第65回・川辺町怪獣祭りのホライゾン

島崎町

第65回・川辺町怪獣祭りのホライゾン

  1


 怪獣が姿を現したとき、人々はいっせいに声をあげた。

 驚きと喜びと、わずかに落胆が混じった歓声だった。

 怪獣が歩き出したとき、声はさらに大きくなった。

 1歩、2歩、大地を踏みしめ、怪獣は進んでいく。

 人々も歩き出し、怪獣と並んで歩いていく。

 大国道だいこくどうの突き当たり、爆神地ばくしんちを目指して。



  2


 ヒタルは人の間をかき分けながら進んだ。

 怪獣ははるか向こう、小学6年生の身長ではうしろ姿すら見えない。

「ヤス!」

 うしろに声をかけるが返事はいない。

「ヤス! どこ?」

「ここだ!」

 ぎっしり詰まった人の壁、その向こうから声がする。

「どうしたんだよ! 置いてくよ!」

「待てよ!」

 ヤスがひょっこり顔を出す。

「なにしてんの? 早くしてよ!」

「おまえ、怪獣見たのか?」

「見てないよ! だから早く!」

 ヒタルは走り出す。



  3


 幅300メートルの大国道だいこくどうは、怪獣のためにできたものだった。

 簡易なアスファルト舗装で、壊されてもすぐに復興できる。

 徒歩で渡るのは困難で、人々は専用のバスに乗って横断した。

 怪獣が通りすぎると、何台ものバスがいっせいに発車する。

 対岸目指して、まるで魚のように。



  4


 観光客の一部はバスに乗り、対岸へ渡っていった。

 だけど人が減ってもヤスは遅れた。

「なんだよ、怪獣見たくないの?」

 ヒタルはイラついていた。

 ヤスはすまなそうにうつむいてる。

「ヤス、どうしたの?」

「……」

「なんか隠してる?」



  5


 川辺町かわべちょうの被供は何十年にも渡り、管区の中では御蔵町おくらちょうに次ぐ長さだった。

 獣称「川辺の怪獣」は、年に一度、みそぎの季節にやってきて町を破壊した。

 そのたびに町は復興し、壊され、また復興した。

 だが新号54年、弦田げんだ博士の発見により状況は一変した。

 博士は、怪獣の目的を突き止めたのだ。



  6


「そんなことねーよ」

 ヤスは否定したがあやしい。

「それよっか行くぞ!」

 ヤスは怪獣を追って走り出した。

 怪獣はもう、20ガロ先まで行ってしまっている。

 ヒタルも追おうとした、そのとき。

 大国道の横に伸びる枝道しどうに、赤い色の服が見えた。

 まさかと思って見つめると、少女は暗がりに消えた。

「花!」

 ヒタルはあとを追った。



  7


 怪獣はわけもなく暴れているのではなかった。

 引き寄せられていたのだった。

 弦田博士はそれを磁石に例えた。

 怪獣はひとつの磁源で、もうひとつの磁源が町にあり、そこを目指してやって来る。

 磁源――のちに御神態ごしんたいと呼ばれることになるそれは、人だった。

 怪獣は磁源に引き寄せられ、たどり着くと喰らい、帰っていくのだ。

 弦田博士は全国の獣管区を調査して奇妙な一致点に気がついたのだ。

 毎年の被供者には共通点がある。

 行方不明者に必ず、10歳の女の子が含まれていたのだ。



  8


 ヒタルは枝道を走った。

 新町から古町へと景色は変わっていく。

 木造作りの古い住宅街、その角を赤い服の女の子が曲がった。

 たしかにあれは花だ。

 1年以上顔を見てないけど、間違えようがない。

 ヒタルが角を曲がったとき、目の前にいた。

「うわっ!」

 驚いて立ち止まる。

 狭い行き止まりだった。

「なによ」

 花が言った。ふん! と鼻息が荒い。

「もどってきたの?」

