エンドロールまで殴り続ける 3発目
「あ、これパイロットならパラシュートで脱出とかできたんじゃないですか?」
「あのヘリにパラシュートはないよ」
「あってもそんな時間なかったよ」
知らなかった、ヘリコプターのパイロットは飛行機みたいにパラシュートを使わないんだな。
あと、飛び出しておいてなんだけど、ほぼ自由落下だから着地をどうしよう。
《紫電》で斜め上に大ジャンプしたら、うまい具合に落下速度を相殺できないかな?
「勇者! 下見ろ、下!」
「下? それはもう綺麗なアジサイ畑が──」
アジサイ畑には、大量の冒険者が集まっていた。
どいつもこいつも目をギラギラと輝かせて、獲物が落ちてくるのを待つピラニアのように殺気立っている。
「──アジサイ畑が殺伐としている!」
「おまえの敵しかいないぞ!」
「ずっと飛んでたから遠くまで来たんだよ」
たしかに、体感時間では短くても《エグゼクティブMBA》と機内でのボクシングファイトは長いこと続けていた気がする。
一難去ってまた一難、これではダイナミック自由落下をクリアしても、命拾いしたと安心できないぞ。
「これ、ぼくが降りていったらどうなると思います?」
「問答無用で攻撃されると思う」
「あ、こっちに弓を向けてる冒険者と杖を向けてる冒険者がたくさんいる」
「人質がいるのに攻撃するのか!?」
獲物が落ちてくるのを待つピラニア、という例えは不適切でした。
獲物を狙うハンターの間違いだったわ。
すでに魔法陣を出している冒険者もいる。
攻撃開始まで秒読みだ。
なりふり構わず逃げないと危険じゃないか、こんな状況。
「舌を嚙まないように気を付けて──《紫電》」
「ぎゃっ」
噛んじゃった。
大ジャンプでの回避行動は正解だったようで、大きく距離を開けて、気が早い冒険者からの攻撃からも身を遠ざけられた。
問題なのは、人質(要救助者)がいても攻撃してくるってところ。
ぶっちゃけ安全そうな場所にパイロットふたりを下ろして、心置きなく戦えるようにしたい。
そうしたいが、ダンジョンの中で一番安全だろう冒険者の側には近づけないし、空中に放り出すわけにもいかない。
「勇者、右! 右を見ろ!」
「右~? どうせまた倉持さんが飛んでたりして」
「すごく大きい犬がジャンプしてきてるぞ」
「
顔を向けると、フェンリルが三段ジャンプの三段目を決めたところだった。
威圧感のある魔狼の身体が高速で迫ってくることにパイロットふたりは怯えているけれど、自分はと言えばその姿に安心感を覚える。
『どうしたごすずん、空中散歩か?』
空中散歩なんてどこで覚えてきたんだろう。
いや、前にYouTubeで見せた観光動画でそんなワードを聞いた気がする。
「ごめん、大事な荷物を預かってもらえるかな!」
「荷物その1です」
「その2です」
パイロットふたりは自由落下と空中機動の繰り返しに疲れ切ったようで、ぐったりと力なく自己紹介する。
でもこんな状況で軽口に付き合えるくらいには元気なのかも。
フェンリルがおれの首根っこを甘嚙みして捕まえたことで「ぐえっ」と情けない悲鳴をあげてしまう。
主人を背中に乗せるような健気さは期待できない子だった。
『にもつ、まずそう。どこにすてればいい?』
「食べないで。捨てないで花畑に隠してきて」
「食べないでください。
「いろんな管とか金属とかついてるから喉に詰まるよ」
目に入るモノを食べられるか食べられないかで判断する子だから、冗談なのか本気なのか分からないので、とりあえず食べちゃダメと言いつけてしておく。
パイロットふたりは顔を青ざめさせたまま、ずっとぐったりして身じろぎもしない。
『うーん、おっけーべいべ。でも、ごすずんは、あっち』
「フェンリル、なんでおれの背中に足を乗せた? なんでおれの背中に乗った?」
鎧に爪と肉球が乗った時の独特な音と感触が背中に伝わってくる。
この子が生まれたばかりからの付き合いだから、じゃれてきた時はすぐにわかる。
『まほうでこうげきされるといたい。フェンリルは、いたいの、やだ」
「フェンリル、君のご主人も痛いのはイヤだよ。だから教えてほしいな、なんでおれを盾にするように背中に乗った?」
視線の先には、さっきこちらを攻撃してきた冒険者たちの群れが見えている。
『ごすずんは、たてじゃないよ。ふみだい』
「フェンリルーッ!」
空中で器用にもおれの身体を踏み台にして、フェンリルが跳躍した。
運動の第3法則、作用と反作用の法則に従って、大ジャンプを決めたフェンリルとは逆方向に、おれの身体が弾き飛ばされる。
帰ったら覚えておけよ。三日間オヤツぬきだぞ。
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