終章 『テンマの国』編
第65話 序 ー闇を裂く風ー
「ミナモちゃん、あれが目的地かな。」
「はい! 気配の強さからして、間違いないと思います。」
眼下に見えるのは、これまでに何度も感じてきた嫌な気配を、ひときわ強く漂わせる山地の一角。山肌には出入口と思われる洞穴が、控えめに口を開けている。
母さん達に見送られて聖域を出た後、フブキさんからもらった地図や、この辺りの地理や伝承を知るシズク様の知識などをもとに、私達が目指したのはさらに標高の高い場所。
霧に巻かれながら進むのには多少苦労したけれど、おかげで今はテンマの残党の根拠地を見下ろせる状況だ。
「人の出入りはそれなりにあるのね。さすがに規模は小さくないようだわ。」
「何か運び込んでるみたいだから、港湾都市の時みたいに魔道具を集めてるかも。ううん、むしろ・・・」
「ええ、各地で集められていた魔道具の、終着点はここだったのかもしれないわね。」
洞穴の周囲を見渡しながら、シエラとシノが言葉を交わす。
「ここから私が全力で撃てば、中の連中ごと叩き潰せるんじゃないか?」
「ティア・・・構造も調べずにそんなことをしても、きっと上手くいかないよ。」
「そ、そうか。まあ、今のところはサクラ達から合図が出たら撃てばいいんだろ。」
「う、うん。それはそうだけど・・・」
魔道具を手に気合いを入れるティアに、メイが微妙な表情を浮かべた。
「それじゃあ、ここでしばらく休憩しよう。向こうの様子を探るのは交代で続けようと思うけど、それなりに歩いてきたんだし、時が来るまでしっかり休んでね。」
「はい、サクラさん!」
ミナモちゃんに続いて、皆も大きくうなずく。そうして私達は、テンマの残党との最後の戦いに向けてしばしの休息を取った。
「それじゃあ、始めようか。」
「はい・・・!」
やがて、辺りが夜の闇に包まれる中、皆が揃ったことを確認してミナモちゃんと向かい合う。
「お願いします。」
「うん。」
互いの両肩に手を当て、魔力を受け取りながら術式を展開すれば、全身がそれに包まれたことをしっかりと感じる。
「「『水鏡』。」」
そうして顔を寄せ、唇を重ねれば、私達は強く強く繋がり合った。
「ティア、メイ。私と手を繋いで。」
「シエラさん、シノさん、行きましょう。」
同調した私達は、それぞれに二人の手を取り、風魔法を発動して宙に浮き上がる。
「周囲に敵の気配はほとんどありませんね。」
「うん、このまま接近しよう。」
感知妨害の魔法を合わせて展開しながら、先程まで見下ろしていた距離を、一息に飛び越えてゆく。
「あっちは私が・・・!」
「分かった!」
わずかに存在する敵の気配に向けて、短い言葉と繋ぎ合った思考を交わしながら、取り巻く風を弾として放てば、間もなく静かになった洞穴の前へ、私達は無事に降り立った。
「『水鏡』はそれなりに消耗するから、いざという時まで解除しておこう。」
「はい。感知妨害は続けたままで・・・・・・このくらいでしたら、いつでも大丈夫です。」
術式を解き、一度手を放して、皆で呼吸と体勢を整える。
「それじゃあ、前に進むよ。」
「「・・・!!」」
声を潜め、全員でうなずき合ったところで、私達はテンマの根拠地へと踏み込んだ。
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