「今日だけ! アイツを見ようと思って」



  9


 獣撃計画は、翌年、早くも実行された。

 しかるべき場所に磁源を配置し、怪獣をおびき出し獣撃する。

 この計画に、それまで必戦必敗だった獣軍も活気づいた。

 聖令にもとづき町の一部を接収し、広大な更地を作り怪獣を待ち受けた。

 がい地――のちに爆神地と呼ばれるようになるその場所の、最央部におとりとなる磁源を置いた。

 すなわち、10歳の少女を。



  10


「花じゃねーか!」

 ヤスも驚いた。

 ヒタルと花が大国道に戻ると、人はまばらだった。

 みんな、怪獣と一緒に爆神地を目指しずいぶん先へ行っている。

 ヤスはもぐもぐとなにか食べていた。

「ヤス、なに食べての?」

 ヒタルが言うと、ヤスはずいと差し出した。

「怪獣まんじゅう。そこで売ってるぜ」

 大国道の沿道には、怪獣祭りにあわせて露店が出ている。

「怪獣まんじゅう」「怪獣くじ」「怪獣キーホルダー」

「おまえも食うか?」

「食べないよ」

「花は……」

「絶対食べない」

 花が、憎しみに満ちた目で怪獣まんじゅうを見つめた。

 白い表皮に怪獣の焼き印が押されていて、怪獣の横には小さな人形ひとがたもあった。



  11


 新号55年、第一次獣撃計画は大成功だった。

 例年どおり御蔵町おくらちょうに現れた通称「オクラ」は、一直線に磁源に向かい、がい地におびき寄せられ獣軍の一斉放射を浴びて獣滅した。

 磁源として選ばれた当時10歳の神部かんべ宣子のりこ(のちに女性初の獣軍長となる)までは20ガロの距離しかなかったが、宣子はまったくの無傷であった。

 弦田博士により判明した、磁源を目前にした怪獣が一時的に獣力を弱める「退源効果」も幸いしたのだった。

 獣史史上、最も効率よく退獣せしめたこの出来事は、今でも「御蔵の奇跡」として人々の記憶に刻まれている。



  12


「花、ここにいたの?」

 大人の女性の声がした。

 爆神地の方から歩いきたのだろう、数人のグループがやってくる。

「高倉さん」

 花が言った。

 グループの何人かがプラカードや横断幕を持っている。

 なにが書かれているのかヒタルにはわかっている。

 これまでずいぶん見てきた。『怪獣を救え!』『SAVE THE KAIZYU』『怪獣にも獣権を!』

 今年は用なしだったはずだけど、いちおう持ってきたんだ。

「アイツ、もう見た?」

 高倉という人が花に言った。

「はい」

「じゃあもう行こう」

 花はうつむいた。



  13


 獣撃計画が祭化した最初の事例には諸説ある。

 今では各管区の様々な町が「初代」「ファースト」「ミレニアム」などを名乗っている。

 獣撃計画は「御蔵の奇跡」以降も各地で獣利を重ねた。

 怪獣は各地で毎年決まった時期に現れ、なすすべもなく獣滅されていった。

 大国道の整備後、安全面も充実してからは、獣撃計画は格好の見世物となった。

 沿道には人があふれ、露店が並んだ。

 当初は獣軍が担っていた怪導担当も民間に委ねられ、地域の有志らで結成された獣呼ぜこと呼ばれる一団に代わった。

 獣呼は数十人で徒党を組み、大小の槍(長さに応じて一番突つき、二番突などと呼ばれる)を駆使した。

 怪獣が進角を変えるとすばやく突き従がわせ、爆神地まで獣導した。

 獣呼は祭化した獣撃計画の花形となり、獣史じゅうし獣呼伝には多くの名獣呼の名が記されている。

 獣撃計画はすべてを一変させた。

 人、物の被供は限りなくゼロとなり、怪獣は富を生み出すものとなった。

 唯一、新号74年、川辺町で起きた惨獣事故を除いては。



