしている。


「マリー、リリーもありがとう。みんなで心配してくれて、お母様は嬉しいわ。でもお父様も心配してくれているのだから、ね?」

「ジョセフィーヌ……」

「えぇ?お母様は息苦しくないのですか?」

「え、えっと、でもそうね、少しは控えていただけたらうれしいかしら……」


お母様のフォローに浮上しかけたお父様が、「ガーン!!」と書いたような顔になっている。私が「ほらあ」と言うと、さすがにかわいそうになったのか、マリーアが「少しだけ、控えたらいいと思いますよ、お父様」と、優しく諭す。そして結局、お母様に甘えて私に怒られる、いつもの光景だ。



ーーーその横で。


領主邸執事のフレッドは、見慣れぬ事態に不覚にも呆然としていた。


「フレッドさん、フレッドさん」

「はっ、すみません、スザンヌ。わたしとしたことが……」

「いえ。驚きますよね。昨年までの静けさと違って」

「ええ。噂は聞こえて来ていましたが、本当に……」

「ふふっ、全てリリアンナお嬢様のお蔭と言っても過言ではないのですよ」


リリアンナ専属侍女スザンヌの得意げな言葉に、他の二人の侍女も頷きながら微笑む。


「……本当に、立派になられて。マリーアお嬢様も、かなりの才媛と聞いていますしね。奥様もお幸せそうで……そう、そうですか……」


年齢のせいか涙腺が緩みますね、と、フレッド。


「フレッドさん、そんな暇はないですよ!そろそろ止めて差し上げないと、旦那様が沈みます!」


それは執事さんのお仕事ですから!との三人の言葉に、涙を堪えて幸せな戦場に向かう。


そしてすぐに、セバスチャンに傾向と対策を確認しておくべきだったと後悔したフレッドなのであった。



─────────────────────


パパンはリリアンナの時も心配していましたが、ヘタレさんは素直になれず、セバスチャンにあれこれ指示をしていました。

ママンは今回それをセバスチャンから聞き、少しは仕方ないかしらと思っていたようです。が、さすがに困ってきたようでした(^-^;

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