生首と修道士

高橋志歩

【1日目 むかしばなし】

むかしむかしのむかしばなし。


まだ神様の教えが空と大地を覆っていた時代。 ドナトスという名前の若い修道士が一人で旅をしていました。彼のいた修道院は火事によって焼け落ちしてしまい、そこで生活していた修道士たちは各々縁のある各地の修道院へ移ることになったのです。


ドナトス修道士は、故郷の修道院ではなく、遠い国の修道院を目指すことにしました。その国には神の代理人が座る壮麗な大教会もあると話に聞いていました。今まで真面目に勉学と祈りを続けてきた彼が行けばきっと受け入れてもらえるでしょう。


ドナトス修道士はもっと偉くなろうと心に決めていました。

偉くなれば神に近づけると彼は信じていました。


そこでドナトス修道士は僅かな荷物を入れた袋を背負い杖をついて旅に出ました。

目的地までは長い年月がかかりますが、これも修行です。


ある日の夕方、小さな村に辿り着きました。

村の中央には小さな教会が見えます。ドナトス修道士は一晩泊めてもらおうと教会の扉をたたきましたがそこは無人で荒れ果てていました。

どうやら襲撃され全て奪われた挙句に放置されたままなのでしょう。村人にも教会を修復する余裕は無さそうです。ドナトス修道士は悲しく思いながら藁と小石の散らばった床を踏んで天井を見上げました。


すると。どこからか、コトコトという音と歌声のようなものが隅の方から聞こえてきました。

隅には祭壇があります。ドナトス修道士は不思議に思い、かつ警戒しながら近づきました。もしかしたら悪魔の悪戯かもしれませんからね。

音は祭壇の下から聞こえてきます。見た目よりも軽い祭壇を動かしてみると、空洞があり中には宝石と金で飾られた立派な箱が置いてありました。ドナトス修道士は驚きました。もしやこの箱は聖遺物箱?


彼が固まっている間にも箱は揺れて中から歌が聞こえてきます。しかしやがて歌は「おーい出してくれー」という男の声の呼びかけに変わりました。まさか人間が?こんな小さな箱に?と怪しみつつドナトス修道士はそっと鍵のかかっていない蓋を開けました。


そこには金髪を振り乱した生首が彼を見上げていました。


生首は、目をぱちぱちさせています。

「はあ、やっと出られたようだなー。あんたは坊さんか?とりあえずぶどう酒でも一口飲ませてもらえんか?」

でもドナトス修道士は聞いていませんでした。 彼は気絶していたのです。


これがドナトス修道士と生首コスドラスとの出会いでした。

(つづく)

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