  14


「この子たち、知り合い?」

 高倉は、ヒタルとヤスをアゴで指した。

「高倉さん、この子……」

 グループの一人が耳打ちした。

「ああ、怪我した獣呼の子ね」

 ヒタルはドキッとした。

「ヒタル、行こうぜ」

 ヤスが言った。

「お父さん元気? 治ったの?」

「ヒタル!」

 ヤスが腕を引っぱった。

 ヒタルはなにも言えなかった。

「変な子。花、もう行きましょ」

 そのとき、大国道を軽トラが走ってきた。



  15


 新号74年、川辺町に獣来した怪獣は、大国道を27ガロ進んだところでかしいだ。

 本来ならすぐに獣呼が突き従わせるところだが、沿道には人があふれ、大国道まではみ出した露店が獣呼をはばんだ。

 怪獣にとってはわずか0.2ガロの傾ぎだったが、速度6バルの巨体が人、露店、住居をかすめただけで、惨獣な事態を起こすこととなった。

 死者11名、怪我人39名(その中には獣呼一名が含まれる)。

 数十年前の、まだ獣撃計画がはじまる前を思い起こさせる被供だった。

 死者の中には、その年、御神態ごしんたいとして置かれていた少女の両親もいた。




  16


 軽トラはヒタルたちの前で止まった。

 荷台には大人が数人乗っていて、スピーカーから大国道戒厳令の解除放送が流れている。

「おう、柿崎んとこのセガレじゃねえか」

 胸章に「川辺町怪獣祭り実行委員長」の文字を持つ男がヒタルに話しかけてきた。が、すぐに高倉たちのグループに気がついた。

「おめらなにしてんだ!」

「あなたたちが獣権守ってるかどうか監視に来たのよ!」

「怪獣なんか一匹もいおらんよ! おめえらのおかげでな!」

「よかったよかった! 川辺も御蔵も皆戸みなとも、全部そうするからね!」

「なにおう!」

 またたく間ににらみ合い、罵り合いになった。

 一触即獣、どちらかが手を出すのは時間の問題だった。

 そのとき。

 パッと世界が瞬いた。

 まばゆい光りがあたりを染めたかと思うと、ドオンという音と空気の波動が襲いかかり、ヒタルはあやうく飛ばされそうになった。

「実行委員長、もうぜがはじまってますよ。爆神地に急がないと」

 荷台に乗る男が言った。

 ヒタルが爆神地の方を見ると、1つ、2つと光りが増えていく。

 爆ぜだ。獣軍による獣撃がはじまったんだ。

 実行委員長はヒタルに手をのばした。

「おまらも乗っていくか?」

 ヒタルは花を見た。

 花もヒタルを見ていた。



  17


 惨獣事故をきっかけにした獣撃計画反対運動は、川辺町を揺るがした。

 被供遺族の活動はもちろん、それまで下火だった怪獣の権利――獣権を主張する一団をも活気づかせた。

 そして両グループは手を結んだ。

 被供者遺族であり、その年の御神態ごしんたいであった長尾花(当時10歳。のちに怪獣研究所に入属。退所後は川辺町に戻り生涯を終える)を反対運動の御旗みはたにした。

 世論は反対派に傾き、町長は堪えきれなくなった。

 町長は獣撃計画停止を決断。怪獣は川辺町に途上する前に、海洋に誘導されニュークリアで獣滅されることとなった。

 しかし、川辺町の怪獣祭りは途絶えることはなかった。



  18


「乗ります!」

 ヤスが返事をした。

「バカ、勝手に言うなよ!」

実行委員長はヒタルとヤスを掴んで荷台に引き揚げた。

「出せ!」

 その声で軽トラが走り出す。

「花!」

 ヒタルが手をのばす。

 花も手をのばしたように見えた。

 だけど花はどんどん遠くなっていく。

 どんどん小さくなってき、ついに見えなくなった。



  19


 祭りの代替案はいくつも出た。

