《盗賊》の仕事はカギを開けるだけじゃない。
トレインだね!
どうしようか?
にげようかな?
そうしようか!
「まぁ、逃げたくても囲まれてるんですが」
「恐竜さんどっかいってー!」
「こらこら花形さん、声を荒げたらモンスターに気づかれますわよ」
雑なお嬢様言葉はすごくイラっとする。
サキちゃん、覚えた。
私はそういう口調を使わないでおこう、っと。
「やはりここは突破あるのみと考えます」
「うーん、まぁ、ひとりだけなら……」
鎧兜に手を当てたタマちゃんが考え込む。
理由は分かり切っています。
私が足手まといになっているんです。
「わかります、よーくわかりますよ。その気持ち」
「急に語りだしたぞ」
「ですが私も忍者の端くれ、侮られたままでは忍者の名折れ」
「急に忍者になったぞ」
:急にラップを刻みだしたぞ
:人間って追い込まれると変なことするよね
:俺もトレインに巻き込まれてプテラノドンから逃げながら配信を見てるわ
:お前はスマホしまって逃げろや
「これでも日本では忍者村の生徒として数々の修行をこなしてきました。見ていてください!」
「それって観光地のアトラクションじゃないかなー!?」
指で印をむすぶ。
臨から兵へ、闘から者へ、皆陣列在前まではササッとショートカットして九字護身法の印をむすぶ。
最後にむすぶ前の印は、別名を
その名前のとおり、自分の身を隠したい時に使う印。
つまり忍者の隠れみの術につうじる。
「どうです? 見えますか?」
「急に体が透けてござるな。ほんとにそこにいる? 声は聞こえる」
背中をかがめたタマちゃんが私と目線をあわせてじーっと見つめてくる。
隠形は成功。
あとは仕上げをご覧じろ!
「花形サキ、ロールは《盗賊》、──暗殺、いってきます!」
「すごい元気にぶっそうなこと言ってる」
:そもそもソロ専が正面から戦うわけないだろ
:ひとりでステルスプレイやってんだわ
:やはり隠密からの暗殺こそが至高
タマちゃんの兜がちょうどいい位置にあったので蹴るようにして上空に飛び、さらに木の幹を蹴って距離を稼ぎ、枝を蹴って前へと飛び込む。
後ろで「グエーッ!」と叫んでいる勇者は無視します。だってちょうどいいところに硬くて大きいものがあったから反発力で三角飛びの勢いをえられそうだったんだもん!
「数、6! ヴェロキラプトルの群れとみました!」
セパソスだとポピュラーな敵だ。
一体一体はそこまで強くないけど、知能が高くて、ヴェロキラプトルを狩ろうとしていたはずが冒険者が逆に狩られることもある強敵の一種。
でも、たくさんいるということは攻略情報もたくさん集まるというわけで、弱点から攻撃パターンまですっかり丸裸になっています。
空中に飛び込みながら体をひねって微調整。
新体操めいた動きで、うまいこと恐竜の頭の上におりられる位置に体をもっていく。
「──?」
違和感を覚えた個体が上を向く。
でも、もう遅い!
「舞うよ、《
自分に《強化》をかけ、花吹雪めいて周囲にアゲハ蝶が舞う。
移動速度上昇、攻撃速度上昇、テンションもアップ。
ヴェロキラプトルの鼻先をアゲハ蝶の鱗粉がくすぐった。
「ひとーつ!」
空中からのかかと落とし!
上を向いた恐竜の顔面をかかとで蹴り砕く!
:意外と重そう
:細いけど胸の重量がね
:デカいからね。どことは言わんけど
「女の子は羽毛より軽いんだぞー!」
ヴェロキラプトルの顔面をそのまま足場にして、また空中に飛び出す。
周囲の恐竜もこちらに気づいてまずは距離をとろうと動き出した。
でも、
「私よりずっと遅いよ!」
バックステップをふんだヴェロキラプトルの頭を蹴る!
蹴る、蹴る、蹴る。
回転蹴りの連打で恐竜をだまらせる。
ソロで戦うために必要なのは、相手に
一撃目の蹴りは、二撃目の蹴りに繋がるコンボの始動技で。
二撃目の蹴りは、三撃目の蹴りに繋がるコンボを繋ぐ技で。
回転蹴りの中で、双剣を抜く。
「全員倒れるまでやめないぞ!」
切る、蹴る、切る、蹴る。
切る、切る、首を切り落とす!
ヴェロキラプトルの群れをせん滅ー!
「どうだー! 私だってこれくらいはできるんだぞ!」
ドローンのカメラに向かって勝利のVサインを決める。
:ソロで1PTせん滅はおいしい
:奇襲しても普通はソロで倒し切れないのよ
:自分をチート持ちと勘違いして野垂れ死ぬ冒険者のおおいことよ
「伊達や酔狂でソロをやっているんじゃない!」
最初はドロをすすり木の根をかじるような苦しい下積み生活だったけど、慣れてくればこんなもの!
そんじょそこらの群れに負けるもんか!
:あとは身長が高ければな……
:どことは言わないけど胸が大きいからいいけど……
:背が小さくても『ぺえ』がでかければいいだろ!
:おれはデッカイお姉さんがソロで無双していると嬉しいです
「うるさい! 美少女が戦ってるんだからそれでいいでしょ!」
「その美少女さんに聞きたいんですけど」
草むらからノソノソとフルアーマー・タマちゃんが出てきた。
手にはスマホ、たぶんギルド公式アプリを開いてる。
「なんですか、今なら半分は機嫌がよくてもう半分は機嫌が悪いので、内容次第ではおこりますよ?」
「アプリの見方がわかんなくて、ロリ巨乳の美少女さんに見てもらいたいです」
「しょうがないなー。そんなに褒められたら見てしんぜよう」
スマホをのぞきこむ。
ギルド公式アプリの《ダンジョンもぐる君》だ。
セパソスのような多くの冒険者が挑んできたエリアはMAPが作られていて、ダンジョン内でもアプリを見れば自分がどこにいるか分かるようになっている。
そんな《原始密林セパローベソス》のMAPが赤くなっていく。
スタンピード中のMAPはそれで群れの進行方向が警告されるんだけど……
「この真っ赤なやつ、こっちに近づいてきていない?」
「近づいて……きてるね……」
「やばくない?」
「やばい……ですね……」
スタンピード中のMAPで赤い群れが自分たちに向かってきている。
それは、《大氾濫》で暴走しているモンスターの最前線が自分たちに向かってきていることを示している。
つまり、今の私たちは。
「ぜ、絶対絶命かも」
ソロ専のいいところを見せようと、ヴェロキラプトルのPTと戦ってる場合じゃなかった!
「花形さん、あんたもしかして……」
:コラボで浮かれちゃってたのかな?
:いい感じの男の子と冒険できてテンション上がっちゃったんだよね
:わかるよ
「うるさい! 私だってさぁ! 好きでソロやってたんじゃないんだよ! いいじゃん! たまには舞い上がっちゃっても!」
「分かった、分かりましたから。こっちもコラボしてもらえてうれしいんですから、今からどうするか考えましょうよ。おれは《大氾濫》と遭遇するのは初めてだから分からないんで」
千頭を超す恐竜たちの群れがすべてをなぎ倒して向かってくる中、ダンジョン内でボッチをやっていた私は涙目で叫んでいました。
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