第12話 光放つ魔道具
「ああ、城塞都市への旅人さんかい?
最近は来る者も少なくなっていたが、宿はまだ畳んでないからな。
泊まっていくのは問題ないぞ。」
「ありがとうございます。今日はここにお世話になりますね。」
「よ、よろしくお願いします・・・」
村の中へと入って間もなく、農作業をしている人がこちらを見てきたので、来意を告げると、冗談か本当か分からないことを言って笑う。
おそらく、訪れる人が減っているのは事実なんだろうけど、宿が全部無くなったら、さすがにお客さんが困るんじゃないかな・・・
「離れたところから眺めた時も、畑がいっぱいだなと思いましたが、
こうして見ると、すごい広さなんですね。」
最初の村人さんに挨拶をする時は、緊張していた様子のミナモちゃんだけど、
辺りを見渡して、目をぱちくりさせている。
ここは元より、農業を主とする村・・・という感じもする。
そうだとすれば、訪れる旅人の数が減ったとしても、深刻な問題としては捉えられていないのかもしれない。
もちろん、日用品などを取引できなくなったら、大変だろうけど。
「・・・さて、行きましょうか、サクラさん。」
「うん、そうだね。」
宿をとるためにこの村へ来たのは確かだけど、
ミナモちゃんが気にしているのは、少し離れたところから感知した・・・
いや、今も近くで感じている、子供達の間で魔法が使われるような気配だ。
のどかな村の中、少しだけ緊張感を持ちながら、
ミナモちゃんと二人、周りを見回しつつ歩いてゆく。
「またやってるの? ティア。」
「昨日も全然当たらなかったじゃん。」
「うるせえ! 私はいつか、こいつで名を上げてやるんだからな!!」
「・・・『探すまでもない』って、こういうことを言うのですね。」
「うん。あの子が何か使ってるみたいだね。」
私達が見たのは、子供達に囲まれながら、
少し乱暴な口調で魔道具を的に向ける、ミナモちゃんと同じくらいに見える女の子。
いや、性格とか服の好みとかは、だいぶ違いそうだけど。
「もう一度いくぞ、えいっ!!」
魔道具から、光の粒のようなものが撃ち出される。
しかし、それは的から少し離れたところを通過し、やがて消え去った。
「・・・光の魔法?」
「うん。扱いが難しいとは言われるけど、
あの魔道具で放つ方向を制御するのは面白いね。」
「私は初めて見ましたけど、サクラさんは・・・?」
「実は、私も今まで見たことがないんだ。
もしかすると、腕の良い魔道具士が作った、一品物かもしれないね。」
剣士が高めのお金を払って、自分に合わせた剣を作ってもらうことがあるように、
依頼者の意向や魔道具士自身の趣味で、そうした道具が存在するとは聞いている。
「でも、そんなものをどうして、あの子が・・・?」
「うーん・・・直接聞いてみたいところではあるけれど・・・」
「ねえねえ、ティア。今日はかくれんぼしようよ。」
「おいかけっこも!」
「くっ・・・仕方ねえなあ。付き合ってやるか。」
少し年下と思われる子達にせがまれ、
ティアと呼ばれた、特別な魔道具を使う少女が走ってゆく。
「あれを邪魔するのは良くないかな。」
「はい。悪い子ではなさそうですし、また時間のありそうな時にしましょう。」
・・・ミナモちゃん、自分を年上に思ってるのかもしれないけれど、
そうは見えないよと言ったら、怒らせてしまうかな。
*****
日が傾きかけた村の中で、
少女が独り、的を狙い続けている。
「ちっ・・・まただめか。次こそは・・・!」
上手く行かずとも、あきらめないその様子は、
内に秘めた強い思いを感じられた。
「こんにちは。」
ミナモちゃんが慣れない様子ながら、そこへ踏み出してゆき、声をかける。
「ん・・・? 見かけない顔だな・・・
いや、さっきこの辺で、私とあいつらのことを見てなかったか?」
「はい・・・その、あなたの魔道具がすごいなと思いまして・・・
あっ、まずは自己紹介ですよね。私はミナモといいます。」
「なんか調子狂うなあ・・・私はティアだ。」
「私も混ざっていいかな?
ミナモちゃんと一緒に旅をしている、サクラだよ。よろしくね。」
「あ、ああ・・・よろしく。」
後から入っていくのも、微妙な空気になりそうなので、私も出ていくことにする。
いや、既に戸惑いの表情は向けられてしまった気がするけれど。
「それで、ミナモちゃんがあなたの魔道具のこと、気になってるんだって。
もし嫌じゃなければ、少し見せてもらっても構わないかな?」
「あ、ああ・・・こいつのすごさが分かるなら、構わないぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
ティアが差し出した魔道具を、ミナモちゃんが大切そうに受け取った。
「やっぱり、握るところから魔力を吸収するようになってるんですね。
そして、指にかかる出っ張りを押すと、魔法が前に撃ち出されると・・・すごく面白い仕組みだと思います!」
「だ、だろ? これは親父の考えた・・・あっ!」
「ど、どうしたんですか?」
「・・・ティア。もし言いたくないこととか、
誰かに秘密にするよう伝えられてる話なら、聞かなかったことにするよ。
ね? ミナモちゃん。」
「は、はい! ティアさんが嫌なことを、無理に聞いたりはしません!」
「ああ、すまない。少しだけ考えさせてくれないか。」
「はい、もちろんです!」
「うん。それで構わないよ。」
ティアの言葉に、ミナモちゃんがすぐに答え、
私も続いてうなずいた。
「・・・っと、ティアのことを心配している人が、こちらに来るようだね。」
「あっ・・・そうみたいです。」
私とミナモちゃんの感知が、近付いてくる一人の存在を捉える。
敵意のようなものは無さそうだ。
「んん・・・? ああ、村長か!」
やがて見えてきた人影に、ティアが声を上げる。
「え・・・?」
「村長・・・?」
この村の長である人が来たことにも、少し驚く気持ちはあるけれど、
おそらくは、さっき口走った『親父』ではない。
その疑問は、今は胸の内に留めておこう。
「ティア、もうすぐ日が暮れる時間じゃぞ。
一緒にいるのは、旅人の方ですかな?」
「はい。商業都市から城塞都市へと向かう途中に、こちらへお邪魔しています。
剣士のサクラと申します。」
「同じく、魔法士のミナモです・・・」
「ああ、ここの村長をしておる・・・
んん・・・? 剣士、サクラ・・・失礼ながらお若い・・・
もしや、『風斬り』のサクラというのは、貴方のことですかな?」
「ああ・・・そう呼ばれることもあります。」
これは、何か頼まれ事の予感。
ミナモちゃん、私が知られているからって、嬉しそうな顔をしなくてもいいんだよ。
「今、この村では困っていることがありましてな。
報酬はお支払いしますので、宜しければ私の家で話を聞いてくださらんか?」
「わ、分かりました・・・ミナモちゃんも一緒で宜しければ。」
「ええ、もちろん構いません。ティア、帰るぞ。」
「あ、ああ・・・この人、有名な剣士なのか?」
「あ、ありがとうございます、村長さん。
ティアさん、実はそうなんですよ・・・!」
村に着いたその日に、色々なことが起こっている気持ちだけど、
私達はティアとも連れ立って、村長の家へと向かうことになった。
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