 しかし怪獣なしの祭りはもはや祭りではない、という意見が大半だった。

 川辺町は試行錯誤を繰り返し、1年の休止ののち、第65回の怪獣祭りは怪獣ありの祭りとなった。

 どんな形でもいい。

 怪獣なしでは祭りではないのだ。




  20


 明かりや音がどんどん近づいてくる。

 花火のように爆雷が爆ぜる。

 体中にドオン、ドオンと音が響く。

 ヒタルとヤスを乗せた軽トラは、大国道の両岸で詰まっている通行人をぐんぐん抜き去っていく。

 そして、ついに、

「あれだ!」

 ヤスが叫んだ。

 ヒタルの目にもハッキリ見えた。

 ついに、怪獣が姿を現した。

 爆神地の央部で、色鮮やかな爆雷を浴びる巨大な物体。

 身もだえしながら体を振る動きはぎこちないが、ぐおおおおおおお!! という鳴き声は在りし日のままだ。

 獣規制線により100ガロ離れた爆神地の入関口で、人々は見つめている。

 怪獣がこしらえられる姿を。

 光りが上がる、爆音が響く、怪獣の鳴き声が聞こえる。

 だが、軽トラの荷台でこしらえをつめるヒタルには、その光景が空虚に見えた。

「本物の怪獣じゃない」

 ヒタルは言った。



  21


 記録によると、第65回川辺町怪獣祭りの動員は、前回祭りと比べて微減程度に収まった。

 新趣向に話題性があったため、一度目は関心をつなぎ止めたのだ。

 しかし、以降は減りつづけた。

 奇矯な趣味や研究目的で訪れる者はいたが、それもわずかばかりだった。

 今日こんにちでも獣撃計画は各地でつづいているが、怪獣を模したものを代わりにこしらえる供儀は川辺町といくつかの町でしか確認できない。

 特に川辺町の代替怪獣は、当地の名産であった「干木ほしのき」で骨格を作り、表皮はみつなめした怪獣の実物を使っていた。

 また、模擬的にこしらえられた代替怪獣が、録音された往年の鳴き声を響かせる様は人々の郷愁をそそったという。

 だが、今ではそれもホライゾンに代わり、代替怪獣の伝統は途絶えてしまった。



  22


 ヒタルが軽トラの荷台から降りたとき、怪獣の断末魔が聞こえた。

 見ると、怪獣の表の皮が、ベラベラと剥がれ落ちていく。

 作りものなんだ。

 次の爆雷――あれも花火だ――で、示し合わせたかのように、怪獣は前のめりに崩れていく。

 表皮の隙間から木の骨組みが見えた。

 わえられたスピーカーも丸見えになり、雑音混じりの鳴き声を吐き出している。

「倒れるぞ!」

 誰かが言った。

 だけど、いつもなら腹にこだまし全身を震え上がらせるあの振動がヒタルには感じられない。

 怪獣はいない。獣撃はここにはない。

 怪獣は、光りと音と歓声の中、聞き分けのいい死を迎え、大地に沈んだ。

 わあ! と歓声が上がった。

 いつもなら、われ先にと怪獣へ群がり、血や肉を簒奪せしめる人々だが、この怪獣には青い血も黒い肉もありはしない。

 代わりに、祭りの実行委員たちが、包装された餅を空高く投げている。

 餅が、赤く染まりはじめた空に舞う。

 落ちてきた餅をみんな拾っているが、ヒタルはそんな気にはなれない。

 ヤスが荷台から降りて、ヒタルに餅を差し出した。

「ほら」

 怪獣の彩色がされた、怪獣餅だった。

「いらないよ」

「1年健康でいられないぞ」

「怪獣の血肉じゃないだろ」

「ちぇっ」

 ヤスは自分のポケットに突っこんだ。

ヤスの背後から声がした。

「ヤス坊、帰るぞう」

「お父さん」

 ヤスが言った。

「お、ヒタルか」

「あ、こんにちは」

 ヤスの父も以前は獣呼ぜこだった。

「柿崎さん、いるのか?」

 少し悲しそうな顔をして聞いてくる。

