第7話 お父様の反省会

「リリー、わたくしのために怒ってくれてありがとう。でも、お父様にもう少しお話させてあげて?」


「はっ、そうでした」



しまった、ついダメ男許すまじスイッチが入ってしまった。ここは晩餐晩餐。今の主役はお父様とお母様。ええ、お父様の言い訳をちゃんと聞きますよ!



「すまない、ジョセフィーヌ……その、ずっと謝りたかったのだが、機会がというか、何というか……」


「ただの根性なしだったのですよ、旦那様は。奥様」



おおう、セバスチャンがグイグイ来るね!珍しい!



「セバス……」


「旦那様、出過ぎた真似かとは存じますが、リリアンナお嬢様からいただいたようなこの機会……この老いぼれ、逃すべきではないと愚考致します。つきましては、旦那様に対しましても、申し上げたく」


「……承知した。許可しよう……」



お父様は親に悪さが見つかった子どもみたいだ。まあ、いろいろ考えると、仕方ないわよね。



ともかく、そんなこんながあっても私は生まれた訳だし、お互いに貴族としての義務は果たしたということよね。



「わたしがそのような中でも、ジョセフィーヌ、君はわたしに心を砕いてくれていた。仕事に追われている時にはリラックスできるお茶を選び、わたしが家にいられる時はわたしの気に入りを揃えてくれたね。酒も食事も。わたしに近づき過ぎないように気を配りながら」


「旦那様、知って……」


「情けないが、始めに知ったのは、セバスチャンから指摘されたからだ。だが、最初は信じられなくて……。だってそうだろう?3つも年下の、筆頭伯爵家の貴族令嬢らしい美しいご令嬢が、言ってみれば瑕疵のついた男に尽くす訳などないと。でも言われて意識をしてみれば、君は本当によくやっていてくれていた。……それで自分の浅はかさに気づいたのだが……」



そこでまた言い淀むお父様。だから、そこがヘタレですよ。



「初めにやらかした羞恥と変な意地で、素直に奥様に謝れなかったのですよ。こう言っては申し訳ございませんが、奥様も近づき過ぎぬように努力されておりましたでしょう?そもそもそれも、旦那様の初手のせいでしょうが、奥様は自分の愛など望んでいないとか何とか言い出しやがりまして」



せ、セバスチャン、最後の方、イラついた本音が出た口調になってますわよ。気持ちは分かるけど。お母様にもツンデレ気質はあるのだろうけれど、お父様のせいで助長されていたのね。まったく……。



人間て、不思議なことに同じ人でも対する人によって見せる部分が変わるものだ。分かりやすく言えば、ほとんどの人には塩対応なのに、一人には溺愛、みたいな。それを相性というのだろうか。


それでもあれだよね、一生を共に過ごす人であるならば、できるだけ素直な自分を晒せたら幸せかなと思う。私はね。



「お父様は、お母様と仲良くなりたくなかったのですか?」


「リリー!そんな訳がないだろう!お父様はお母様に嫌われたくなかっただけだ!!」


「……え?」



一瞬の間。


の後、自分の発言に気づいたお父様が、ゆでダコになりながらあわあわし始めた。



「いやっ、だからその」


「は~、本当にヘタレなんですね、お父様……。嫌われたくないから、余計な事を言いたくないと?そもそも初めに余計な事を言っておいて、ちゃんちゃらおかしいですわ」


「うっ」


「信頼を取り戻したいのなら、まず、自分を全てさらけ出さないと。相手待ちにするなど、もってのほか」


「うっ」


「今回のことも、ある意味で有耶無耶にするおつもりだったのでしょうが、説明不足は不安と誤解を招くだけです」


「ううっ!」



セバスチャンが「ごもっともです」と深く頷き、お父様は「すまない……」と、更にがっくりと肩を落とした。やれやれ。



「……旦那様。わたくしからもよろしいでしょうか?」



ひと呼吸を置いた頃、お母様が問いかけた。しまった、また私が騒いでしまった。



「ごめんなさい、お母様。またわたくしが、つい……」



またつい熱くなっちゃったよ~!私の悪いクセ。



「ふふ、いいのよ。本当にありがとう、リリー。今まで充分幸せだと思っていたけれど、貴女のお蔭で所もあったと……気づいたわ」


「お母様、それは」


「勘違いしないで?旦那様と結婚して、貴女が生まれた事は、間違いなく幸せよ」



お母様はそう言って私に微笑みかけてから、お父様に視線を移した。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


マリーアは、侯爵の母への愛情に安堵しましたが、その後のヘタレ具合に苦笑するしかなく、話にも入りづらく困っていました。気の利く侍女が、「お食事をどうぞ」と言ってくれて、チラチラ話を聞きながら黙々と食べてます。

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