打木小麦さんはメンクイ(麺食い) ~ラーメン嫌いだった私がラーメンオタクはじめました!

えーきち

プロローグ

第1話 久しぶりのラーメン

「どうぞ、淡麗醤油煮干らぁ麺の特製盛りです。器、熱いのでお気をつけください」

 トンッとカウンターに置かれたどんぶりを恐るおそる両手でおろすと、立ちのぼる白い湯気にのって煮干しのとてもいい香りが私の鼻先をふわりと撫でた。

 白いどんぶりには、キラキラと輝く澄んだ琥珀色のスープの海に、綺麗に折り畳まれた細麺が白波のように漂っていた。

 美しく飾られた味玉と三枚のチャーシュー、その上には荒みじんにされたタマネギに、彩りを添える豆苗。

 私はこくりと生唾を飲み込んで、カウンターの向こう側にいる白いタオルを頭に巻いたおじさまに小さくおじぎをする。すると、彼は目を細めてにこりと笑った。

 半透明のビニールに入ったお手拭きで手を丹念に拭いて、カウンターの手前に置かれた二段の小さな引き出しから黒い箸と白い陶器製のレンゲを取る。

 ついお店に入ってしまったけれども、ラーメンを食べるのなんて本当に久しぶりだ。

 前に食べたのは四年……いや、五年前……

 そう、私がまだ大学生の頃の……あの日……

 急に胸に黒いものが込み上げてくる。

 額に嫌な汗が浮かび、箸を持つ手が小刻みに震えてくる。

 動悸で胸が痛い。心臓がいつもの二倍は早く動いている。息が苦しい。

 最後にラーメンを食べたあの日……

 私はラーメンが大嫌いになった。

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