 ヒタルはそういうのが嫌だった。

「浜に行ってる。祭りは見ないって」

「そうか」

 ヤスのお父さんが怪獣の方を見た。

「あれはニセモノだってか。柿崎さんらしい」

 ヤスのお父さんはヤスの頭をぐしゃぐしゃ掻いた。

「聞いたか? あのニセモノも、そのうちなくなるかもしれないとよ。それで、ホライゾンとかいう映写に代わるかもってよ」

「ホライゾン?」

 ヤスが言った。

「記録したのを映すんだとよ。本物の怪獣はなくなってよ、ニセモノの怪獣もなくなってよ、最後は映像だけの怪獣になるんだってよ」

 ホライゾン。ヒタルははじめてその言葉を聞いた。

「ヤス、最後の祭り、ちゃんと見たか?」

「最後?」

 ヒタルはその言葉に引っかかった。

「なんだ、言ってなかったんか? 引っ越すんだ。もうこの町には戻ってこんよ」

 ヒタルはヤスを見た。

「ごめんな」

 ヤスは顔を上げずにそう言った。

「ごめんな」

 もう一度。



  23


 結果的に、川辺町がなくなったあともホライゾンはのこりつづけた。

 これは、ともすれば獣撃計画の華々しさのみが照射される獣史においては、多層を映す外伝と言っていい。

 今日こんにち、怪獣の遡数そすうはしだいに減りつつあって、獣撃計画の伝統維持、あるいは怪獣自体の保護の観点からも新たな共生が言われつつある。

 今はもう姿を消した川辺町怪獣祭りのいにしえは、その一助となる可能性を秘めている。



  24


 ヒタルは、ひとり大国道を歩いた。

 露店は撤収作業を終え、怪獣まんじゅうの包装紙だけが風に吹かれて飛んでいた。

 大国道の始点まで歩き通すと、大海原の向こうに日はもう沈みかけていた。

 簡易アスファルトから砂浜に代わっても、ヒタルは歩きつづけた。

 そうして海を眺めたときに、もう一人いることに気がついた。

「お父さん」

 ヒタルは声をかけた。

「ああ」

 目はじっと、海の向こうを見つめている。

 ヒタルは父の横に並んだ。

「なに見てるの?」

 父は答えなかった。

 ふたりはじっと、同じ方向を見ていた。

 太陽はもう海に消え、余韻だけがぼんやりあった。

 そのとき、空と海の境目でカチリとなにかが光った。

 あっ、とヒタルは思った。

「終わった」

 ぼそりと父が言った。

「なにが?」

「祭りだ」

 父は背を向けて帰りはじめた。

 父の右足のスピンドルが、キュウキュウこすれて音をたてる。

 ヒタルは父の右側に寄り添い、支えながら一緒に歩いた。

 ガクガクとした揺れが、ヒタルの体に響いた。

「お父さん、ホライゾンって知ってる?」

「記録の映写だ」

「怪獣はニセモノになって、ニセモノもいつかホライゾンになるかもって」

 キュウキュウと音がした。

 父が笑ったのか、スピンドルの音なのかはわからない。

「ホライゾン……」

 父は言った。

「怪獣だけじゃないぞ。祭りもそうなる。ホライゾンにすれば全部残せるんだろ」

 キュウキュウという音は、今度は笑い声だとヒタルにはわかった。

「それだけじゃない。この町も、人も、俺も、おまえも、いつか全部、そうなるんだ」

 父はそこで立ち止まった。

 砂浜から大国道に出た場所で、なにも言わずに見つめている。

 祭りの終わった、わが町を。

「お父さん」

 ヒタルは言った。

「帰ろう」

 スピンドルが回りはじめ、父とヒタルはまた歩き出した。



  25


 第65回・川辺町怪獣祭りのホライゾンは、ここで終わっている。

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